表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】獣人の国に嫁がされた聖女は、おまえを愛することはないと宣言される〜私はもふもふに囲まれて幸せです〜  作者:
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/53

初めての欲望~フェルナン視点~

 シェノバ国の王弟として内政の仕事をしていた私は、ある日シェノバ国王である兄に唐突に呼び出された。


「ストファリア帝国を調べて参れ」


 十歳年上である兄は当然のように命令した。


(私の積み上がった仕事は無視か)


 また仕事の調整をし直さなければ、と考えながら兄である王に訊ねた。


「近年のストファリア帝国は隣国に無謀な戦争を仕掛け、我がシェノバ国も国交を断絶したばかり。それを何故、私自ら調べる必要が?」

「状況が変わったのだ。皇帝であったマクシムは暴君として幽閉。今のストファリア帝国は先帝派が政権を握った上に、獣人の国と同盟関係も継続している。場合によってはシェノバ国の脅威となる。対応を誤るわけにはいかない」


 ストファリア帝国は古くからある国の一つで、昔はこの大陸を統一していたという逸話まである。しかし、近年は弱体化し、国土は減るばかり。

 それが賢君と名高い先帝の統治で復活の兆しを見せていた。それが、暴君マクシムによって転落。しかし、その先帝派が再び政権を握ったとなれば、動向が変わるのは必然。


「では、ストファリア帝国の何を調べて参りましょう? 先帝派の動きでしょうか? それとも、政権内の派閥でしょうか?」

「いや。一つは、幽閉されたマクシムの現状。再び政権に復帰する可能性があるか。次に、国交を再開させるべきか、どうか。隣国であるがゆえ、早急な判断が求められる。最後に、傾いていたストファリア帝国が、短時間でここまで回復した理由。いくら先帝派が優秀とはいえ、この短期間にあれだけ治安が乱れ、荒れていた国内がここまで安定するには、何か理由があるはずだ」

「わかりました」


 そこで兄である王が一息吐く。


「あと、先帝の忘れ形見、セシリア皇女についても」


 私は初耳なことに目を丸くした。


「先帝に娘が? ですが、社交界でも姿を見たことはありませんし、そのような噂を聞いたこともありません」

「存在を隠していたらしい。今もあまり表に出そうとはしない。杞憂かもしれぬが、何か理由があるかもしれぬ。調べてきてくれるか?」

「御意」


 この命令により私は情報を集めた。

 暴君と呼ばれたマクシムはその影もないほど衰え、抜け殻となった体で過ごす日々。

 その娘たちは修道院へ。男は侵入不可。女でも出入りする者は身元から身分、持ち物まで厳しく管理され、簡単には接触できない。現政権への干渉は不可能。


 そのため、現在の政権は先帝派が強く、先帝と同じ路線で政治を行うなら国交を復活させるのは問題ない。むしろ、有益になるだろう。

 そう結論付けて兄に報告した。すると、


「シェノバ国からの大使として訪国し、ストファリア帝国との国交を再開させろ」


 という命が下った。


 こうして私は従者を伴いストファリア帝国へ。

 何度かの交渉の末、現政権の中心である宰相と、先帝の娘との謁見の約束を取り付けた。


 予定の時間より早めに到着した私は、手続きを従者にまかせ、一人で帝城の庭を散策していた。城と庭は古い様式だが威厳さえ感じるほど。帝国の歴史の長さは伊達ではない。

 感心しながら歩いていると背後から声をかけられた。


「そこの方。落とされましたよ」


 名を呼ばれなかったため、最初は自分のことだとは思わなかった。シェノバ国の王弟として他国でも私の顔を知らない者はいない。

 それなのに……


「失礼いたします。このハンカチはあなたの物ではありませんか?」


 明確に私に話しかけている声。

 振り返ると、白銀の髪の少女がいた。小柄な体に質素なドレス、白い手にはシェノバ国の紋章の刺繍がされたハンカチ。


「私のハンカチです。ありがとうございます」


 礼を言って受け取った私に少女が微笑む。


「いいえ。落とし主が見つかってよかったです」


 穏やかに私を見つめる紫の瞳。それは落とし物を返せてよかったと純粋に安堵しており……


 今までなら、これを機会に私に近づこうと画策したり、もっと印象を残そうとしたり。様々な思惑を巡らせた、ギラついた目ばかり。

 それが、まったくない視線は初めてのことだった。いや、もしかしたら少女は私が何者なのか知らないのかもしれない。

 そう考えた私は自然と少女に声を話しかけていた。


「あの……」

「「バウ! ワウ!」」


 そこに二頭の犬がやってきて私と少女を遮った。少女が屈んで犬たちの顎を撫でる。


「そろそろ戻る時間ですね」


 そう呟いて立ち上がった少女は私に膝を折った。


「突然呼び止めまして、申し訳ございませんでした。私はこれで失礼させていただきます」


 優雅で洗礼された仕草に、私は声をかけようとしていたことも忘れて後ろ姿を見送っていた。


「フェルナン様!」


 従者が呼びに来るまで呆然としていた私は、再び少女と出会えるか、そのことばかりが頭を占めていた。


 それから、ほどなくして通された謁見の間。私は他国からの使者たちと同じように並んでいた。

 先帝の娘は業務に不慣れのため、謁見を希望するなら『短時間で他国の使者と一緒に』というのがストファリア帝国側から出された条件であったのだ。

 そのため私は渋々、他国の使者と肩を並べて待った。王弟である私が他国の臣下と同じ扱い……と不満を感じていたが。


 その気持ちもすぐに吹き飛んだ。


 現われたのは、先ほど庭で会った少女。それは自分の目を疑った程の衝撃だった。


 庭で会った時とは違い、王族の衣装に身を包み、宰相に補佐をされながら挨拶をする。その姿は初々しくも微笑ましく。

 私は好意的に受け取った。


 問題なく謁見を済ませた私は、シェノバ国からの来賓として帝城に滞在することになった。


 表向きは国交を再開させる条約を結ぶため。だが、裏では暴君マクシムによって傾いていたストファリア帝国が、短時間でここまで回復した理由を探るため。


 治安が乱れ、荒れた国を再建するには、かなりの時間がかかると予想された。しかし、その予想をあっさりと覆し、順調に回復している。

 報告によれば毎朝、聞こえてくる歌も要因の一つとあったが、とても信じられる内容ではなかった。そのため、実際に確認をするため滞在を選んだ。


 その結果。


 朝、どこからともなく聞こえてくる澄んだ歌声。心を穏やかにして、気力を引き出す。ここに宰相たちの政策がくわわれば、国の再建の早さも納得できる。


 この歌声の主が先帝の忘れ形見であるセシリア皇女だと知ったのは、後日で。そして、獣人の国に嫁いでいることを知ったのも、その時で。


「……だが、まだ結婚式は挙げていない。しかも、盟約に縛られての結婚。それなら」


 その時、自分の中で初めての感情が生まれた。



「欲しい」



 何をしても、いつも王弟として見られていた。弟だから王にはなれない。兄が王なのだから。

 そして、すべてが兄のお下がりだった。家庭教師も剣の師範も教科書も剣もすべてが兄のお下がり。いずれ兄が亡くなれば国を継ぐ可能性もある。だが、それさえもお下がりで。



「兄とは関係ない。自分だけのモノが欲しい」



 自分を王弟として見ない目。兄の手に染まっていない国。


「ここには、それが揃っている」


 それは今まで感じたことがない渇望だった。



 そこから兄に悟られないように策を考え、密かに人を動かした。巨大地震は想定外だったが、それもうまく利用する。


 地震で崩れた帝城と街。余裕がない人々と獣人との確執が露わになる……予定だった。だが、思いの外、獣人どもが辛抱強く本性を表わさない。


「それも、これまでだ」


 ゴリラの獣人の蛮行を暴くことには失敗したが、次がある。


 従者を連れて帝城へ戻る途中、マントを被った男とすれ違った。頭部は不自然に膨らみ、マントの裾からは微かに毛が揺れている。


 少しして獣人たちの慌てふためく声が響いた。


「そいつを捕まえろ!」

「ライル様が刺されたぞ!」


 その声に自然と口角があがる。



(すべては私の思い通り、万事順調に)



 そして毎朝、聞こえていた歌声が消えた――――――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ