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57 オリヴィエの冒険


「冒険者オリヴィエ。リュミエールという国は面白いか?」


プラントル国王にそう問いかけられたお姉さまは、一歩前へ進み出て答えた。


「……国王陛下、あなたは私が魔物と戦ったり、未開の地でオークやゴブリンと戦うことが面白いと思っていると思われているのですか? だとしたら違います」

「では何をもって冒険と言っている」

「私にとっての冒険は、未知なる世界に足を踏み入れることです。人の住まない土地へ向かい何千年何万年も昔の遺跡を探したり、ドラゴンが眠るという洞窟に入って宝探しをしてみたり、呪われた土地や死の渓等、人々が恐れる場所が何故そう呼ばれるようになったのかを調べたりしています。つまり普通の人がやらないことを冒険と呼んでいます。魔物を始め、オークたちと戦うのは必要に迫られた時のみですし、基本的には避ける方向でいます。ただそれがその土地に住む人を襲うようでしたら倒すのも役目と思っていますが、そんな危険はない方がいいと思っています」


うんうん、と頷きながら聞く。オリヴィエの冒険というものはそういうものよ。時に宝探し、時に人助けから謎解きと、自分たちの興味のあることなら何でもやる。だけど、余計な殺生はしない。

オークやゴブリンを倒すことに、罪の意識を感じているわけではない。それでも自分たちから襲いに行くようなことは絶対にしない。オリヴィエにはオリヴィエの冒険者としての矜持がある。

そしてその矜持や考え方は、私を時に驚かせて不安にさせることもあるけれど、それでも最後には安心と共感を与えてくれる。だからみんなオリヴィエが大好きで、沢山の読者に受け入れられてきた。

そんなお姉さまの冒険をバカにしないでほしい。


「だがそれなら何故リュミエールの国内は冒険しない。この国にも未踏未開の地は多くあるだろう。魔物らに出くわさない分無駄な危険もなく殺生もせずに済むぞ」


国王の言葉に、みんなが少しだけ確かにと思って問い掛けられたお姉さまを見た。そんなの、家出同然でエドワーズの家を出たから見つかって引き戻されないように国外に出ただけじゃない。

お姉さまだっていずれほとぼりが冷めたらリュミエールで遺跡探検したりするもの。


「…………それは……」


お姉さまが言い淀むのを見るのはこれが初めてだった。いつでも明朗快活で、考えるより先に口と体が動く人なのに、今は拳を握り締めて唇を噛むので私の方が驚いてしまう。

まさか、国王の言う通りお姉さまは無意識のうちに危険を好んでいたというの?


「そう言われてしまうと、確かに冒険の中に多少の危険やスリルを求める気持ちはなかった。とは言い切れないわ……」

「馬鹿正直者だな。ということは、このイカれ赤目に関わったのも日常に刺激を求めたからだろう。人間というものは平和にすら飽きるからな」

「なんてことを……!」

「何も知らないくせにお姉さまを悪く言うな! この大ボケ王が!!」


オリヴィエがどれだけリアナを心配していたか知らないくせに。何度父親に幽閉をやめるよう掛け合ってその度に同じように閉じ込められてきたか。それでもリアナの部屋へ通うことを止めなかったことを知らないくせに!

誰からも愛されず言葉の遅れたリアナを心配して、沢山声を掛けて文字の読み書きまで教えたオリヴィエの姿を見てないくせに!

何度叱られても、凍えるような冬の日はリアナの寒い部屋で一緒に抱きしめ合って寝ていたことすら、刺激を求めてしたことだって言いたいのか!


「お姉さまの冒険をお前が平和を乱すことの正当化に使おうとするな!」

「調子に乗るなよ貴様あ!!」

「ちょっとリアナやめなさい」

「リアナ!」


もういい、話の出来る相手だと思っていたけれど、口から出てくる言葉はしょうもないことばかり。国王は本音で話しているようでまだ何か隠している。

それが何なのか、聞き出すなんてまどろっこしい真似はやめた。力づくで引き摺り出させる。


「お前の全てを見せろ、プラントル国王」

「待てリアナ私も!」


国王に向けて赤目の力を使うのとほぼ同時に、ヴェール様が私に抱き着いた。というか前脚でしがみつかれた。


「……!!」


国王の真意なんてヴェール様には見せたくなかったのに、もうダメだ。力は発動してしまっていて、ドクンと心臓が大きく打ってすぐに目に鋭い痛みが走る。

視界一杯に、頭の中に国王の過去が流れ込んでくる……――



――――――――


その昔、リュミエールを建国した二人は自国の民に平和をもたらすため、神より二つの宝物を賜った。一つは魔物を寄せ付けぬ光の剣。一つは王を脅威から守る光の盾。

しかし時が経つにつれて光の盾の使い方に変化が起こった。今では光の盾というのは名ばかり、実体は負の盃とでも言ってしまう方が正しかった。

国民により質の高い平和と幸福を求めた何代も前のローレンス公爵の作り出した歪みは、やがて自らの身を亡ぼすほどの自己犠牲を強いるものとなり、子々孫々までもを苦しめている。


私が転生し新たに生まれ落ちた場所は、一人の犠牲のもとに成り立つ平和な国という、歪な作りで出来た世界だった。


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