47 王宮の記憶①
――――――――
王宮の牢屋に閉じ込められて、一体何日経ったのだろう。一切陽の光が入らない地下のせいで時間の経過が分からない。
手錠は解かれたが首に掛けられた縄は鉄格子に巻き付けられたまま、食事は恐らく日に二度、排泄の時だけ外に出ることを許される。扱いが完全に犯罪者だ。
何をすることもなく、ひたすら浄化の時が訪れるのを待ち続ける。当初の予定ならもうとっくに家に帰り着いていた筈なのに。
リアナに会いたい、会って今すぐ抱きしめたい。あのふわふわの髪に指を絡めてキスをして、庭を散歩してお茶をして、共にベッドで眠りたい。
国王の機嫌を損ねない限りは危険はないとは思うが、どうか何も知らぬまま無事でいてほしい。
……心配しているだろうか。それとも王宮暮らしのパーティ三昧を楽しんでいると思っているかな。走り書き程度の手紙しか書けず申し訳ない。仕事と思ってくれていたらいいのだけれど。
仕事なんて眠る暇がないほどあるというのに、何もさせてもらえないのは私の精神を削るためか?
仕事に没頭すれば、時間の経過も牢屋にいるという事実も忘れられるからか。
食事以外の何も与えず私を精神的に弱らせることで、浄化の頃には気がおかしくなって泣きながら王に縋るとでも思っているのだろうか。
つくづく救いようのない国王だ。あまり関わりはなかったが、先代はああではなかったはずだ。父上と厚い信頼関係を築いてよくお互いに城を行き来をしていたような記憶がある。なのにどうして今の国王と私はこんな関係になってしまったのだろう。
「顔……か……」
プラントル国王は昔から、何かにつけて私の顔についてものを言った。今回もそうだ。醜い姿を見たいと、この国の汚泥に溺れ醜い姿で悶え苦しむ姿を見たいと言っていた。そんなに私の顔が嫌いなのか。
その感情が羨望から嫉妬、そして憎悪へ変わっていくのを見てきた身としては何も言うことが出来ない。私の顔面が炎で焼かれ爛れ堕ちるか、二目と見られないものになれば満足するのだろうか。というかあの男ならそういうこともしそうなものなのだが……。
「う……」
突然の悪寒と少しの頭痛だ。とうとう来た。なるほど、浄化前の前兆はこういう感じか。普段仕事に集中しているとこの程度の体調の変化にはまるで気付かない。
少し寒気がするかもしれないと思いながらも、数秒後にはそう考えていた事すら忘れてしまう。そして失敗して迷惑を掛けてしまう。
このほんの僅かな体調の変化に気付くことが何より大事なのだと、教えてくれたのはリアナだ。彼女はどうしてそんなことに気が付けるのだろう。不思議な人だ……私より四つも年下でまだ幼さの残る顔をしているのに、少しもそれを感じさせない。生きてきた環境がそうさせているのだろうか。
ああ、リアナに会いたい。
無事に帰ってリアナに会うためなら、この程度の仕打ちはなんでもない。
ここで逃せばさらに帰宅が伸びるだけで何も良いことはない。
「ふぅ……」
覚悟を決めて看守を呼んだ。
「あと半日程度で浄化が始まると、国王に伝えろ」