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第八話 

 「フンッ‼私のバカ兄の追っかけなんてやっているから魔導学院を除籍されるのですよ‼この尻軽ッ‼」


 過去の話となるがイヴリンは俺のパーティーと一緒に冒険する間に出席日数が足りなくなって王立魔導学院から除籍処分をされている。

 当時の話になるけど俺、彼女に好かれているなんて思ってもいなかったよ。ははは…。


 「ええ。その通りよ。アンタのお兄さんの追っかけをやっていたせいで私は除籍処分を受けた後それがバレて実家から追放された挙句、レスターはオリビアと結婚(出来婚)。笑いたければ笑うといいわ‼」


 止めろよ!エリザとリンナが俺を親の仇の凶悪指名手配犯みたいに俺を見ているじゃないか‼


 「大丈夫ですよ、イヴ先輩。私と一緒に被害者の会を作りましょう!」


 「最低…。顔が良ければ何をしても許されると思っているのね」


 イヴリンは被害者女性のように泣いている。

 

 エリザとリンナはそんな彼女を守るように俺を威嚇していた。


 「あひゃひゃひゃひゃひゃッ‼超ウケルーッ‼何イヴ?お前レスターに振られたの?あひゃひゃひゃひゃひゃッ‼」


 最悪のタイミングでベンジャミンが現れた。


 ベンジャミンはこれ見よがしとばかりに追い打ちをかける。鬼だった。


 「まあ仮にお前とレスターがくっついたとしても幸福にはなれなかっただろうがな‼なぜならば俺が地の果てまでストーキングして邪魔してやるからだ‼あひゃひゃひゃひゃひゃッ‼」


 何て酷いヤツだ。あんな奴の下で働いていたなんて今さら考えたくもない。


 イヴは、何というか感情が失われた顔になっている。

 だよなコイツの事を知っていたら相手にするだけ無駄だってわかっちゃうもんな…。


 「はあ…。何ていうかこの下種が出てくると色々と冷めちゃうのよね。ところでジニーたちは何でケーキ屋さんに来ているの?」


 「お前たちと同じクエストの達成を記念した集会ですよ。もっとも私たちのクエストの難易度はS級、お前たち下っ端とは比べものになりませんけどね」


 ユージニーは黒いビスケットみたいのをガリガリやっていた。

 …持ち込みじゃなくてバイキングのメニューなのでOKなのか。

 アイツそういうところには五月蠅いからな。


 「うひひっ、お前らの不幸は俺の幸福。そして俺の幸福はお前らの不幸。わかるよな、レスター?俺は今猛烈にメチャ幸福を欲しているのだ‼あひゃひゃひゃひゃッ‼まずは俺の自慢話を聞いてもらおうか‼実はな今回のクエスト達成によって俺たちはSランクの頂点に立った。それは即ち”神の試練”に挑む資格を得たという事だ‼」


 ベンジャミンは大笑しながら天井に向かって人差し指を立てる。

 その姿を見た店内のスタッフたちは逃げて行った。

 あっ!汚ね!アホの世話を押しつけて行きやがった!


 「神の試練ですって⁉ベンジャミン、貴方もしかして二人目の神勇者を目指しているの⁉」


 「俺ほどの男ならば神勇者なんて称号が無くても無問題なんだけどなあ…。周囲まわりがそろそろ頂点トップを取っておけって五月蠅いわけよ。あひゃひゃひゃひゃッ‼イヴよう、オデコにサインしてやろうか⁉」


 「いるかッ‼」


 イヴリンは次々と氷系の攻撃魔術”アイスニードル”を放ったがベンジャミンには届かない。


 「あひゃひゃひゃッ‼そんなレベルの低い魔術では俺を傷つける事は出来ない。ダーナの至宝”リア・ファル”の宝玉がある限りなあ‼」


 出たよ、ヤツの神器”リア・ファルの宝玉”さ。

 一定レベルの魔法、物理、精神の攻撃ならば全て分解してしまう”最強の盾”残念ながら俺の持っている神器とは比べものにならない。


 だが致命的な欠点もある。それは見てのお楽しみということで。


 「ベンジャミン。本番ぼうけんの時に使うならともかく…」

 

 我が妹ユージニーはジト目でベンジャミンを見ていた。


 ベンジャミンの真上にぐつぐつと煮えた激辛トマトソースの入った石焼鍋が出現する。

 そしてベンジャミンの背後に戦の神オグマが幽波紋スタンドっぽく登場する。

 

 オグマはベンジャミンの口を強制的に開いた。


 「あひゃひゃひゃひゃひゃッ‼他人に嫌がらせをして果てるなら本望ッ‼俺は雲のベンジャミンッ‼何物にも…」

 

 激辛トマトソース、注入。


 「ごおおおおおおおおッ‼これくらいどうって事ない‼三倍は持って来いぃぃぃ‼」


 すげえ。憧れるかもしれん。俺たちは口から火を吐いて絶叫するベンジャミンを見ていた。


 「大丈夫ですか、ベンジャミンさん…」


 巨漢レイはベンジャミンに膝枕をして氷嚢で口を冷やしてやっていた。

 奴の顔は今、ドラクエに登場するクチビルが本体みたいなモンスターのようになっていた。


 「はあはあ…。そういえばしのぶの野郎の姿が見えないが、どうした?」


 「しのぶはその辺でお菓子を取りに行ってるよ。アイツはどうせバイキングのメニューをフルコンプとかしようとしているんでしょ?」


 俺はそう言いながらしのぶの難儀な性癖にうんざりしてため息をつく。

 昔からしのぶは実績にばかり拘っていて他の事には興味を示さない。

 多分俺がベンジャミンのパーティーから独立すると言った時もそんな感じだったんだろう。


 「クソッ‼しのぶはどこへ行ってもしのぶか…。おい、能無し。しのぶはそっちで偶に”こんな時にベンジャミン様がいてくれれば…”とか言ってねえか⁉」


 クチビルお化けが怒っている。


 「全然。最近はベンジャミンの名前さえ出さなくなったよ」


 「……ッッッ‼‼‼(溜め)アルティメット・ベンジャミン・ゲンマイレイジングストームッッ‼‼‼」


 そしてブチ切れた。


 「レイ、お前のスキルで店内に穴を掘れ。そして落とし穴を作ってしのぶのスイーツフルコンを阻止しろ。リーダー命令だ」


 「うえええええええッ⁉」


 ブギーポップみたいな帽子をかぶった大男が大層驚いている。

 甘いな基本的にベンジャミンはアタマのネジが外れているんだ。

 この程度で驚いていてはこの先もたないぞ?


 俺がうんうんと相槌を打っているとしのぶがユーリと一緒に現れた。


 トレーの上は俺たちの期待を外さず小さなケーキが一個ずつ乗っている。

 どう考えてもフルコン狙ってるんだよな。


 「おいおい。こんなところで何をしてるんだよ、レスター。バイキングは90分だぞ。まだ半分もスイーツ図鑑が埋まっていないじゃないか?」


 しのぶはその場で冒険の書を展開し、食べたスイーツという項目を見せてくれた。

 コイツ、この短時間に6割はくっていやがる‼俺たちはとんでもない男を味方にしてしまったのかもしれない…。


 「しのぶー、私はもっとゆっくりおやつを食べたいニャー。こんなペースで移動していたら落ち着いて食べられないニャ」


 ユーリはげんなりとしながら、それでもドーナツを一個ずつトレーに乗せていた。

 何て律義なヤツなんだ。


 ユーリは疲れ切ったような顔で俺に助けを求める。

 こっちは怪人ベンジャミンのせいでどれどころじゃないのに。


 「おおっとぉ‼これは我がパーティーから逃げ出したふじわらしのぶ君と入団試験に落ちた田舎者の小娘じゃありませんかー!ぎゃはははははははっ‼」


 ベンジャミンは回復系の最高クラスの魔術”マックスヒール”を使って自分の顔を元に戻した。

 どこまで見栄っ張りなんだか。


 俺たちは後ろから呆れた様子で二人のやり取りを見守る事にした。


 「ベ、ベンジャミンだニャ‼怖いのニャ、しのぶ‼」


 ユーリがしのぶの後ろに隠れてピッタリとくっつく。

 実はユーリはベンジャミンのパーティーの入団試験に落ちてベンジャミンから嫌味を言われまくった過去があるのだ。

 正直、俺も聞いていて精神的に凹んでしまった。


 「ベンジャミン、久しぶりだな。ユーリは俺の大切な仲間だ。傷つけるというなら容赦しないぞ」


 しのぶはベンジャミンとユーリの間に割って入った。


 「しのぶも落ちるところまで落ちたものよのう…。そんな田舎娘の為に体を張るとは…、昔のお前ならその娘を盾にして俺に挑んできたはず」


 ベンジャミンは舌をレロレロしながら笑っている。


 クソッ‼アイツの部下だったという過去を改変してえッ‼


 「人は変わる物なのだよ、ベンジャミン君。昔のマキャベリストな俺は死んだ。今の俺は仲間との絆を何よりも大切にする男。さあ、親友だったお前がユーリを傷つけるというならいつでも戦うつもりだ‼」

 

 「わー‼しのぶはやっぱり頼りになるニャー‼」


 しのぶに守られたのが余程嬉しかったのかユーリは飛び上がって喜んでいる。


 若いな。後で絶対にめんどくさい仕事を押しつけられるぞ。


 俺とガンドーとイヴはジト目であくまで茶番を続けるしのぶを睨んでいた。


 「はっ‼如何にも脆そうな連中だな…。ベンジャミンさん、こいつ等の事は俺に任せてくれませんか?」


 レイとかいう大男がのそりと立ち上がる。

 ベンジャミンの隣に並ぶとまるで大人と子供だ。

 

 三メートルはあるんじゃなきか⁉

 どんなモンスターの肉を食ったらあんな身長になるんだよ‼


 「俺の身長は三メートルねえよ‼ていうかお前の個人的な感想、全部口に出てるぜ‼」


 レイという男は大声で騒ぎ始める。

 見た目は無口っぽいけど、話好きな性格かもしれないな。

 

 む。ヒゲがボーボー生えているけど、よく見ると顔つきは若い。

 もしかしてウチのジニーより年下かもしれないな。


 「レイ。お前に任せるのも一興だろうが、その男ふじわらしのぶだけは俺が潰さなければ腹の虫が収まらねえんだ」


 「土下座ならいつでもするぞ?」


 しのぶは既に正座をしていた。


 「ハッ!お前のスマイル0円みたいなプライスゼロの土下座なんて俺は求めていねえのよ。俺が求めているのは常に完全勝利だ」


 ベンジャミンとしのぶは向かい合って火花を散らす。

 外見的にはベンジャミンの圧勝だが、しのぶはベンジャミンに対して微塵にも動じる様子はない。


 それどころかカメレオンのように舌を伸ばしてトレーの上のチョコを食べている。


 「相変わらず好戦的な性格だな、ベンジャミン。だが真剣勝負ならば受けてやろう。べろんっ‼ベーゴマ、メンコ、好きな方で勝負をしてやる‼」

 

 しのぶはベイブレードのセット一式とメンコを持っていた。


 流石はしのぶ、最初から用意していたとは‼


 「ハッ‼誰がお前の得意とするフィールドで戦ってやるものかよ‼俺はコイツで戦うつもりだ‼」


 

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