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38 再会


「ねえリアナ、一つだけ約束して頂戴ね」

「何ですか?」

「……公爵がどういう状況にあったとしても、勝手には力を使わないで。ちゃんと私に言ってからにして」


うん、大丈夫よお姉さま。と頷く。先走っていいことなんて何もないし、そもそもこの目の力は万能じゃない。対象者が強い感情を持っていない限りは使いようがない。

それよりはお姉さまの魔法の方が色々どうにか出来ると思う。


部屋を出た後ヴェール様の寝室に向かわなかった時点で分かっていたけれど、やっぱり地下に続くドアの前に案内された。この先の階段を下りて廊下を歩いて階段を上がれば、獣の姿に変じた公爵を閉じ込めておく檻のある部屋に辿り着く。そうでなければいいのにと、どれだけ願った事か。

確か獣の姿で自我を失い続けると、人の姿に戻った後も自分が人か獣か区別がつかなくなって狂ってしまう……みたいなことを以前セバスチャンに教わったっけ。だから浄化中使用人たちが絶え間なく声をかけ続けて、ヴェール様に意識を保ってもらうのだとか。

だけど今は回収が止まっていて、更にセバスチャンもオリビアも檻から離れている。そのことが意味するのは。


「……お姉さま。私怖いです」


地下通路を歩き、その距離が近付いていくにつれて恐怖が増していく。もうこの暗い空間から出たくない。目を閉じたまま何も見たくない。知りたくない。

なのにもう逃げ場はない。

私はこの先階段を上がってヴェール様の現状を知って受け入れるしかない。


足元に気をつけながら階段を踏みしめて上がって、高所にある窓から薄く陽の差す檻に辿り着いた。


「……っヴェール様!!」


檻の中には物を置かない。それは獣となったヴェール様が暴れて破壊したり、怪我をしてしまうと大変なことになるからだ。

だけど遠目に見ても分かる。檻の中にベッドがある。そして誰かが横になっているかのように布団が膨らんでいるのも見えた。

思わずお姉さまの手を放して走り出して檻に近付くと、ベッドの影からぬっと獣が現れた。


「なんっ……で……」


金色の獣は低い唸り声を上げて、私を警戒するように、そしてベッドで眠るヴェール様を守るように前に出て低い唸り声を上げた。

四足歩行でぐるぐると落ち着きなく行ったり来たりを繰り返して、私から目を離さない。鉄格子が無ければ飛び掛かって来そうな迫力だ。視線を躱して奥のベッドにいる人物に目を移すと、横になっていたのはやっぱりヴェール様だった。

そのことに少なからずホッとしてしまうけれど、この状態は明らかにおかしい。有り得ない。二人が、二つの姿が同時に存在するわけないのに。


「ヴェール様……リアナです。覚えていてくれていますか」


獣に声を掛けたけれど、人語を理解していないか私に対する警戒心のせいか反応は全くない。何も聞こえていないかのように歩き回る。

ヴェール様が獣の姿に転じるのは浄化の際だけ。しかも浄化の時には黒い瘴気が全身を覆っていて金の毛並みは殆ど見えない。分裂している事を差し引いても、今の状態はあり得ない。

緊張や焦りで鼓動がどんどん早くなっていくのに息をするのを忘れてしまい、限界を迎えた瞬間息切れしたように荒い呼吸を繰り返した。


「はっ、はっ、はっ、はっ……」

「大丈夫?」

「だい、じょうぶ……ふぅ……ふぅ……呼吸をするのを忘れてました」


お姉さまに背中を擦られて、何度も浅く頷いた。まるで全速力で走った後みたいに心臓がバクバク脈打って中々呼吸が戻らない。まだ状況を認識しただけなのにこのざまとは情けない。

せめて様子をしっかりと観察しようと、もう一度ベッドの上で横になるヴェール様を見る。意識はないのだろうけれど、呼吸はちゃんとしていてゆっくりと胸が上下に動いている。

獣は相変わらず私が誰だか分からない様子で、警戒心丸出しで私とオリヴィエお姉さまを見上げている。ヴェール様の時は二本足でも立てたけれど、四本足のままなのは今そこに人としての意識がないから?

感情を移すとしたらこちらからになりそう。


「……現状についてはご理解頂けましたか?」

「目に映るものだけでしたら、まあ」


隣に立ったセバスチャンに問われて、思ったままを答える。理解? 理解なんて出来てないわよ。ただ、目に映るものをそうだと認識するしかない。

確かにこれはどう説明したらいいか分からない。きっとこうなってしまうに至った理由も、普通ではないことが起きたに違いないわ。

光の盾公爵の力は元々初代ローレンスが初代国王と共に神から授かった特別なもの。人間の常識に当てはめて考えてはいけない。だけど、今が異常事態なことだけは分かる。


「そうだ、光の剣……プラントル国王はこの今のヴェール様の状態をご存知なんですよね? 何と仰っているのですか?」


恐らく国王にとっても初めてのことだとは思う。過去にも同じような事例があればセバスチャンが把握しているか、そうでなくとも過去の文献を読み漁って何らかの対処法を見つけ出しているはず。

光の剣と光の盾は切っても切れない強い絆で結ばれているということだし、今王宮の方では総力を挙げてヴェール様を助ける方法を探しているに違いない。


……よね? 何だかセバスチャンもオリビアもすごい顔をしているけれど……


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