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第二話

 場所は変わって酒場のカウンター奥にある応接間。

  

 しのぶはリンナに書類を渡した。

 

 リンナはマジックペンで書類に経歴を描き込んでいた。


 「好きな〇ックの形は?ザー〇ンはゴックンできるの?」


 ガンドーがニタニタと笑いながらセクハラを始める。


 シャッ‼


 しのぶの忍者スキル”斬首”が発動。

 

 ぽんっ。


 ガンドーの首が地面に落ちた。

 リンナはよほど緊張しているのか全然気がついていない。


 しのぶはニヤケ顔のガンドーの頭部を胴体にくっつけて”復活”の魔法を使う。

 こう見えて保有している僧侶のスキルはマスタークラスだった。


 ガンドーは復活してからも止まらない。


 「道具は?何本まで刺さるの?野外の露出プレイの経験は?」


 シャッ‼


 しのぶの”斬首”が発動し、ガンドーはまたもや生首になった。

 しのぶはリンナの記入が終わるまでガンドーの死体を浄火の魔法で灰に変えておいた。


 「こういう感じ…です」


 リンナは眼鏡の下の大きな瞳を輝かせながら俺に書類を渡す。


 …これまで冒険してきたのは全て初心者用の洞窟か遺跡。

 モンスターとの戦闘経験は5回(全てチュートリアル戦闘)。


 俺は無言でしのぶに書類を渡した。

 しのぶも書類を見て言葉を失っている。


 「リンナさんでしたっけ、町の外に調査に言った経験は?」


 リンナは花が咲いたように笑った。


 「ゼロです‼」


 「リンナ、悪いけどこれじゃあ俺たちの冒険には…」


 俺は後ろ髪を引かれるような思いでリンナに不採用を伝えようとした。

 

 するとリンナは「ええッ‼憧れの勇者に使用済みの傘袋のように捨てられたので、邪神の呪いで勇者たちにざまあします‼的な展開ですか⁉」とか大声で言い出した。


 「まあ待て、レスター。ここはリンナのやる気を買ってやろうじゃないか」


 しのぶはやけに物分かりの良さそうな中年みたいな顔をしている。


 「本当ですか‼気持ち悪い顔のおじさんッ‼見た目は性犯罪者っぽいけど誰にでも長所ってあるんですね‼」


 リンナはその場でぴょんぴょん飛びながら喜んでいる。


 「はっはっは。君のようなお嬢さんから見れば私はそういう風に見えてしまうんだろうね。…ミッション中は朝五時起きだから覚悟しておけよ、メス豚」


 しのぶは懐から苦無を取り出して首をかっきる動作をした。


 リンナは顔面蒼白となりケントスに救いを求めるような視線を送る。


 「馬鹿。レスターのパーティーじゃ早起きとか徹夜は当然だって言っただろうが」


 レスターはリンナの懇願を一蹴する。


 「ようこそ、チーム・レスターへ。歓迎するぜ、子猫ちゃん」


 こうしてリンナは復活したガンドーに手を引かれながら本拠地に向かった。


 今まで当除していなかった俺はどうしていたかって?


 注文したカルボナーラをしっかり食べてから言ったのさ。


 午後。

 

 俺は本拠地にしている宿屋に向かった。

 昔は地方貴族の別荘だったが貸し切り状態なので常時20人くらいの冒険者がいる。


 俺はフロントの魔術師に声をかけてから会議室に向かった。

 会議室の中ではしのぶが主力メンバーたちに今後のスケジュールを説明していた。


 「何か、質問は?」


 しのぶは例のモンスター”お尻に剣が刺さった男”が出現するというオロナイン平原までの地図を魔法黒板に書き終えたところだった。


 狂戦士のガンドーは亀甲縛りにされて天井からつるされている。

 あられもない姿を凝視する俺を見て「こういうのも悪くはないな?」と同意を求めてきたので無視することにした。


 残念だが俺は変態じゃない。


 「し、質問…」


 パーティーの後衛の要たる弓使いの上位職である”狙撃手スナイパー”のエリザが手を挙げた。

 

 「何だ?」


 「あの、その…。見たことがないがいるんですけど…」


 エリザは連弩に矢を装填してリンナに向けた。


 「待て、エリザ。コイツは不審者じゃない。新しくメンバーに入った」


 しのぶ言いかけた瞬間、エリザは奇声を上げながら連弩を乱射した。


 「きいいいいいいいいいッ‼この泥棒猫があああああああッ‼アタシの、たった一つの居場所を奪うつもりかあああああッ‼」


 しのぶは音もなくエリザの背後に回り込み、首の付け根に手刀を落とした。


 「あふん」


 エリザは気を失う。


 パーティー内でも最強クラスの実力を持つエリザだったが根暗な性格と極度の対人恐怖症という悩みの種を抱えていた。


 「落ち着け、陰キャモブ女。コイツはサポート専門の新メンバーだ」


 「しのぶ…。アタシ本当は知っているんだ。本当のアタシは頭のイカれた殺人鬼か何かで病院で拘束具をつけられていて睡眠薬で眠らされているんだって。アンタもレスターもアタシの作り出した幻覚なんだろ?」


 …被害妄想も凄かった。


 「いいか。これが最後の忠告だ、陰キャモブ女。後でゲロ吐くほどスィーツ奢ってやるから今は黙っとけ」


 スィーツと聞いてエリザは硬直する。

 彼女は今月のギャラを全て新装備の為に使い果たしてしまったのだ。


 「ガムシロップ、ジョッキで飲んでも怒らない」

 

 「もちろんだ。その時は他人のふりをするけがな」

 

 しのぶは首を縦に振る。


 エリザは沈黙した。


 しかしリンナには相変わらず殺意の籠った視線をぶつけている。


 「しのぶ。テイマー入れる理由はわかったけどさ。その後はどうするつもり?」


 話が勝手に進んでしまったが、聖剣の話はしておいた。


 「魔王とやらを倒すんだろうな…」


 しのぶは口に手を当てながら何かを考えている。

 既出の情報には魔王の魔の字もまだ出ていない。


 しのぶが俺の妄言につき合っているのは俺の人望ゆえだろう。

 俺はしのぶにウィンクを送る。


 「気持ち悪い事をするな、レスター。俺は魔王以上にモンスターの尻に生えている剣の事が気になっているだけだ」


 「ああ、確かに臭そうだニャー」


 パーティーの主力の一人ユーリが頷く。

 彼女は辺境に住む少数民族の出身で虎を模したフードを身に着けている。


 「その通り十中八九、聖剣からはウンコ臭がキツイだろう。俺も近寄りたくない」


 「待てよ、ユーリ、しのぶ。お前らウンコのスメルを差別してねえか。それって立派なスカハラ(スカトロ・ハラスメント)だぜ?」


 ロープを揺らしながらガンドーが吼える。


 しのぶはガンドーの真下にコンロを置いて火で炙ってやった。


 「ぐぎゃああああああ‼」


 ガンドーの悲鳴をバックミュージックに俺たちの会議は進む。


 「エリザ。お前にはいつも通り敵のHPを削る役を任せたい」


 「ハッ。どうせ仕事が終わったらポイなんでしょ?男ってみんなそう…」


 エリザは親指の爪を噛みながらしのぶを睨んでいる。


 「そういう事は彼氏でも作ってから言え」


 しのぶはエリザに対して容赦はしなかった。

 前に仏心を出して酷い目にあった経験があった。


 もちろん俺もエリザと深い仲になろうとは思っていない。


 「こんなパーティー出て行ってやる‼ど畜生おおおお‼」


 エリザは弓とボウガンを持って出口に向かった。


 しのぶはおろか誰も彼女を止めない。

 ユーリも耳をほじりながらジト目でエリザを見ていた。


 「…また始まったニャー」


 「晩飯までには帰って来いよ、エリザ」


 俺とユーリは投げやりな挨拶をしてやった。


 エリザは「後で謝っても許してやらないから!」と捨て台詞を吐く。


 しのぶは何事も無かったかのように会議を再開させた。


 「さて目標の捕獲だが…。リンナよ、成功する確率はどうだ?」


 しのぶは黒板に全員の肖像画を貼って、ガンドーとエリザの絵には「DEATH」と書いている。

 

 「あわわわ…。ええと”お尻に剣が刺さった男”は聖女系の中でもおとなしい性格ですから私のレベルでも問題はないかと…」


 「尻に剣が刺さっているというのに悠長な生き物だな」


 しのぶは腕を組んで考えている。


 多分仕事が終わった後にどのタイミングでパーティーから追放するか考えているのだろう。


 「ところでリンナよ。幼いころに結婚を約束した幼なじみの男の子とかいるか?」


 ストレートすぎる質問だった。

 ユーリは呆れている。


 「い、いませんけど…」


 リンナは質問の意図が理解出来ずに戸惑っている。


 「そうか。お前ほどの逸材が不憫な事だ。これは朗報なんだがガンドーは独身で実家は金持ちだぞ?」


 しのぶはいい感じでローストされたガンドーを指さす。

 ガンドーは親指を立てながら笑っていた。


 「実家はな‼ちなみに勘当されてます。ガンドーだけに勘当が相当…ププッ、何っつて」


 全然笑えないジョークだった。


 ガンドーは普段から有名な殺人鬼のよろしく仮面をかぶっていたが中身は美男だった。


 「ガンドーさんは結婚についてどう考えているんですか?」


 「どうなんだ、ガンドー?」


 「そうだな。俺は根っからの狂戦士だからな…。週5回くらいはセックスしたいぜ」


 リンナは両手でバッテンマークを作った。

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