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31 特訓


お姉さまとの特訓は想像以上に辛いものとなった。

眼精疲労、脳の疲労、心の疲弊、気分の上がり下がりが激しくて本当に、この世界の人たちはこんな病名知らないでしょうけど、鬱病になるかと思った。


まず、自覚している限り力が使えたのは一度きりなので、もう一度能力を使ってみることから始まった。

お姉さまとの睨み合いを何時間続けたことか。私もしんどかったけれど、お姉さまも同じくらい疲れたと思う。

私はお姉さまの感情を自分に移したいと睨み続け、お姉さまは私に吸わせる強い感情を持ち続けなければいけない。骨が折れるなんてものじゃない。


どうしても初めの一回が出来なくて、私は必死に浄化のために獣の姿になったヴェール様と目を合わせた時に、どんな会話をしてどんな感情を持って、どんな気持ちでいたかを詳細に思い出そうと努力した。


あの時は瘴気の影響で性格の豹変したヴェール様に、存在が邪魔だと言われ、呪われた赤い目が気色が悪いと言われて深く傷ついた。

ヴェール様の本当の気持ちではないと分かっていたのに、それでも心のどこかではそう感じていたのだと思うと悲しかった。

だけど、リュミエール全国民の負の感情を一身に背負わされて苦痛に藻掻き姿かたちまで醜く変化させられてしまうヴェール様を見たら、そんな私の悲しみなんてどうでもよくなった。

ヴェール様は命を削って光の盾としての仕事をしている。誰にもわかってもらえない苦しみに耐えていた。母親からの愛情を貰えず孤独だったヴェール様に、強く優しく人の痛みの分かる優しい青年に、愛を与えたかった。

だけど現実はヴェール様は檻の中、私は檻の外で声を掛ける以外に出来る事はなくて悲しくて、少しでも変わってあげられたらいいのにと思った。


その時、赤い目の力が発動したのだと思う。

直後から目の奥が痛み出して、目を開けていられなくなって、最終的には目から血の涙が溢れて意識を失った。

それだけヴェール様の抱えていた痛みと感情が激しかったのだと今なら分かる。

苦しみを引き受けるなんて言って、その度に何日も寝込んでいたらヴェール様だけじゃない、みんなに心配をかけてしまう。


そうして二度目の偶然力が使えたのは、お姉さまと時間さえあれば目を合わせ続けて五日も経過してからだった。


突然言いようのない怒りの感情が沸いて出て頭痛がして、頭を抑えているとお姉さまの記憶が音と映像で浮かんでくる。

お父様と言い争っている、今よりずっと若いお姉さまの姿だ。貴族令嬢らしく決められた相手と結婚するよう言われているのを全て跳ね除けて、自分の力で生きていくと宣言するオリヴィエ。

魔力持ちで生まれたのだから、この力を生かして色んな所へ旅をしたいと宣言するも、お父様は全く聞き入れようとしない。

そんな情景がまるでテレビの動画のように頭に流れ込んでは消えていった。


「はぁっはあっ、はあっ……痛」


胸の辺りに刺すような痛みが走る。だけど耐えられないものではない。意識も手放さずに済んでいるし、血の涙も流れてはいない。

ヴェール様のものと比べたらそれほど強い感情ではなかったということだ。もう随分前の記憶なのだから当たり前だけど。


「リアナ……出来たじゃない!」


両の拳で眉間の辺りをぐりぐりと押して頭痛を和らげていると、お姉さまに抱き寄せられた。


「おめでとう。やったわね! 二度目が出来たのならもうあとはコツを掴んでいくだけよ!」

「うん……うん……ありがとうオリヴィエお姉さま……!」


こんなに待たせてしまったのに嫌な顔一つしないで特訓に付き合ってくれるお姉さまの優しさと、本当に目の力が使えた嬉しさと疲労と疲れと色んな感情で、ボロボロと涙を零して泣いてしまった。

そうじゃないと分かってはいても、全部嘘だったら、本当はそんな力無かったら。一回きりのまぐれだったら偶然だったらという不安で胸が押し潰されそうだった。

主人公の冒険を足止めしてまで付き合わせてしまっている現状を、早く終わらせないとという焦りもあった。だけど、出来た。出来たんだ。

お姉さまの感情と記憶を引き受けることが出来たんだ。


「うえええん、できた、出来たよおお姉さま……」


感極まって泣いていると、お姉さまは痛かったわね、こんなの見たくないわよねと頭を撫でて、同時に頭痛が治る魔法をかけてくれた。

すると引き受けた怒りの感情の記憶だけは残り続けているものの、頭の痛みはスッとどこかへ消えていった。


「何でも初めの一歩が一番難しいけれど、歩き出してしまえば先へ先へと進めるものよ。この調子でどんどんやっていきましょう!」


お姉さまのやる気がすごい。流石、活力あふれる主人公。元気の量が違う。


「あ、でももうこんな時間。今日はここまでにしましょう。私は出て来るわね。また明日!」


パっと外の明るさを見て時間を判断したお姉さまは、あっという間に転移魔法で私の前から姿を消した。何から何まで早すぎて、お礼を言う暇も手を振る隙も与えられない。

お姉さまが毎日この部屋に転移魔法で現れていることに、まだエドワーズの家族は誰一人として気が付かない。

お父様とお姉さまは縁を切ったも同然なので、堂々と玄関から上がることはないし、私以外の家族にも会うことはしない。

でも、いつもこれくらいの時間になると何処かへ行ってしまうけれど、一体何処で寝泊まりしているのだろう。聞いても全く教えてくれなくて、冒険者だから家のベッドでなんて寝ないんだ。なんて言われてしまう。

私も一晩くらい連れて行ってもらいたい。でも、私が此処を出る時は力を完全にコントロール出来るようになった時。そう決めたから。


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