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年寄り船乗りの歌 The Rime of the Ancient Mariner  作者: サミュエル・テイラー・コールリッジ Samuel Taylor Coleridge/萩原 學(訳)
3/7

年寄り船乗りの歌 第3部 THE RIME OF THE ANCIENT MARINER. PART THE THIRD.

死神らしきものが出て、船員全滅。ブルー・オイスター・カルト "The Reaper" などかけて頂くと、雰囲気が出ると思う。

うんざりする時が過ぎ。喉は

からから、目はかすみ。

うんざりだ、もううんざりだ!

 しょぼしょぼする目はかすみ!

時に見遣みやるは西のかた、

 とっくり見るに何やら空に。

There passed a weary time.Each throat

Was parched, and glazed each eye.

A weary time! a weary time!

How glazed each weary eye!

When looking westward, I beheld

A something in the sky.


初めは小さな点々だった、

 それから霧のようにも見えた、

動いて次第に、形を取った

 とうとう解った、その姿。

At first it seem'd a little speck,

And then it seem'd a mist;

It moved and moved, and took at last

A certain shape, I wist.

挿絵(By みてみん)

点々、霧、そして形が知れた!

 近づく、今しも近づいている!

水妖をすり抜けるようにして、

 縦揺れ、切り返し、向き変えてくる。

A speck, a mist, a shape, I wist!

And still it neared and neared:

As if it dodged a water-sprite,

It plunged and tack'd and veer'd.


喉は塞がり、唇焼け焦げ、

 もはや笑えも泣けもせず。

我等棒立ち、渇ききって口も利けず!

 腕に噛みつき、血を啜り、

俺は叫んだ、船だ!船だ!

With throat unslack'd, with black lips baked,

We could nor laugh nor wail;

Through utter drought all dumb we stood!

I bit my arm, I sucked the blood,

And cried, A sail! a sail!


喉は塞がり、唇焼け焦げ、

 皆ぽかんとするばかり。…

喜色満面たちまちに、

 有難や!皆歯を見せ喜ぶ、

皆揃って深呼吸、

 全てを飲み尽くさんばかり。

With throats unslacked, with black lips baked,

Agape they heard me call:

A flash of joy;

Gramercy! they for joy did grin,

And all at once their breath drew in,

As they were drinking all.


見ろ!見ろ!もう切り返してもない!

 ここに幸あれ。

風もなく、波もなく、

 竜骨もすらりと立てて!

See! see! (I cried) she tacks no more!

Hither to work us weal;

Without a breeze, without a tide,

She steddies with upright keel!


西日に波は燃え上がる

 その一日も遂に暮れ!

その西の波に乗るようにして

 広大にして明るい太陽が沈み。

そのとき異様な姿が突然

 俺たちと太陽との間に。

The western wave was all a-flame.

The day was well nigh done!

Almost upon the western wave

Rested the broad bright Sun;

When that strange shape drove suddenly

Betwixt us and the Sun.


そしてすぐに太陽は棒で仕切られ

(天なる母よ、我等に慈悲を!)

煉獄の火格子でもくぐり抜けたかのように、

 のっぺりと燃え上がる顔。

And straight the Sun was flecked with bars,

(Heaven's Mother send us grace!)

As if through a dungeon-grate he peer'd,

With broad and burning face.


うわぁ!(思いあまって鼓動も高く)

 なんと速く近づき近づくこと!

船の帆一瞥くれるは太陽に、

 落ち着かない蜘蛛の糸のよう。

Alas! (thought I, and my heart beat loud)

How fast she nears and nears!

Are those her sails that glance in the Sun,

Like restless gossameres!


あの船の肋骨なるや、太陽(あざ)なす

 火格子のようなあの影は?

して、あの女、乗組員は?

 亡霊女と死の伴侶、他に乗る者とてない骸骨船。

あれぞ『死』なるや?2体のみにや?

 女の仲間は死神なるや?

Are those her ribs through which the Sun

Did peer, as through a grate?

And is that Woman all her crew?

The Spectre-Woman and her Death-mate, and no other on board the skeleton ship.

Is that a Death? and are there two?

Is Death that woman's mate?


女の唇赤くして、見た目からして放縦、

 髪は黄色く黄金のよう。

船と同様、船員に同様!

 肌の白さは癩病みのよう、

これぞ悪夢の不死者なれ、

 人の血も凍る人外の蝶。

Her lips were red, her looks were free,

Her locks were yellow as gold:

Like vessel, like crew!

Her skin was as white as leprosy,

The Night-Mair Life-in-death was she,

Who thicks man's blood with cold.

挿絵(By みてみん)

むくろなる船、横付けしてきて

 骰子さいころ振るは2人して

「ようし、やった!私の勝ち!私の勝ち!」

 女はのたまい、指笛吹くこと3度にして。

The naked hulk alongside came,

And the twain were casting dice;

'The game is done! I've won! I've won!'

Quoth she, and whistles thrice.[errata 1]


太陽が縁まで沈む。星という星が飛び出して来る。

 一足ひとあしに闇がやって来て。

遠く聞こえたざわざわと、海の向こうに

 亡霊のうなり放たれて。

The Sun’s rim dips; the stars rush out:

At one stride comes the dark;

With far-heard whisper, o’er the sea,

Off shot the spectre-bark.


聞こえた、そして見ていた横目に!

 心の底から震え慄く、コップ1杯に

生き血でも吸われたかのように!

 星はぼやけて、夜は濃く、

操舵手の顔はランプに白く。

 帆からぽたぽた(したた)(つゆ)が……

かかるは顔を出す月に。

 東の線に上るまで

つのと化す月、明るい星を

 下側の切っ先に付けて。

We listen'd and looked sideways up!

Fear at my heart, as at a cup,

My life-blood seem'd to sip!

The stars were dim, and thick the night,

The steerman's face by his lamp gleam'd white;

From the sails the dew did drip—

At the rising of the Moon.

Till clombe above the eastern bar

The horned Moon, with one bright star

Within the nether tip.

挿絵(By みてみん)

1人また1人と、星を被れる月により、

 呻き喘ぎの暇もない、

身の毛もよだつ苦痛の顔向け

 その目で俺を呪うばかり。

One after one, by the star-dogg'd Moon,

Too quick for groan or sigh,

Each turn'd his face with a ghastly pang,

And curs'd me with his eye.


50の4倍もの生者、

(呻き喘ぎも聞かずして)

心臓高鳴り、常世の灯り、

 次から次に倒れ伏し。

Four times fifty living men,

(And I heard nor sigh nor groan)

With heavy thump, a lifeless lump,

They dropped down one by one.


皆身体から魂飛ばす、

 逃げていったは祝福か悲哀か

全ての魂、我が身をすり抜け、

 飛び退すさる様は我がいしゆみか!

The souls did from their bodies fly,—

They fled to bliss or woe!

And every soul, it passed me by,

Like the whizz of my cross-bow!

water-sprite :セイレーン(Siren)を指す。その名の語源は「干上がる」という意味の Seirazein ではないかとする説があり、降雨ではなく旱魃を、そして船乗りに死を齎す存在として描かれている。

異教の神名は控えながら、その害を信じるのは、キリスト教徒一般に見られる態度ではある。


plunge; tack; veer :いずれも帆走の方法(用語)


A sail! :帆が見えた、つまり他の船が在るという。救助だ!…と思ったか?


steddies := steadies


with upright keel :竜骨を縦にとは、船の正面が見えている。つまり此方に向かっている。


flecked with bars:横木で仕切られたとは、西陽の表面に横縞が見えた。というが、それ自体有り得ない現象で、異変の始まりを表す。


dungeon-grate :dungeon は「地下牢」、その格子 grate の向こうに太陽を捕えたように見えると。


broad and burning face :西陽のことなのに、その描写はアメリカン・コミック『ゴースト・ライダー』の造形を思わせる。


those her ribs :her は到来した船を指し、rib はそのあばら骨。助けが来たと思いきや、船と見えたものは骸骨だった。


Death-mate :骸骨船に乗る女の傍らに『死』、骸骨か何かグリムリーパーのような『死神』に見えたということであろう。ただ、それにしては大鎌を抱えていない。


Her lips were red,:以下に見る女の描写は淫婦 Vamp を表し、この病的美女は明らかに、セイレーンより吸血鬼 Vampire に近い。但し Vampire の存在は、本作の初出時には知られておらず、従って Vamp という言葉もなかった。

言うまでもないと思うが、この毒々しい赤に彩る妖女と死の取り合わせは、第1部の初々しい花嫁と花婿に照応する。その結婚式を前に話を聞かされる招待客としては、夫婦の成れの果てを見せられた気分か。


The Night-Mair Life-in-death: 幽霊船の妖女を名付けてこう呼んだものらしく、確定した訳語は無いようだ。「不死者」というとゾンビの類を指すようで、Life-in-death に死者の蘇り的要素が含まれるか疑問ではあるけれど、他に適した訳語を思いつかない。


Who thicks man's blood with cold. :19世紀半ばまで、ヒポクラテス以来の四体液説がヨーロッパ医療界では支配的であった。体液のバランスを崩すことで病気になるとする。これを逆手にとって「病気になった」と言っているのだが、病気というより我が国の「血も凍る恐怖」に近いと思われる。


hulk :「船の残骸」または「大男」。人体を指すときは「ぬぼうとした」「ウドの大木」的ニュアンスを含む。


whistles :船上で合図のために吹くのだから、遠くまで強く響くハンドホイッスルであろう。

ギリシャ神話のセイレーンは、自らの羽根を以て飛び、その歌で船乗りを引き寄せ食ってしまうのに対し、骸骨船に乗って現れる夢魔は手を下すことなく、船長のように振る舞う。


原註[errata 1]:この後、次の一節を削る。

A gust of wind sterte up behind

And whistled through his bones;

Through the holes of his eyes and the hole of his mouth,

Half whistles and half groans.


My life-blood seem'd to sip! :後の吸血鬼譚とは異なり、「血を吸われた」とは言っていない。


clombe := climb


the eastern bar :海原に月が上る「線」と言ったら「水平線」の筈なのに、horizon とは言っていないのは、次行 bright star と押韻するためか。


The horned Moon :三日月を角の形とし、偃月刀に見立てる。第2部では満月だったのが、三日月になっていたのなら、18日経過している。

しかし三日月なら西の空に浮かんで直ぐ沈むので、上記と矛盾する。新月前の有明の月なら、明け方近くの東の空に上り、夕方までには沈んでいる。南半球では月が北半球とは逆向きに見えるのを、詩人が勘違いしたのか。


One after one,...:断罪の場面。適当ぶっこいた船員全員、1人ずつ煌めく三日月=偃月刀にぶった斬られる。


Four times fifty :語り手を除く船員200名が揃って死亡。軍艦ゆえ乗客 passenger は含まれない。


passed me by, :船員全員の魂が通り過ぎた後、語り手は1人残される。海神の怨みをかったオデュッセウスと同様、アホウドリの呪いを受けたようにも見え、そのような解釈もあるが、採らない。海難事故は、今なお消滅した訳ではない。

これに近い心境を挙げると、『創世記』4章に於けるカインの放浪であろう。


10 主は言われた、「あなたは何をしたのです。あなたの弟の血の声が土の中からわたしに叫んでいます。

11 今あなたはのろわれてこの土地を離れなければなりません。この土地が口をあけて、あなたの手から弟の血を受けたからです。

12 あなたが土地を耕しても、土地は、もはやあなたのために実を結びません。あなたは地上の放浪者となるでしょう」。

13 カインは主に言った、「わたしの罰は重くて負いきれません。

14 あなたは、きょう、わたしを地のおもてから追放されました。わたしはあなたを離れて、地上の放浪者とならねばなりません。わたしを見付ける人はだれでもわたしを殺すでしょう」。

15 主はカインに言われた、「いや、そうではない。だれでもカインを殺す者は七倍の復讐を受けるでしょう」。そして主はカインを見付ける者が、だれも彼を打ち殺すことのないように、彼に一つのしるしをつけられた。

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