episode 2 -7 憑依は、ほどほどに
いつもは、華が先頭を切っているが今回は、獏からその場を離れるために次元を開け、更に獏の空間に華とスライムを連れ込んだ。
「ここ、獏くんの空間じゃん。出ようって言ってなんでここ?対価もまだ出せないよよ?」
「華。その異物を3次元に連れていけるとでも?」
「あっ、それで。だよね。さっきびっくりしたんだよ。出来るのかと思って。」
「ふん。まだまだ、甘いな。ま~良い。摩利支天様に取り次げ。」
その言葉で、華は、錫杖で天を突き摩利支天様を獏の空間へ誘う為の印を組んだ。
「オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ・・・」
「呼んだか…。華。」
「はい。これを。」
「うむ。なんだ?これは…。」
「その、スライムという創造物で…。」
「なんとまあ~人の創造とは、可笑しなものだな・・・。で?これをどうする。」
「それが、今回の依頼の件の異次元の件で入り込んだ御霊の欠片が…そこに。」
摩利支天は、マジマジとそのスライムをいろんな角度から確認してつつき始めた。スライムはつつかれるたびにプルプルと震えているので、華も獏もその様子が少しおかしくて笑いをこらえるのに必死になった。
「摩利支天様…。あの~先ほどから何を…?」
「うむ。欠片を取り出そうと思うてな。ちょっと待て。華。」
「は、はい?」
「おおお。あったあった。」
摩利支天は、そう言うと爪の先に着いた指甲套でスーッと糸のようなものを引っ張り出した。
「ほれ。華、錫杖でついてみよ。」
言われたままにその糸を錫杖でつつくとゆらゆらと糸は人型を取り始めた。
「どうじゃ。依頼者の娘の御霊か?」
「あっ。いえ。違います。依頼者の娘の額に印を付けて参りましたので!そのものには、印が有りません。」
「間違えたのか?」
「ですが、姿かたちは、その娘と変わりありません。」
「そうか…同じか。となれば、分散しておるな。全て、集めねば意思疎通もできまい。もう一度、戻ってすべて集めるとよい。」
「へ、?」
「へ、ではない。集めねば始まらぬ。早う、行くのじゃ。」
「あの空間、あまり好きでないんですよね~。」
摩利支天は、華のぼやく声を無視して、白狐を呼び寄せて何か話しかけていた。
「よいか?今回は、お前が一番頼りになりそうじゃ。欠片を見つけたらすぐに華に知らせておやり。今回の事が出来たら、言葉を与えよう。」
白狐は、コンと一鳴きすると華の袖を引っ張っていくぞと合図する。
「分かりました。もう一度行ってきます。獏くん行くぞ。」
「我は、あそこは好かん。ここで待つからなんか有れば呼べ。」
「え~摩利支天様。あんなこと言ってますよ。」
摩利支天はククっと笑ってから、獏の尻をこつんと蹴飛ばし顎で行けと指図した。
「うわっ摩利支天様!!何するんですか!!行きますよ…。行けばいいんですよね。」
摩利支天は、ふわふわと手を振って行けと促すのだった。