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神装巫女  作者: みけさんば
18/18

18話 太陽と月、決闘②

 鉄塊が私に襲い掛かる。

 今までよりも、少しだけ速い。

「諦めて……レイに勝ち目はないッ!」

 ひなたちゃんが、そう叫んでいた。

「諦めないッ!」

 私は、ひなたちゃんに向かって飛び込む。

 それはただのやけくそだった。

 でも、やらないよりましだ。


 蹴り飛ばすために、足をひなたちゃんに向ける。

 音速を超える跳び蹴りを放つ。

 直撃の衝撃でひなたちゃんは鉄塊から吹き飛ぶ。

 私は落ちるひなたちゃんを追いかけた。


 ひなたちゃんの体も私の体も鉄塊から離れ、攻撃は届かないはず。

 もう一撃、叩きこもうと足を上げる。

 だが、私の蹴りは防がれた。

 鉄塊が、壁となった。


 ひなたちゃんの両足が消えている。

 かわりに、三つ鉄塊が追加されていた。

 自分自身の体にその鉄塊を突き刺してひなたちゃんは飛ぶ。

 五つの鉄塊が、同時に私を襲う。


 何度かわしても、次が飛んでくる。

 だんだんと攻撃をかわしきれなくなってきた。

 胸の鏡にいくつもの傷がついていく。

 このままじゃ、勝てない!


 もう一度、突撃する。

 さっきよりさらに速く、もっと速く飛びだした。


 だが、頭上に振る鉄塊が頭を打ちつけ私を打ち落とす。

 頭が割れそうな痛みに抗い、空中で姿勢を保つ。

 そのとき、私の噴射機を光線が砕いた。


 気づかなかった……気づいていれば、なんとかできたのに。

 私の体が天から落ちていく。

 ひなたちゃんは私を助けたりしない……

 神装が守ってくれるから死なないけど……それでも、ひなたちゃんに助けてほしかった。


 せめて、なにか伝えられるだろうか……

 私は落ちながら、ひなたちゃんを真っ直ぐ見つめる。

「大好きだよ……」

 その言葉は、届いているだろうか。


 重力に引かれ加速する体は、ついに瓦礫の中に落ちてしまった。

 砂埃が目に入って、痛い。

 なんとか立ちあがろうとするものの、足が震えて立てそうもない。


「私の……勝ち」

 そう言って、ひなたちゃんは降りてきた。

 俯いたまま、私の胸に鉄塊を突きつける。


「ひなたちゃん……本当にこんなこと……望んでいるの?」

 私の声は、かすれていた。

 それでも、ひなたちゃんの心まで届いてほしい。


「これで……みんな救われる。みんな……眠って幸せな夢を見るんだ……レイも……幸せに眠るんだ

 そこにはレイの父さんがいて、ずっと楽しく暮らすんだッ!

 もうレイは泣かなくて良いんだ……」

 ひなたちゃんは言う。

 うつむいたまま、言い聞かせるように強く。


「でも、本当にそれで良いの……?」

 言葉が自然にでた。

 きっとそう思ったのは……今、ひなたちゃんが泣いてるから。


「これでいいんだ……だから、諦めて」

 ひなたちゃんが語りかける。

 その言葉は私に言い聞かせるのではなく、ひなたちゃん自身に言い聞かせている気がした。


「諦めないよ……私はひなたちゃんが大好きだから」

 だから、大好きなひなたちゃんに、戻ってほしい。

 優しいひなたちゃんが、涙を流してまで人を苦しめるなんて、絶対間違ってる。


「うるさいッ!なら……こうするしか……」

 ひなたちゃんの言葉とともに、鉄塊が天高く掲げられる。

 それが私の頭に落ちていく。

 私を殺すために、真っ直ぐに落ちていく。

 それでも私は、ひなたちゃんから目をそらさない。

 絶対に、ひなたちゃんを止めたい。


 鉄塊は、私の頭上スレスレで消えた。

「どうして……どうして纏えないのッ!」

 ひなたちゃんの神装は消えて、両手両足のないからだは瓦礫の中にぽとんと落ちる。


「ねえ、ひなたちゃん……」

 私は、震える足で立ちあがった。

 気を抜いたら今にも倒れそうだ……

 やけに体が重い。


「私の……負けか……」

 ひなたちゃんは泣いていた。

 その涙は透明で、キラリと輝きながら頬をつたっている。

 私の顔を見て、より一層、強く泣いていた。


「本当に……戦いたいわけないよね……」

 私の言葉に呼応して、涙は強くなっていく。

 弱々しい声で呻きながら、頬を真っ赤に染めて泣いていた。


「私……戦わなきゃ……」

 無理矢理ひなたちゃんは神装を纏おうとする。

 だが、鉄塊は作れず、戦える姿にはなれなかった。

 きっと正しく神装を纏えないのは……戦う想いがないから。

 それでも戦おうともぞもぞと体を動かす姿が、痛々しく思えた。


「戦わなくて……いいよ……」

 そういった私の足に、ひなたちゃんは噛みついた。

 鎧に歯が立つわけがないのに。


「戦わなきゃ……レイはもう一生幸せになれないッ!」

 ひなたちゃんの叫びは、酷く震えていた。

 喉の外から絞り出すように叫んでいたんだ。


「私……ひなたちゃんと一緒にいるだけで十分幸せだったよ……」

 ふらつく足下で、ひなたちゃんに語りかける。

 大好きなひなたちゃんが誰かを傷つける姿なんて、もう二度と見たくない。


「嘘……だって、いつだって寝顔が泣いてた……」

 そうだったんだろうな。

 きっと、お父さんがいないこと今でもまだ寂しくてたまらないんだ。

 でも、幸せなのは本当だ。


「ひなたちゃん……」

 足下がふらつく。

 頭も上手く回らない。

 全身の傷から、血がドバドバ流れていく。

 痛みを感じるたびに、視界が淡くなっていく。

 気がつけば、私は地面に倒れていた。


 体は動かない。気を失わないように保つのすら精一杯だった。

「レイッ!」

 私に向かって叫ぶ声が聞こえる。

 ひなたちゃんが……心配してくれてる。

 やっぱり、ひなたちゃんは優しい。


「私だって……こんなに傷つくレイをみたくなかったよ……」

 ひなたちゃんはそう呟いていた。

「もう戦わないで」そう言おうとするが……その声は届かないまま。

 戦う意思を失った私の神装は剥がれ、引き留めることもできない。


 ひなたちゃんは元の世界に帰って行く。

 私も……帰らなくちゃ。

 世界は色を取り戻していくのに、私の感情は色を失ったまま。


「ただいま」

 丁度買い物に行ってきた夏音さんが帰ってきたようだ。

「お帰りなさい」

 震えたままの声で、私は応じた。


「なあ……どうしたんだ?」

 夏音さんがそう聞いた。

 私がまだ、泣いていたからだ。


「大丈夫です……私とひなたちゃんの問題ですから……」

 そう私がごまかすと、夏音さんは少しため息をついた。

 そして、真剣そうに私を見る。

「私にできることがあるなら……なんでも言ってくれよ」

 そう言って、夏音さんは微笑んだ。


「夏音さん……私、家に帰ります。ひなたちゃんと、直接話したくなったから……」

 私は言う。

 夏音さんは一瞬驚いたような表情をしてから、少しさみしそうな顔になり、しばらく黙っていると優しい顔になった。


「そっか……仲直りできたらいいな」

 そう言って、私を撫でる手は温かい。

「いいんですか……ひなたちゃんはケイさんの仲間ですよ」

 ケイさんに恨みのある夏音さんが、何も否定せずに許すのが、私には少し意外だった。


「私はケイを殺せればそれでいいさ」

 夏音さんの答えに、私はどう言えば良いのだろうか。

 人を殺すのは間違っていると思うけど……私は夏音さんにそれを言えない。

 夏音さんは……それほどに強い恨みで体を動かしていた。


「今日のご飯は、私がつくるよ……今まで、ありがとうな」

 夏音さんの優しい声に頷きながら、私はキッチンにたつ夏音さんを見ていた。


 ぐつぐつと野菜を煮るその横顔は……やはり少し寂しそうだ。

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