episode 2 -6 憑依は、ほどほどに
華は、錫杖で千佳の作り出した小さな次元に足を踏み入れた。剣を使うと不安定な次元を壊しかねないと思えたからだ。
「さて、独鈷は使えるのか?華。」
「獏くん。どうかな?」
そんな会話をしながら独鈷を手のひらに乗せるが反応が薄い。ゆらゆらと揺れるだけで宙に浮くこともなかった。
「ま、仕方ないか。ここは、次元の隙間に作られた小さな異次元で通常の次元じゃないから安定してないんだろうし。」
「そうだな・・・早く終わらせたい。狭いところに押し込まれたような、なんとも言えない感覚だ。」
「獏くんも?そんな感覚か~実は、私もそんな感じ。早く終わらせる為にも、とにかく本人を見つけなくちゃね。どうやって探そうかな?ロールプレイングだと出会う人に話しかけてヒント貰うんだけど。時間かかり過ぎて、そんなのやってられないしな~。」
華は、ゲームの内容を思い出しながらギルドのある町を目的地にして歩みを進めることにした。獏の背に乗っていた白狐がちょこんと飛び降りて先頭を切って、走り出した。何かを見つけたらしい。よく見ると小さなスライムだ。
「うわっさすがゲームの世界だな。モンスターとかやっぱりいるんだ。」
白狐は、スライムをパクリと咥えて華の元に持ってきて手のひらにポトリと乗せた。
「手乗りスライムだな。」
「おかしな形の生物だな・・・。スライムと言うのか?」
「ああ。ゲームにはよく出てくる下っ端のモンスターだな。」
「ふん。可笑しなものを作り出すもんだ。」
スライムは、身動きが取れず華の手のひらでプルプルと揺れている。
「これを餌に本人がおびき出せたら簡単なんだけどな。」
華がそう言うと白狐が、また華の手からスライムを咥えて今度は、石の上にそのスライムを置いた。すると突然、スライムが光だした。
「なんだ?なんかスライムに顔みたいなのが・・・。ちょっと・・・待ってなんか嫌な予感がするんだけど。」
「何がだ?」
「だから…もしかして、このスライムがそうなのか?」
白狐は、こくこく頷いている。
「いやいや…。依頼者さん魔法使いとかって言ってたし…。」
「おい。華。これがそうなのか?」
「白狐がそう言ってる。」
「どうやって意思の疎通するんだ?」
「どうしよう。はあ~。ったく頼むよ…。想定外すぎる!!
「華。自分の理想を追求して、夢にとどまってたんじゃなかったのか?」
「なんだか?違うかもしれないな。対価貰えないかも…。」
「おい!!ただ働きじゃないだろうな。」
「え~、もう、摩利支天様に言ってよ。獏くん。」
華と獏は、プルプル震えるスライムに唖然としながらも、とりあえず話せないかと話しかけて見るのだったが案の定、何も話せなかった。
「仕方ない。このスライムだと仮定して、一旦ここを出よう。」
「えっなんて?獏くん。」
「だから。出るんだそれを持って。」
「へ?」
「へ、じゃない。」
「そんなことして大丈夫?」
「知らん。だが何とかなるはずだ。」
「え~獏くん。いつからそんな適当な事言うようになったの?」
「今だ。それにそこの小さいのも頷いてる。」
振り返ると白狐もコクコク首を振っていた。