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3 リアナの赤い目


私のことを出迎えてくれたローレンス卿は、魔物の色である赤い瞳をルビーのようだと形容してくれた。

スマートで背が高く顔が整っていて、金色の髪に、黄色の目がとても綺麗だった。こんな素敵な人と結婚できるなんて最高! と瞬間的に思ったのに、次の瞬間には監禁命令が下った。


「南の塔へ閉じ込めておけ。部屋から出すことを禁ずる」


その命が下った途端、私はメイドに囲まれて逃げることも抵抗することも出来ないまま、南の塔の一室に入れられてしまった。

塔と聞いてどんな狭い牢屋かと緊張したけれど、室内は広く綺麗に整えられていて、今まで自分が閉じ込められていた日当たりの悪いじめりとした部屋とは大違いだった。

この部屋に監禁されるならいいかもしれない、なんて思ってしまう辺り、私の心も相当傷ついている気がする。

椅子に座らされると、一番に挨拶してくれたメイドが私に頭を下げる。


「メイド長のオリビアと申します。本日より、リアナ様付の使用人として身の回りのお世話をさせて頂きます。よろしくお願いいたします」

「オリビア……素敵な名前ね、私の姉と名前が似ているわ。よろしくね」


私は貴族、呪われてても幽閉されてても腐ってても伯爵令嬢。そして彼女はメイドで使用人。リアナの方が明らかに年下だけど、上下関係はしっかりしなくちゃ。

エドワーズ家の使用人以外の他人と話すのは殆ど初めてで緊張する。ちゃんと、貴族として、公爵夫人として正しく振舞おう。

赤い目を見せないように、つばの広い帽子を深々と被って視線を落として話すのは、緊張は減るけど相手の表情が見えない分少し怖い。オリビアは私付の使用人になることをどう思っているのか、声だけだと判断出来ない。


「……あのリアナ様、私が言うのは差し出がましいかもしれませんが、帽子、お取り頂いて大丈夫ですよ」


私が普段通り相手の顎から首辺りを見ていると、オリビアは少し言い辛そうにしながらもはっきりとそう言った。


「私の目、見るのも見られるのも嫌でしょう?」


この城の主人が綺麗だと褒めた所で、使用人まで同じ感性を持っているとは思わない。寧ろローレンス卿の方がおかしいのだ。

赤い目を見て表情を歪められるくらいなら、極力見せないようにしたい。


「旦那様が仰っていたではありませんか。ルビーのようだと。そのようにお綺麗なものを隠す必要は、私はないと思います」


正直そう言われても戸惑いはある。私だって別に赤い目を恐ろしいとは思わないけれど、この世界の住人にとってはそうではない。厄災をもたらす魔物の目は総じて赤い。その色と同じだというのだから、不吉と思われて当然だと思う。

それにローレンス卿だって言葉と行動が伴っていない。綺麗な色だと言うのなら、何故私を監禁するのだろうか。


「ローレンス卿は口ではああ仰っていましたが、やはり呪いを恐れているから私をこの部屋から出さないよう指示されたのでは?」

「いいえ違います! 旦那様はそんなことは考えておりません。それに、リアナ様に興味がなくて閉じ込めるわけでもありません」


オリビアは、窓まで歩いていって戸を開けると、私を手招きする。


「リアナ様、外を見て下さい」


言われた通りにオリビアの隣に立って窓の外を見ると、青い空にどこまでも広がる緑の綺麗な風景が広がっていた。

塔が高い分目線も高い。こちらの世界に来てからこんなに高い所から景色を見るのは初めてで、少し怖いけれど気持ちがいい。


「綺麗な花園があるわ」


一通り遠くを見回してから視線を下げると、色とりどりの花が咲き誇る庭園が見えて思わず感想が口に出た。


「南の塔が一番日当たりが良くて、あの花園が一望出来るんです。旦那様はリアナ様に一番の景色をと、この部屋をご用意されたのですよ」

「そうなの……」


分からない。ローレンス卿のことが全然分からない。目の色を綺麗だと言ってくれて、眺めのいい綺麗な部屋を用意してくれているのに、城の中を歩き回ることは許されない。部屋から出られないという事は、私の方からローレンス卿に会いに行くことも出来ないじゃない。

このよく分からない待遇に対して、私は一体どんな感情を抱けばいいの?


「ローレンス卿とはいつ会えるかしら。直接お話がしたいわ」


オリビアに聞くと、首を横に振られてしまった。


「それは、旦那様が決められることなので、すみません」

「食事の時は」

「部屋にお運びいたします」

「ローレンス卿と私の……け、結婚式、とか……」

「挙式の予定は今のところありません」


んん~~~~~~~~~~~~!?

ということはやっぱり、ローレンス卿が私にコンタクトを取ろうと思わない限り、私は監禁されたままってこと。

がっくり来て俯いた途端、背後から突風が吹いて帽子が窓の外へ飛んで行ってしまった。


「あ、帽子が……」


隠さなくていいとは言ってもらえたけれど、こんなに急にいなくなってしまうなんて。


「後で探しておきます」

「……いいえ、構わないわ。私にはもう必要のないものだもの。そうでしょ?」


オリビアがどんな顔をするかしっかり見ようと思って、しっかり向き直って目を合わせる。恐らくだけど、きっと私の方が緊張して怯えている。


「やっとお顔を見せて下さいましたね。リアナ様」


にこりと口角を上げたオリビアは、想像していたよりずっと落ち着いた雰囲気を身に纏っていて、二十代半ばかそれより上かもしれない。リアナと一回りくらい違うのか。

相手の一部しか見えていないということは、そういうことなんだ。気を付けよう。

オリビアは私を見て、どう思っているのだろう。


「この色、怖くない?」

「はい、全然です! 旦那様の仰る通り、綺麗な宝石のような色だと思います」

「……ありがとう」


檻の中なのは変わらないみたいだけど、それでも家族や使用人にさえもいない方が良かったと思われる実家より、全然いい。

ローレンス卿も結婚相手として私を呼び入れたのだから、ずっと閉じ込めておくなんてことは無い筈。大丈夫、この部屋が歓迎の証だと思わないと。前向きに、前向きに考えよう。


「リアナ様、どうされましたか?」

「ごめんなさい、久しぶりに人の目を見て話せて嬉しくて……」


泣くつもりなんて全くなかったのに、目から涙が零れ落ちてしまった。これは本当に私の感情? それともリアナの?


「これからはずっと、目を見て話せますよ」

「ありがとう。オリビア」


手を握られて少し驚いたけれど、人肌が触れ合うこと自体も長い間なかったことなので、素直に嬉しかった。

一人味方がいるだけで心強い気持ちになれる。私は大丈夫。やっていける。頑張ろう。そして、ローレンス卿にお会い出来たらちゃんと話をしよう。

窓の外の風景に視線を移して心新たにしていると、再び突風が吹いた。高所なだけあって風が強いのかもしれない。


「私たちは皆、本物の呪いを知っていますから」

「え? 何か言った? 風の音でよく聞こえなかったわ」

「いえ、風が強いようですからもう窓は締めましょう。長旅でお疲れでしょうからお休みください。夕食の際にまた来ます」


そう言うと、オリビアはきびきびと動いて退室していった。

私はそっとドアに忍び寄ってノブを回しながら押してみたけれど、外から鍵を掛けられたのか、何かを引っ掛けられたのかびくともしなかった。


「……本物の呪いってなによ」


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