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神装巫女  作者: みけさんば
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1話 思い出のための力を

 眠りにつこうと布団をかぶるが、今日はあまり寝付けない。

 目に悪いことを知りながらも、退屈で仕方なくなった体がスマホに手を伸ばす。

 スマホを手放したら私は死ぬんじゃないか?

 そんなことを思いながら電源をつけ、4桁のパスワードを素早く入力した。


 そして、私は見慣れない画面に目を見開く。

鳩羽湊(はとばみなと)様、あなたは『神装巫女』として、日本武尊(やまとたけるのみこと)様に選ばれました。詳しくは、下記のリンクから確認してください」

 ……どういうこと?

 書かれた文面の意味が、私には理解できない。


「何これ、夢……? 下らない」

 詳細を確認することもせず、私は眠った。

 不思議と、ぐっすり眠れた。




 目ざめた。暑くも寒くもない、ただ少し人肌のように温かい、比較的快適な朝だ。

「よく寝た……」

 そう言ってゆっくりと伸びをする。

 すると、

「ひゃいっ!」

 私の無防備な脇腹を、妹がつつく。

「何……なんで朱里(あかり)ここにいるの……?」

「お姉ちゃんを起こそうとしたけど、全然起きないから、隣で待ってたんだよ」

 朱里がため息をつきながらそう言うと、私に着替えと鞄を差し出した。


「今日、碧さんと遊ぶ約束あるんでしょ?早く行きなよ。お姉ちゃん怒られちゃうよ」

 そういえばそうだ、私は時計を確認する。

 今から全速で急げば、ギリギリ間に合うはず。

 素早く着替え、多少雑に髪を整え、鞄をとって駆けだし、家を出る。

 小学校から、高校生の今、そしてこれからもずっと私のそばにいる親友。

 小雪碧(こゆきみどり)との約束があるから。




「待……った?」

 疲れで電柱に寄りかかりながら、私は碧に言う。

「ううん。今きたとこ」

 定番、だね。そう言って笑う気力すら私には残されていない。

「お茶あるけど……飲む?」

 疲れで朦朧とした意識で、こくりと私は頷いた。

 差し出されたペットボトルを手に取ると、気持ちよく一気飲みをする。


「ケホッ……むせケホッコホッグフッゲフッ……むせた……」

「一気に飲むからだよ……」

 残り半分くらいになったペットボトルを返すと、碧はそれにゆっくりと口をつけ、一口だけ飲んだ。

「飲み物はね、しっかり口に含んでから飲むの。気をつけてよね」

「ケホッわかっコホッ……わかった……」

「わかればよろしい。罰として、今日一日私に付き合うこと!」

 そう言って胸をはり、碧は笑う。

 最初っからそうするつもりだったよ。

 そう心の中で私は微笑んで、碧のあとをついて行く。


 そういえば。今日は何か変な感じがする。

 自分の胸の中に、もう一人、誰かがいるみたいな……

 気のせいか。きっと、気のせいだ。


 いろいろなことをした。

 例えばクレーンゲームで上手く取れないことが悔しくてお金を無駄遣いしてしまった。

 他にも服屋でお互いに似合う服を選んでるうちにだんだん碧が水着や下着も着せてきて恥ずかしい思いをした。

 そんな風に楽しく過ごしているうちに、夕方になっていた。


「映画見に行こうよ」

 碧がそう言って、エレベーターのボタンを押す。

「何見るの?」

「湊の好きなやつ」

「私、碧にあわせるつもりだったんだけど……」

 ちょっと困った。全く何も計画をしてない私は、どんな映画を碧に見せれば良いのかな。

「私が、湊の好きな映画を見たいの。だから、好きに選んで?」

 碧が私に微笑みかけると、エレベーターは最上階にたどり着いた。


「これにしよう」

 私が指さしたポスターに碧は目を向ける。

「何これ……特撮ヒーロー?湊こういうのよく見るの?」

「いや、なんか面白そうだったから選んだだけ……」

「ふーん。その気持ちけっこうわかるけど……行動力高いね相変わらず」

「そう?」

 そんな他愛のない会話をしているうちに、行列も自分の番が来て、チケットを無事に購入した。

 そして映画の上映時間を待つ。


「そういえば、今日が何の日かおぼえてる?」

 碧が、脈絡もなく聞いてきた。

「何の日って?」

 私がそう答えると、碧は少し寂しそうな顔をした。

「七年前の今日と同じ日、公園にタイムカプセルを埋めたよね……あれ、今日掘り出しに行かない?」

「ずっと忘れてた……よくおぼえてたねそんなこと……」

「まあ、普通忘れてるよね……」

 さみしそうに、うつむく碧の肩に手を乗せる。


「……これが終わったら、一緒に堀りに行こう。あの時のこと、また思い出したい」

 そう私が言うと、碧が顔をあげる。

 それを見て私は安心した。笑いながら、こう続けた。

「そろそろ上映始まっちゃうよ。碧!」

 そういって、シアターの中に入る。




「おもしろかったね。かっこよかった!」

 見終わった後、私はそう言った。何故か心の底が元気でみたされた状態で。

「うん。ヒーローもかっこ良かったけど、敵も魅力あった……」

「いいよね……最後の方の、敵と手を取り合うところ!分かり合うって、許すってやっぱ大事だよね!」

 そう私が言ったとき。碧が一瞬黙った気がした。

「碧……」

「ごめん湊……何でもない。堀りに行こう。タイムカプセル」

 あまり気にしないことにした。

 心当たりはあるけれど……きっと、碧の問題だ。


 デパートを出て、公園へ向かう。

「公園のどこに埋めたんだっけ……広い公園じゃないからまだ楽だけど……」

 そう呟く碧の背中が、一瞬。何やら真っ黒なモノに包み込まれそうに見えた。


 急に不安になって手を伸ばす。

 すると、時間が止まったように周囲の景色が動かなくなった。

 落ちずに空中に留まる鮮やかな桜。

 そこから、次第に、少しずつ色が抜けていく。

 辺り一面が、モノクロな別世界へと姿を変える。

 次第に雲から映えてきた、虹色の根のようなモノが建物に絡まる。

 私はまだ夢でも見ているの?

 そう思った時、何か不思議な感覚が私を襲う。

 

 私以外の誰かが、私の中で叫ぶ。

 何かが来るぞと叫んでいる。

 鳥肌を立てて、冷や汗をかいて、私は振り向く。


 そこに居たのは、化け物だった。

 真っ黒な蛇のような化け物だ。

 逃げないと、そう思っているのに足がすくむ。

 顔だけで私の体よりも大きいその巨躯。

 赤く光る瞳は、こちらを一切離さず見つめる。


 口を開いた化け物が、私に迫る。

 私は、こんなによくわからないまま死ぬの……?

 目をつむる。視界が暗闇に閉ざされる。

 まぶたの裏によぎるのは、碧の優しく微笑む顔だ。

 私が傷ついたとき、碧も傷ついていたはずなのに、それでも涙を隠して微笑んでいた顔がよぎる。


 暗闇の中、何かを切り裂く音が聞こえた。

 沈黙の中でそっと目を開ける。

「何これ……」

 一体何が起きた?

 困惑は私に恐怖を植え付けた。

 真っ二つにされた化け物の巨躯。

 それが少しずつ再生していくさまを、私は見る。


「逃げなきゃ」

 走り出した。私は走り出した。

 何故だかいつもより体が重い。

 それでも、私は必死に逃げた。


 その中で、胸から声が聞こえた。

「戦え」

 その声は、確かにそう言った。

 胸ポケットのスマホを取り出す。

 どうやら、そこから声が聞こえるようだ。


「そんなこと、言われてもっ! あなたが私を助けたんでしょ?力があるなら、あなたが守ってよ!」

 そう言っているうちに、蛇の化け物が再生する。

 狭い路地裏に逃げ込むが、建物を壊しながら、確実に私を付け狙ってくる。


 それでも必死に逃げていると、路地裏が少し広くなってきた。

 そして、正面から猪のような化け物が走り込んでくる。

 ああ、死んだ。

 私は諦めた。一瞬、足を止めた。


 だが、次の瞬間。

 猪の体は縦に真っ二つ。

 立ち止まる私に、声が「怯むな」と静かに叫ぶ。

 逃げ続ける中で、声が私にこう言った。

「あと一回だ。私は、あと一回しか剣を振るえぬ。君を助けられないんだ。だからどうか、その一回が来る前に……決断してくれ」

「そうは言われても!」


 私は逃げ続ける。

 戦うのが怖い。

 どうしてこんなにも、怖いんだ。

 路地裏を抜け、見えてきたのは、小さな公園だ。

 疲れ切ったその体を一瞬止めると、衝撃が足下をつたう。


 私の真横。

 蛇の化け物が、突然地中から飛び出してきた。

 巻き上げる砂埃の中で、箱のようなモノが空を舞っていることに私は気づく。

「あれは……」

 それが何者か知って、何故か私は手を伸ばした。

 掴み取りたい……そう思った。


 蛇の化け物が、落下していく箱を喰らう。

 中に入っていた紙や小さなおもちゃなどが飛び出す。

 どうして、私の思い出を踏みにじるような子とするんだ。

 足が動かない。

 力が入らない。

 スマホから鳴り響く声も、一切耳に入らない。

 惨めにもぺたりと座り込む私の足下に、一枚の……紙切れが落ちた。


 小学生らしくない、丁寧な字で。

 でも、感情のこもった、どこか力強い字で、その手紙は記されていた。


「鳩羽湊へ。

 この手紙を読んでいるとき、あなたは、わたしとともにいますか?

 わたしは、いつまでもあなたといっしょにいたい。

 きっとそれは、いつまでもずっとかわらない。

 だから、このタイムカプセルを二人であけたなら、この先もいっしょって、やくそくして下さい。

 小雪碧より」


 それは、きっと二人で読まなければならない物だ。

 いまここで、今私が、一人で、へこたれながら、読んで良い物じゃないんだ。

 二人でいること。それを守るために私はここに来たのかも知れない……

 なら、どうすればいいのかな……

「ここで死んで、いいのかな……」


 蛇が、私に襲い掛かる。

 だが、その体は横に真っ二つ。声は私に強く叫ぶ。

「ここで死んで、言いわけないだろ! 命を守る力を示し、友の約束を守って見せろ!」

 その声が一秒間に何回でも、心の中を反復する。

 私は、どうするのか。

 その答えを示したい。

 私は、碧と一緒に居たい。

 親友としてそばに居て、二人で笑って泣くために。

 タイムカプセルを二人で見るために。


 スマホを胸に当てる。

 そして、ゆっくりと目を閉じる。

 今度は、決意をもって。

 目を開くと、武装を身に纏った自らの姿があった。

「纏ってくれたか。私の力を、神装を! 君は神装の巫女。神装巫女となったッ!

 説明は後だ。行くぞ!」


 淡い薄緑のボディースーツが全身を包む。

 右腕と両足には、白銀の鎧。

 特に右腕の鎧はゴツく、動かすたびにガシャガシャと音を立てる。流線型のその装甲は青白い光を纏っていた。

 右手の甲には、何やら模様が描かれている。

 昔の文字だろうか。私には読めない。

 ボディースーツには首元から股下まで体の中央を通るようにジッパーがついていた。

 脱ごうと思えば脱げるのかな?


 強固な鎧に包まれた右腕から、声が聞こえる。スマホから聞こえてきた声と、同じ声が。

 同じく装甲に包まれた両足で、空高く跳ぶ。

 襲い掛かってくる蛇に、右手をかざす。

 光り輝く右手から、生み出されたのは一振りの剣。

 真っ二つに切り裂いた蛇の体が、消滅する。


 着地。

 それと同時に襲い掛かる猪。

 私は剣を長く長く伸ばして、走り出す。

 突進する猪を、頭から突きさした。

 黒い霧となって消滅する猪の体。

「……怖かった」

 私は、そう呟く。

 変身はとけ、次第に元の世界に戻っていく。

「これさ、壊れた建物とかどうなるの?」

 私が、スマホに問いかけた。

「だいじょうぶ。全て元に戻る。このヤマトタケルが保証する」

 声は、そう答えた。

「……よかった、それなら、一緒にまたタイムカプセルを見れる。ヤマトタケルさん……で、いいのかな。よろしく」

 私は安心して、気づけば、元の世界に帰っていた。


「何かあった?」

 碧が、少し心配そうに聞く。

「だいじょうぶだよ」

 私は、そう微笑んだ。

 今、生きていて本当に良かった。


「ねえ碧。私、タイムカプセルが埋めた場所、思い出した」

 そう言いながら、私は碧と手を繋ぐ。

「……本当? 思い出してくれたの?」

 碧が、私の顔を見上げる。

 その可憐で、守りたい愛おしい顔を、私に向ける。


「きっと、掘り出したらいっぱい笑うよ、そして、ちょっとだけ泣くんだ」

 私は、碧とともに公園に行く。

 二人でタイムカプセルを見るために。

 一緒に居ることを、約束するために。

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