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27 捨てられた理由を考える


空腹と絶望の掛け合わせは心底悪い上に、この世界の食物と栄養事情とリアナの若さから、貧血や失神を起こしてしまうことは予測できたことだった。

いや、絶望は予測に入っていなかったので結局こうなることは予期できなかった訳で、もう今更悔やんでも仕方がない。


お父様の部屋で倒れてから目を覚ますと、あの日当たりの良い清潔な部屋ではなく元々の私の部屋のベッドに寝かされていた。

傍には食べ物と水が用意されていたけれど人はいない。当然ながら、心配して駆け寄って来てくれるオリビアももういない。

水を飲んでパンを冷めたスープでふやかしながら腹に入れている間、努めて何も考えないようにしたけれど、頭の中でお父様に言われた言葉の数々が勝手に浮かんできてしまう。

でも考え始めると泣いてしまうので、ぎゅっと目を閉じて涙を止めて食事に集中する。本当に食べないと死んでしまう気がしたから。


「ごちそうさまでした」


後でお腹が痛くなりませんようにと祈りながら皿をどける。軽い断食からの一気食いは絶対によくなかった。食べてから思っても遅いけれど。

なんて、考えなければならないことから意識を逸らしていたけれど、食べ終えてしまった今はもう向き合わないといけない。そのことに絶望する。絶望している場合ではないのだけれど、この状況に光を見出せそうにない。


私はヴェール様に捨てられて、当面、或いは一生この家から出られない。バッドエンドゲームオーバーだ。


一体いつどこでそんな取り返しのつかないミスをしてしまったのだろう。全然自覚がない。自覚がないから反省も出来ない。


絶対お父様の策略だと思った。私にヴェール様を諦めさせたい理由が何かあって、捨てられたんだと言っているのだと思った。

だけど段々本当の事を言っているように聞こえてきて、嘘だと思いたいのに心は事実を受け入れようとしていて。特に、お金を積んでまで父を説得して私を実家に帰したという辺りが、いかにもヴェール様らしいのだ。

私が不要になって、嫌いになって、妻として役立たずだと思ったなら、人知れず消してしまえばいい。呪われた令嬢が一人公爵様に殺されたところで誰も気になどしないのに、そうはしない所に優しさと愛情を感じ取れる。


私を捨てたけど、私が死んでもいいとは思っていない。それは愛情なのか、情けなのか自分の寝起きが悪くならないためなのか。


「どうしてよ、この赤い目がヴェール様の負担を減らせるかもしれないって、二人で調べていこうって話したばっかり…………ああ……!」


まさかそれ!?

私の目が原因!?

ヴェール様の浄化の苦痛を引き受けた謎の能力を懸念して、私を遠ざけたってこと!?


ああ……絶対とは言い切れないけど多分そうだ。ああ、どうして今の今までそのことに頭が回らなかったのか、何で気がつかなかったのか……!


もう突然何もかも嫌になってベッドに倒れ込んだ。

私の頭が悪いのも、ヴェール様が何も話して下さらなかったのも、信頼してもらえていなかったことも、全部全部嫌。最低最悪。

ヴェール様は私の目の持つ力を危険視したんじゃない。心配したんだ。

一緒に暮らしていれば、夫婦としていれば、今後何度だって浄化の場面に立ち会う機会はある。きっと私はその度に力を使おうとする。苦痛を引き受けようとする。そのことを見越されてたんだ。


まだ私自身力の使い方も発動条件も分かっていないし、本当に引き受けるだけが能力なのかも不明なのに。違う、不明だからだ。

私に調べる機会を与えないために、次の浄化が来る前に私を追い出したのね。


「はぁ……いえ……まだ絶対そうとは言い切れないけど……」


他に私が捨てられる理由が分からない。

ポトフみたいなものが口に合わなかったとか。夜の相性が悪かったとか。いびきがすごいとか、寝相がとんでもなかったとか。ああ~嫌だそれは恥ずかしい。いびきはしてない筈だけど……ああ~~~……。

とは言え、ヴェール様がそんなに心の小さい方とは思えない。この赤い目を受け入れて真っ直ぐに見つめてくれる人が、そんなことで私を捨てる?


「なんでこんなことする前に、話し合いの一つもしてくれないのよ! バカあ! ヴェール様のバカあ……結婚を……夫婦を何だと思ってるのよ……」


一人で考えた所でどうにもならなくて、そのことに苛ついてムカついて涙が溢れて止まらなくて、枕に顔を押し付けてベッドを蹴飛ばしながら泣いた。


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