episode 2 -1 憑依は、ほどほどに
「おい。華…。次は、どこだ?」
「あ~。次さ…止めてもいいけど。」
「何、言ってんだ?」
「あれだよ…。異世界憑依したって、思い込んで出てこない奴だよ。」
「ふん。またか?いったいどうなってる?最近、その案件が多すぎじゃないのか?」
華の受付は、本人の切実な願いがこちら側に通じて初めて受付完了するのだが、ここ最近は、家族が対価を払ってでも夢食いをしてほしいという依頼が舞い込むようになって来ていた。その依頼に答えた最初の一件目がゲームの世界で生きていると本人が本気で思っていて何をしても眠ったまま起きず、その夢を喰うといった案件だった。
依頼者は、母親で、大学生の娘が携帯を見ながら横断していた際に、右折してきた車に当たり、軽い怪我のはずだったが入院して眠ったままだという。華は、本来、依頼者自身と実際に会うことなどなかったが今回ばかりは、そうもいかなかった。まず、依頼者に会うために待ち合わせの場所の公園へ向かった。そこには、50代後半のげっそりとやつれた面持ちの女性がベンチに座って待っていた。
フードを深くかぶりマスクをして、顔を見られない様にその女性に近づいて声を掛ける。
「さて、どうしてたどり着けたのか分かんないけど…受け付けた以上は、依頼内容を聞かせてもらいますよ。」
女性は、マジマジと華を見つめてから。こわごわ声を出して答えた。
「貴方が…。ありがとうございます。実は、交通事故で入院している娘なんですが、怪我も治っているし…。体の状態は、どこも悪くないのに目覚めないんです。とにかく、理由が何かないかと毎日調べていたらいつの間にか貴方にたどり着いたんです。お願いします!!何でもします。目覚めさせてほしいんです。」
華は、ベンチの女性を見下ろしてから何故、この案件が受け付けられた理由がないか考えながら言った。
「分かりました。まず、本来は、依頼人自身がアクセスしてくるから媒介するものが必要ないんです。そんなことをしなくても気をたどれますからね。ですので、今からご本人の入院先まで行くか…?それか~その事故の時に持ってたのがあるなら…あっその時の携帯とか借りれます?そこから、入って見ますから…。」
「あ、有ります!!こ、これです!!」
母親に手渡された携帯を見ながらまず、獏を呼び出し獏の空間に意識を飛ばした。
「変わった案件だな…。華。」
「ああ。獏くん。依頼者は、夢魔を見ている本人じゃない。この携帯を辿って、まず、居場所を見つけないと。それにしても…摩利支天様もどうして今回の受け付けを手伝ったのか?」
「はん?摩利支天様に文句を言うとは、呆れた奴だ。さっさと片付けるぞ。」
「獏くん、君が先に変った案件だと言ったんじゃないかい?」
「うるさい!!早く独鈷をまわせ。」
「分かりましたよ…。」
華は、神獣獏に急かされながら、手のひらに金剛杵独鈷を乗せて念誦する。金剛杵独鈷はグルグルと放物線を描きながら宙を舞い始めると今度は、錫杖を持ち出し『青龍・百虎・朱雀・玄武・空珍・南儒・北斗・三態・玉如・破!!』印を切り、天を衝く。その途端、黒い煙が立ち込めその煙に指で描いて護符を飛ばし、依頼者の夢の中に潜り込もうとしたが今回は、うまく潜り込めずはじかれた。
「おいおい。華。どうなってんだ?」
「こっちが聞きたいよ。獏くん。一旦、出るからちょっと待ってて。」
「ああ。」
獏は、スッと消え…。華は、依頼者の前に意識を戻して依頼者に話しかける。依頼者にとっては、ほんの数分だが華にとっては、1時間ほどは体力を使っているような状態だ。
「依頼者さん…。少し時間が必要だ。この携帯3日ほど借りるけど良いかい?」
「ええ。それで、どうなんですか?」
「まだ…。なんとも。この仕事は、0時にしかできない。3日後の0時にまた会いましょう。」
そう言うと華は、依頼者の元を離れて闇夜に消えていくのだった。