閑話
ここは次元と次元の狭間にある亜空間。
大きい力、小さな力に始まり時、光、闇の力がぶつかり合っているので生半可な力しか持たない者は存在する事さえ許されない過酷にして熾烈な世界だった。
その激流の中を我が物顔で行き来する船団があった。
かつて宇宙そのものを破壊せんとした神々の王ゴッドホーンの末裔たちが乗り込む最強の悪の軍団”ギガノマキア”である。
ギガノマキアに属する船はどれも禍々しく神話に登場する邪神に似ていた。
中でも常に先頭を行く巨大な戦艦、ギガノファング号は力の象徴だった。
デデーン!
ここはギガノファング号の作戦室。
部屋の最奥には巨大な玉座とそこに鎮座する王の姿があった。
デデデーンッ‼
”王”は突如として椅子から立ち上がるッ‼慈悲など知らぬ冷徹な心を持った絶対的な支配者。彼こそが魔王ギガノホーンだった‼
ギガノホーンは立ち尽くし、塵芥にも等しい臣下たちを睥睨する。
そしてため息にも似た言葉をもらした。
「あのさ、みんな…。集まってくれたのは嬉しいけど、今日何かやる気が出ないから…もう解散しない?」
ズコーッ‼
魔王ギガノホーンは額にパシッと手を当てる。
今朝のニュースで彼の星座”スカンク男座”は今日のアンラッキーさんだったのだ。
しかも”何をやっても上手く行かない”と駄目押しをされていたので余計やる気が失せていた。
「フンッ。安い挑発だな、魔王様。その程度でワタシを飼いならせるとでも?」
闇の中から男は現れた。
男がタダ者ではないという事は誰の目から見てもわかる。
彼は黒いマントしか身に着けていなかった。
「フィックシッ‼」
現在ギガノファングの中はエネルギー節約の為に暖房はつけっ放しではない。
「安心しろ、同志たちよ。寒さに体が反応した、それだけの事」
男は周囲に侮蔑的な冷笑を浮かべる。
本当に寒いだけなのかもしれない。
「ヌーディッシュ‼調子に乗るなよ、若造が。こんな寒い場所に裸同然の姿で現れるとは…そこまでして目立ちたいか‼」
巨大な斧を持った竜頭の戦士が怒号を発する。
先代の魔王イワシノボーンから魔王に使える老将軍ボルケナスである。
「ご老人、言葉に気をつけろよ?これは私の服がまだ乾いていないからマントしか身に着けていないのであって売名行為の為にしているわけではない。寒ッ‼」
ヌーディッシュはきっぱりと否定した。
へくしッ‼
その直後、くしゃみをする。
「お待ちなさい、二人とも。魔王様の御前で争いなどみっともない」
言い争う二人の将軍の前に銀髪と褐色の肌を持つ美女が現れる。
彼女の名はヤマンダ、ダークエルフの女性だけで編成された特殊精鋭部隊”ガン・グロ隊”の隊長だった。
「そうだ!そうだ!」
ヤマンダにギガノホーンが便乗する。
ぎろり。
ヤマンダが三人を睨みつけると全員が示し合わせたように黙ってしまった。
「とにかく魔王様の野望を脅かす勇者が現れる前に対策を講じましょう」
「ハイ!」
「魔王様、どうぞ」
「巨大化して人間界の上空からウンコをする」
ヤマンダは空間から不気味な人形を取り出した。
そして人形の口を開いて毛を一本食べさせる。
そしてヤマンダは瓶の蓋を開け、人形の鼻に七味唐辛子をふりかけた。
「ぶもおおおおおおおおおッ‼」
魔王は鼻をおさえながら地面に転がった。
これがヤマンダのスキル”呪術”だった。
「真面目にやってくださいね?」
ヤマンダは手に持った針を魔王に見せつける。
針の先端は人形の股間に向けられていた。
魔王は前進をガクガクと震わせながら首を縦に振った。
ギガノホーンの総HPは億を越えていたが痛い思いはしたくなかった。
「ヤマンダよ。お前には良い策でもあるというのか?」
ボルケナスは両手で股間をガードしながら尋ねる。
物理系の攻撃なら無敵に近いボルケナスだったが呪詛返しというか呪殺系の魔法に対してはお世辞にも強いとはいえない。
「おい、ヤマンダ。老人の珍宝に針とかマジありえぬぞ」
年の為に注意しておく事も忘れない。
「勇者パーティーの中にスパイを潜り込ませて、例の聖剣を奪取するというのは如何でしょう?」
ヤマンダは髪をかき上げて妖艶な笑みを見せる。
「スパイだと⁉そのような下策を認められるか‼我らは無敵のギガノマキアだぞ‼」
ボルケナスは憤怒の激情をヤマンダに向けた。
生粋の戦士と智謀の策士、この二人は普段から衝突する機会が多かった。
「無敵のギガノマキア?それはあくまで魔王ギガノホーン様が健在であるからこそですわ。自らを勇者と称する狂人が聖剣などという物騒な玩具を手にしたのです。今は最悪の事態に備えるべきでしょう」
ヤマンダは頭の固い老人を小馬鹿にするようにクスリと笑う。
だが老練な武人は己の矮小なプライドよりも万が一の可能性について考えた。
「小娘が小賢しい事をぬかしよる…。だが魔王様の覇道を邪魔になる物は少ないに越したことはない。その策とやらを聞いてやろう…」
「流石はボルケナス様。危険を冒してまで話した甲斐があったというものですわ…」
ヤマンダは細長く美しい指を鳴ら…そうとしたが鳴らなかった。
ピシッ‼
「ひぎゃん‼」
代わりに近くにいたヌーディッシュを引っ叩いて音を出す。
「アンタの出番だよ。さっさと出ておいで」
闇の中から一人の男が現れた。
男は口元を布で隠していたが、短足寸胴のフォルム的にふじわらしのぶである事は明白な事実だった。
「貴様がスパイか。フン、信用ならんな」
「ご安心ください、ボルケナス将軍。勇者の首は必ずこの私ふじわらしのぶが魔王様の御前にお持ちしましょう」
ふじわらしのぶは不気味に笑う。
勇者パーティーのふじわらしのぶがなぜ敵に回ってしまったのか。
それは第二部というか二話で明らかになることだろう。マジで続く。