episode 2 -2 憑依は、ほどほどに
依頼者の元を離れた華が真っ先に向かったのは、摩利支天様の祭られている祠だった。
「摩利支天様~!!出てきてください。摩利支天様ってば~。」
「おい。気やすく呼ぶな!!摩利支天様を…。」
「そんなこと言うなら、獏くんが呼んできてよ。夢魔に入らなけりゃ仕事出来ないんだからお手上げだよ。」
この言葉に仕方なく、獏が動いた。獏は、静かに空間を開き摩利支天様を呼ぶ。
しばらくすると祠からふわっと梅の香りが放たれて、ほんのり明るく照らされて摩利支天が現れた。
「華…。どうした?自分だけで解決できぬか?」
「はい。弾かれて中に入れませんでした。」
「うむ。それをここへ。」
摩利支天が華の持っていた携帯を差し出すように言う。華は、摩利支天の前にそっと置いて、下がった。
「この中の思念に捉われているようじゃな。最近、宙幽層に小さな空間が増え始めている。それの様じゃ。夢魔の仕組みと少し異なる故、弾かれたのであろう。其方らを宙幽層の異空間に飛ばせるようにする。我が与えた錫杖を出しなさい。」
摩利支天は、華から錫杖を預かるとスッと天を突きその後、携帯をコツンとつついた。すると、その異空間が少し華の目にも垣間見える。
「摩利支天様これが?宙幽層ですか?」
「いや。異空間の方じゃ。宙幽層は、人が死に自分の本体の霊魂に戻るまでの間、死を認識させて修行しながら過ごす場所。其方らがうろつく場所ではない。だが、最近この場に来ずに異空間を作って過ごそうとするものが増えておってのう。小さな綻びの様に増え続けて、丁度困っておったのじゃ。」
「それで・・・。今回の依頼をつないだんですね。」
「うむ。異空間は出来てもしばらくすると消えるから今まで、放っておいたのじゃが、あまりに増えるようになったのでな…。閻羅様が中を見てくるものを用意してくれと要請されていたのじゃ。」
「なるほど…。で、見てきてどのように処理すれば?」
「夢喰いと同じように中から喰いなさい。外からだともろすぎてその魂ごと破裂するようじゃからな。」
「えっ魂ごと?寿命関係なくですか?」
「そうじゃ。一度、閻羅様の力で少しつついたら、泡のような異空間は、簡単に弾けて消えてしまい中にあった魂も破裂したとか・・・。華、良いか?いつもの七味の夢魔とは少し違う。それに、異空間の中では、本人がどこにいるか分かりづらいかもしれぬ。其方がそこから出れなくなっては、いけないからね。この子を連れておいき。」
摩利支天がそう言うと祠の中から小さな白狐が現れた。
「獏と共に其方を守るものじゃ。小さいが優秀な子じゃ。もし、異空間で迷うたらこの子が切り裂いた空間に飛び込みなさい良いな?」
「はい。」
「では、今回は、先ほど垣間見えた異空間の中へ行ってきなさい。この錫杖で行けるはず。しかと頼みましたぞ。」
「よし!獏くん!!行こうじゃないか~!!異空間とやらへ。白狐ちゃんもよろしくね。」
「コン!!」
「じゃ、さっさと片付けるぞ。華。」