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第五話

 俺たちは聖剣を手に入れたがオッサンの尻に刺さっていた上に陰毛が生えていたので売り払う事にした。

 だが、この選択が間違っていたとは俺は思わない。

 後で本拠地に戻った時にアイテム鑑定してもらったら”レスター専用装備”って書いてあったから。

 守銭奴のしのぶは最後まで渋ったが俺はリーダー権を発動し、売却を決行する。


 「おう、お前らか。今日は何の用だ?」


 ハゲ頭の細マッチョは愛嬌のあるウィンクをして俺たちを迎える。

 この男の名前はジン、前に魔物使いのリンナを紹介してくれたケントスのパーティーの人間で先輩にあたる。


 「ジン。早速だがこの剣を見てくれ…」


 しのぶは道具袋から聖剣を取り出した。

 先日ムダ毛処理をしているので陰毛は残っていないはず。


 「どれどれ、ちょっと借りるぜ…」


 ジンは剣を持ってカウンターの奥に引っ込む。

 よその店ならばNG行為だが、顔見知りのジンならば持ち逃げされる心配もない。と俺が考えているとしのぶはジンの店の扉という扉に罠を仕掛けていた。

 

 持ち逃げすれば生かしてはおかない、というしのぶらしい心構えだ。

 これで何人の人間が死んだ事か…。


 「おい‼しのぶ、レスター‼悪いがコイツは俺の店ではあつかえねえぜ‼」


 ジンはすごい剣幕で店先に戻って来る。

 俺は普通に待っているだけだったが、しのぶは触れると爆発する鋼線を仕掛けている最中だった。


 「目利きのジンも落ちたもんだな。その聖剣はSSRランクのアイテムだぞ?」


 「SSRはSSRでも、こんなエッチな毛が生えた剣はあつかえねえよ…」


 ジンは剣を鞘から抜き出す。

 薄紅色の刀身にはビッシリと陰毛が生えていた。

 

 ええッ⁉

 今日の為にイヴリンからムダ毛処理ムースまで借りたのに…。


 「ジン、これがレアアイテムのレアアイテムたる由縁だ。世界中を探したってこんなボーボーに毛が生えた剣は見つからないぞ?」


 しのぶはしつこく食い下がる。


 「いや、それ以前にこれって聖剣だろ?聖剣の取引は基本的に王家か、神殿でしかやってねえよ」


 ジンの話を聞いて俺も聖剣の売却が法律で禁止されている事を思い出した。

 聖剣、魔剣のような神、天使、魔神、大悪魔が関わっているレアアイテムには世界のパワーバランスを破壊してしまうような力がある為に個人が所有することは禁止されていたのだ。

 仮にも神に選ばれた勇者である俺がルールに背くわけにはいかない。


 さてしのぶをどう説得するか…。


 「そこを何とかするのがプロだろうが…ッ‼ケツの穴にゴーヤー突っ込んでやろうか?」


 しのぶ、苦瓜は食べ物だ。大人の玩具じゃない。


 俺は拳から血を流しているしのぶをジンから引き離した。

 このままではしのぶは間違いなくジンを殺してしまうだろうから。


 「帰るぞ、しのぶ。一度本拠地に戻ってそれから考えよう」


 俺はしのぶを羽交い絞めにして連れ去った。


 そして本拠地に帰還。

 前回のクエストの報酬をもらう為に主要メンバーが会議室に集まっていた。


 「しのぶ、バッチイ剣はいくらで売れたのかニャー?」

 

 部屋に入って早々にユーリが地雷を踏んだ。


 しのぶは下を向いたまま「とりあえず席に座ってくれ」と言って黒板の前に立つ。


 「あの、エリザ先輩。しのぶさん、どうかしたんですか?」


 先輩という単語を聞いた瞬間、エリザの目が輝く。


 (せんぱい…。センパイ…。先輩ってワタシの事?この娘、ひょっとして私にリスペクトってる⁉)


 エリザの中でリンナの評価はダダ上がりした。


 「さあ、しのぶは数字にしか興味がないから…。きっと労力に見合わない働きをさせられて自己嫌悪に陥っているんだと思うけど」


 エリザはコンパクトを開いて化粧が落ちていないかチェックしている。

 あの調子ではリンナは自分に弟子入りするんじゃないあkとか考えているだろう。


 「前回の聖剣を手に入れるクエストだが、目的は達成したが成果を得る事は出来なかった。全ては俺の力不足が原因だ。すまん」


 しのぶは机に手をついて頭を下げる。


 コイツ頭を下げる事に抵抗がない性格だから反省しているようには見えないんだよなー。


 鼻をホジホジ…。


 あ、みんな俺と同じ事をしている。


 「おい、しのぶ。そんな事より俺のギャラはどうなったんだ。もう通販でオナホールとバイブとローション、注文しちまったぞ?」


 ガンドーは大げさなジェスチャーをしながらしのぶを非難した。

 いやいや、こんな場所でセクハラ発言をするお前こそ非難される立場だろ。


 「ギャラか。用意する事には用意したが…そうだな、形だけでも受け取ってくれ」


 しのぶはガンドーにお金が入った袋を渡した。


 ガンドーは袋の紐を解いて中身を確かめる。


 ひい、ふう、みい…の百万ゴールドくらいか。

 普通の報酬額だった。


 「おお、流石はしのぶだぜ。これだけあればバターを塗った俺のアレをぺろぺろしてくれる犬も調達できるぜ」


 ガンドーはお金の入った袋をポケットに突っ込む。


 犬って…犬で何するつもりなんだよ‼


 しのぶは次にエリザの座っている場所まで言って袋を渡した。


 「エリザ、今回はありがとう。チームメイトの心のケアも俺の仕事のうちだ。これからは特に気をつけるよ」


 「ま、まあ当然よね!このスナイパー様がいなければ困るだろうしぃ!…出来れば次回の冒険もお声をかけてくださいぃぃ」


 最後は消えそうな声になっていた。

 

 そして袋の口を開ける。

 中には二百万ゴールドくらい入っていた。


 ガンドーが百万でエリザが二百万⁉…って逆じゃないのか‼


 「し、しのぶ‼こんな大金受け取るわけにはいかないわ‼これってアレよね…、手切れ金ってヤツでしょ?」


 「?実は今回お前が退治してくれたワイバーンは賞金首モンスターだったんだ。これでもむしろ少ないくらいさ」


 エリザはテーブルの上で硬貨を並べて何かの計算をしている。

 

 その際に「やった!久しぶりにパンの耳じゃないものが食べられる‼」とか言っていた。

 B級冒険者の生活なんてこんなもんだ。


 「リンナ。今回の努力賞はお前だ。少ないかもしれないが今回はこれで我慢してくれ」


 しのぶは小さな袋を渡す。


 リンナは袋の中からゴールド硬貨を取り出し早速数えていた。


 「し、しのぶさんっ!これって八十万はありますよ⁉新人の給料じゃありませんって‼」


 リンナはそう言いながら硬貨を袋の中に戻して、腰のポーチに入れていた。

 

 そんな風に言うなら返せよ。


 「確かに今回の仕事ではお前の力不足は一目瞭然だったが、お前の技術スキルが無ければ達成できなかったのも事実。将来への先行投資って事にしてくれよ」


 しのぶは些細な事を気にするなと笑っている。


 リンナはよほど嬉しかったのか耳まで赤くしていた。

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