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52 使い鳥の言葉


走って来たお姉さまは、私たちのすぐ目の前まで来ると肩で息をして呼吸を整えた。余程の距離を走って来たらしい。

その間も大きな白い鳥は肩の上で微動だにせず、まるで置物を肩にくっつけているみたいだった。遠目に見た時は真っ白なフクロウかと思ったけれど、間近で見たら全然違って鷹とか隼みたいな肉食の鋭い嘴と体をしてる。まあ、鷹とか隼とか鷲辺りってどう違うのか分からないんだけど……。


「この子は私の使い鳥でね、ミンチョウっていうの。連絡係としてとっても優秀でね。他国にいる冒険のパーティメンバーからの連絡を持って来てくれたのよ」

「ええと、それが私の目に関することですか?」


聞き返すと、オリヴィエお姉さまに一つ頷かれてドクンと心臓が跳ねた。

今度は一体何を知らされるのだろうと思うと、わくわくした気持ちよりも恐怖の方が勝る。聞きたいような聞きたくないような。知りたいような知りたくないような。


「……どんなことですか、お姉さま」


色んな悪いことが頭の中を駆けていって、想像だけで貧血を起こしそうだった。処刑台に上がるような気持で聞くと、お姉さまに両肩を力強く叩かれて正面から大丈夫だと言われた。


「私がついてるから」

「私もついています」


足元に擦り寄ったヴェール様にも言われて、私は強く目を閉じる。やっぱり怖い。知りたくない。

だけどヴェール様が光の盾の運命から逃げられないように、私もこの赤目とは一生の付き合いになる。それなら、知るべきことは知っておかないと。


「ありがとうございます、お姉さま、ヴェール様。私は、こんなに優しい人たちに愛されて幸せ者です」


一つ頷いて、教えてくださいと絞り出す。上擦って掠れた声になってしまって、自分で思っていた以上に緊張していたんだと自覚させられた。

お姉さまの顔を真っ直ぐに見つめると、話し出したのは肩にいる鳥の方だった。


『――……おい聞けよオリヴィエ。お前が気に掛けてた赤い目をした魔女、あの村から消えたんだ。俺たちは別に興味はなかったが、妹の話は聞いていたからな、どうやって何をして何処へ逃げたのか知っておくべきだと思って村に行ってみたんだ。そしたら、村のやつらの大半が再起不能になってやがった……』


明らかに人間の男性の声で話し始めた鳥は、そこまでで言葉を止めてから再び話し始めた。今度は別の男性の声だった。


『俺たちはその中で無事な人を探して、なにがあったのかを聞いたんだ。そしたら魔女がやったと言う。色んな奴に聞いて回って一応推測は立ったから報告しておく……感情と記憶を引き受けるっていう触れ込みの赤目だが、どうやら引き受けたものというのは消えるわけではなく蓄積されているらしい。魔女はそのことを知ってか知らずか溜め込んで溜め込んで溜め込んで、今回一気に体外に放出したらしい』


同じ男が更に続けた。


『魔女は結構な年数、膨大な人数の感情と記憶だ。しかも大抵は苦痛や心の傷、怪我の痛みから殺意まで何でも引き受けることを仕事にしていた。それが一気に外に出たらどうなるかを考えたら、再起不能も理解できる。人間そのものが嫌いになるだろうしな。とは言え故意か過失かは分からないし、一気に放出したっていう魔女が無事で逃げおおせたのか、木端微塵になったのかも分からない。妹も同じ目を持っていると聞いているし、オリヴィエはこの能力を教えると言って抜けていっただろう。使い方は慎重に検討した方がいいぞ』


最初の男の声に戻った。


『俺たちは今まで魔物の目の能力は感情を消し去るものだと思っていたが、実は吸い取られて魔物の力の底上げになっていたのかもしれねえ。妹も上手く使えばかなり強くなるかもしれんが……木端微塵にならんことを祈る。多分大丈夫だろ。魔女の足跡を見つけたらまた連絡する』

『リュミエール、荒れてるみたいだな。こっちまで噂が届いている。大丈夫か? 何かあったら俺たちを頼れよ。仲間なんだから』


そこまで喋ると、白い鳥は嘴を閉じて話は終わりとばかりに羽繕いを始めた。

私は何だか頭がぼーっとして、今言われたことをそのまま受け取って理解するのに必死だった。引き受けたものは、自然に消えることはないの?


「リアナっ!」


足の力が抜けて、立っていられなくなってよろけて尻もちをつきそうになったその間に、ヴェール様が入り込んだ。

その事に気付いたのは、思い切りヴェール様の背中に座ってしまってからだった。


「あ……あ、ごめんなさい、すみませんヴェール様、せ、背中、腰っ、お体大丈夫ですか!? 折れてないですか!?」

「大丈夫、何も問題ありません」


でも、いくら大型犬みたいな大きさだからと言って大人が乗っていいわけがない。慌てて立ち上がると、別に足の力は戻っていなくて結局また倒れそうになった所をお姉さまが支えてくれた。


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……」

「リアナ? そんなに謝らなくても」


困惑した声のヴェール様の声を聞きながら、私は気付けばお姉さまに抱きしめられていた。


「一度に色々聞いて怖くなっちゃったわよね。大丈夫。大丈夫だから。安心してリアナ。私たちがついているわ」


自分の目の力が怖いのか、いつか限界を迎えた時に爆発するかもしれないことが怖いのか、その力に自分が気付いていないのが怖いのか、分からない。

いえ、怖いと思っているのかどうかも分からない。ただただヴェール様の役に立てる力だと思っていたのに、そうじゃないことを知らされて悲しいのかもしれない。

泣きたくなんてないのに、勝手に涙が零れてしまう。どうしてなの。


「リアナ……」


ヴェール様が心配そうな声を出して、足元に擦り寄ってくれる。

……こんなこと、思っちゃいけない。だけど、だけどヴェール様に会いたい。人間の元の姿のヴェール様に。今のお姉さまみたいに強く私のことを抱きしめて、大丈夫だって言ってほしい。頬に触れられて、キスしてほしい。

でもきっとヴェール様もそう思ってるし、辛いはず。自分には前脚しかなくて、二本足では上手く立つことも出来なくて。どれだけ人としての尊厳を奪われているか分からない。

それでも弱音を吐かずに、今もこうして私の心配をしてくれているその姿は、人の時と何ら変わりない。

分かってる。分かってるけどそれでも。


「…………私の目の力、国王を黙らせるのに使えないでしょうか」


早く終わらせよう。そのためなら私は何だってする。


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