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29 憧れの主人公


オリヴィエお姉さまと私は時間をかけて、空白の時間を埋めるように話をした。

私は自分の人生をここで終わらせないためにローレンス家に嫁いだこと、向こうの家でどんな生活をしていたかを沢山聞いてもらった。

そして、光の盾公爵の秘密と、私の赤い目に何らかの力があることまで喋った。


光の盾公爵が呪われた公爵や気狂い公爵と呼ばれている真の理由を話すのは、気が滅入った。

そもそも公爵家の人間や王族以外の人に話してはいけないことだとは認識してる。だけど私はただ一人の信頼できる姉に、小説の主人公に選ばれる器のオリヴィエに、話を聞いてもらいたかった。単なる私の我儘だ。

そうして最後にこの目が、ヴェール様の光の盾としての仕事の最中に、何らかの力を発動して苦痛を引き受けて昏倒したという話をする。

心配させないために嘘をつこうかとも思ったけれど、後々齟齬が出て来ると困るので正直に言った。そしてやっぱり、聞きながら辛そうな表情を見せてくれた。


話している間中オリヴィエお姉さまは真剣に静かに聞いてくれて、時折説明が分かりにくい所を聞き返してくれたり、小さくリアクションをしてくれた。


「きっとヴェール様は、私が浄化の苦痛を引き受けることを拒絶して、私をこの家に帰したのだと思うんです。だけどそれは一番可能性の高い予想なだけで、本当の所は分かりません。とにかく私はもう一度ヴェール様に会ってちゃんと話がしたい」


一人で考え続けているより、聞いてくれて相槌を打ってくれる人がいる前で順を追って口にすると、頭の中が整理されて思考がすっきりする。

やっぱりそれしか考えられない。最早全く別な所に捨てられた理由があったとしたら、もっとフラグを立てておかんかい。と突っ込みを入れてしまいそう。


オリヴィエお姉さまの転移魔法の力があれば、ローレンス家に戻ることも難しくないはず。段々と気持ちが前を向き始めてやる気が出てきた。


「あなたは、私みたいに家を飛び出さないで正攻法でこの家を出て、大冒険をしていたのね」


大好きな大好きなオリヴィエに真っ直ぐに目を見つめて微笑まれて、この世界で頑張っていたことが全部認められたように思えて無性に幸せで、泣きそうだった。

ああ、やっぱり私が好きになった主人公は、優しくて真っすぐで包容力があって、強くて素敵な人だな。


「私ずっと、オリヴィエお姉さまみたいになりたかったんです」


目標があった。憧れの人のようになりたくて、オリヴィエだったらどうするかと考えて行動したことも沢山あった。そのお陰で今の私がある。


「ありがとうお姉さま。お姉さまがずっと私を気に掛けて下さっていたから、頑張れました」

「リアナ……そんな、私は慕ってもらえるような姉じゃないわ……自分がしたいことを優先して、あなたのことを置いて家を出てしまったのよ」


オリヴィエは、ごめんなさいと謝りながら目元を潤ませた。

知っている。オリヴィエはそのことをいつも心の片隅で気に病んでいて、だからこそリアナの赤い目をどうにかする方法がないか、冒険に行く先々で訪ねて回っていた。

だけど一方で本物のリアナはそんなことを知る由もなくて、日々孤独な生活を送っていたことも知っている。唯一自分に親しく接してくれる家族がいなくなって、どれだけ寂しかったか、辛くて苦しかったかは想像に余りある。

もしかして、だからリアナは私に体を明け渡したんじゃないかとさえ想像してしまう。


「……寂しくなかったといえば嘘になるわ。だけど、お姉さまの人生はお姉さまのものだもの」


”姉”や”貴族令嬢”としては完璧じゃなかったかもしれないけれど、オリヴィエはその豪胆さと行動力で、前の世界にいた沢山の人の心を勇気付けて楽しませてくれている。

家族になんて縛られていていい人じゃないのは、私が一番分かってる。だからごめんねリアナ。私はお姉さまを咎めることは出来ない。


「リアナ……」


オリヴィエに抱きしめられて、私たちはもう何度目になるか分からない抱擁を交わした。

二人の間の空白の期間を埋める手段は、とにかく話すことと、肌を触れ合うことしかなかった。お互いの体温を感じ合い、私たちは姉妹だと、家族だと認識し合う。とても大事な作業だった。


「ここへ戻って来ることにしたのは、勿論あなたの結婚の噂を聞いたのと転移魔法を覚えたからなのだけど、もう一つ理由があるの」

「え、何ですか?」

「……あなたに会うまでは話すかどうか大分迷ったのだけど、今のあなたにこそ必要な情報だって分かったわ。心して聞いてね」


そこでお姉さまは一旦言葉を区切ると、深呼吸して唇を噛み締めて、口にする準備をした。


「ブルックリアの田舎町で、リアナと同じ赤い目を持つ女性に会った」

「……!」

「そしてその目が持つ能力について教えてもらうことが出来たわ」


私は驚きに息を呑んだ後、暫くの間何も言えず言葉を失った。


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