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年寄り船乗りの歌 The Rime of the Ancient Mariner  作者: サミュエル・テイラー・コールリッジ Samuel Taylor Coleridge/萩原 學(訳)
1/7

年寄り船乗りの歌 全7部:The Rime of the Ancient Mariner, in seven parts

本作は標題からして、版により微妙に異なる。

"The Rime of the Ancyent Marinere" in Lyrical Ballads (first edition, 1798).

"The Ancient Mariner", in Lyrical Ballads (second edition, 1800).

"The Rime of the Ancient Mariner", in Sibylline Leaves (1817).

"The Rime of the Ancient Mariner", from 1927 edition of Coleridge's work

どれも訳してしまうと大差ない。とはいえ『老水夫行』との邦題にはやや距離を感じるので、とりあえず書いてある通りに訳す。

ギュスターヴ・ドレによる挿絵(版画)が Wikimedia にあるので、Photoshop Express にて加工し追加する。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

The Rime of the

Ancient Mariner.

IN SEVEN PARTS.

挿絵(By みてみん)

by Samuel Taylor Coleridge

挿絵(By みてみん)

老いぼれた船乗りだった、

 3人のうちの1人を止めた。

顎髭(あごヒゲ)伸ばし目をギラつかせ、

  あなたは僕を何故止めた?」

IT is an ancient Mariner,

 And he stoppeth one of three.

"By thy long beard and glittering eye,

 Now wherefore stopp'st thou me?


「花婿の戸口、広々開いて、

  僕は最も近しい親戚。

 お客が揃って、料理も並んで。

  聞こえるでしょう、お祭り騒ぎ。」

The Bridegroom's doors are opened wide,

And I am next of kin;

The guests are met, the feast is set:

May'st hear the merry din."


骨張った手を離さずに、

 のたまうは「船があって、…」

「いや、離せ!髭モジャ変人!」

 やや有って、だらり下ろす手。

He holds him with his skinny hand,

"There was a ship," quoth he.

"Hold off! unhand me, grey-beard loon!"

Eftsoons his hand dropt he.


ぎらつく眼差し金縛り

 婚礼の客は突っ立ったまま

話を聞くこと3歳児のよう

 変な船乗りのなすがまま。

He holds him with his glittering eye—

The Wedding-Guest stood still,

And listens like a three years child:

The Mariner hath his will.


挿絵(By みてみん)

その辺の石に腰を下ろし、

 こうなれば最早(もはや)聞くしかない。

かくて語り出すその(じじい)

 眼光も鋭い船乗り。

The Wedding-Guest sat on a stone:

He cannot choose but hear;

And thus spake on that ancient man,

The bright-eyed mariner.


船には喝采、港に歓声、

 賑々しくも一杯やって

教会の下、丘の下、

 岬に坐す灯台見上げて。

The ship was cheer'd, the harbour clear'd,

Merrily did we drop

Below the kirk, below the hill,

Below the lighthouse top.


太陽が左舷から上る、

 海の下から現れる。

まばゆく照らし、右舷に進み

 かの海の中へと没する。

The Sun came up upon the left,

Out of the sea came he;

And he shone bright, and on the right

Went down into the sea.


毎日だんだん空高く、

 正午に帆柱真上に至るに──

婚礼の客は胸を打つ、

 高らかにもファゴット鳴るに。

Higher and higher every day,

Till over the mast at noon—

The Wedding-Guest here beat his breast,

For he heard the loud bassoon.


挿絵(By みてみん)

花嫁ゆったり踏み入れる、

 頬染めること薔薇の赤。

進めば周りは頭を垂れる

 吟遊詩人の興行さながら。

The bride hath paced into the hall,

Red as a rose is she;

Nodding their heads before her goes

The merry minstrelsy.


婚礼の客は胸を打つ、

 しかし聞くより今は外になく。

かくて語りかけるその爺、

 眼光も鋭い船乗り。

The Wedding-Guest he beat his breast,

Yet he cannot choose but hear;

And thus spake on that ancient man,

The bright-eyed Mariner.


暴風突風ひっきりなし、

 勢い強く暴虐なまでに。

あまりに大いなる翼もて

 掃き遣られるは南の果てに。

And now the storm-blast came, and he

Was tyrannous and strong:

He struck with his o'ertaking wings,

And chased us south along.


挿絵(By みてみん)

帆柱(かし)ぎ、舳先(へさき)には波、

あたかも(わめ)き鼻息もて追われ

敵の影からなお離れられずに

 頭を垂れて逃げる人のように、

軍艦疾駆、暴風咆哮、

 南へ南へ一目散に。

With sloping masts and dipping prow,

As who pursued with yell and blow

Still treads the shadow of his foe

And forward bends his head,

The ship drove fast, loud roar'd the blast,

The southward aye we fled.


辺り一面もはや霧とも(あられ)とも

 冷え込んできたは驚くばかりに

氷が、帆柱の高さに流れ来て

 緑なすことエメラルドの如くに。

And now there came both mist and snow

And it grew wonderous cold:

And ice, mast-high, came floating by,

As green as emerald.


挿絵(By みてみん)

流氷、雪積もる崖、透けても

 見えたは陰気な色のみ。

人の姿なし、知れる獣もなし──

 囲む全ては氷のみ。

And through the drifts the snowy clift

Did send a dismal sheen:

Nor shapes of men nor beasts we ken—

The ice was all between.


氷こちらに、氷あちらに、

 周り全てが氷となって。

割れては(うめ)き、(とどろ)き響き、

 卒倒する苦鳴となって!

The ice was here, the ice was there,

The ice was all around:

It cracked and growled, and roar'd and howl'd,

Like noises in a swound!


挿絵(By みてみん)

やっとのことに横切ったは信天翁あほうどり

 霧貫き渡り到れるならん。

キリスト教徒の魂持てるかの如くに、

 神の名のもと、皆万歳。

At length did cross an Albatross:

Thorough the fog it came;

As if it had been a Christian soul,

We hailed it in God's name.


知らなかった筈の餌をついばみ、

 ぐるりぐるりと飛び回る。

雷音立てて氷は割れて、

 操舵手我等を進め行く!

It ate the food it ne'er had eat,

And round and round it flew.

The ice did split with a thunder-fit;

The helmsman steer'd us through!


挿絵(By みてみん)

南風(はえ)折しも後ろから推せば。

 信天翁ぴったり続いて、

それから毎日、餌やり遊び、

 乗組員が呼べば来て!

And a good south wind sprung up behind;

The Albatross did follow,

And every day, for food or play,

Came to the Mariner's hollo!


霧でも曇りでも、帆柱や横索の上、

晩課に止まること九日。

夜通し煙霧の白きを通し、

月の白光ちらちら見えたとか。

In mist or cloud, on mast or shroud,

It perch'd for vespers nine;

Whiles all the night, through fog-smoke white,

Glimmered the white Moon-shine.


挿絵(By みてみん)

「神の救いを、船乗りよ!

  悪霊からか、かく苦しめるは!……

 その有様何ゆえに?」……いしゆみもて

  射ちしゆえ、信天翁を俺は!

"God save thee, ancient Mariner!

From the fiends, that plague thee thus!—

Why look'st thou so?"—With my cross-bow

I shot the Albatross!

ancient :「古代」から転じて「大昔」と大袈裟に言うのに近い。


bright-eyed :初出当時に催眠術はまだ知られず、メスメリズム(動物磁気)として流行した。これに乗っかった表現で、船乗りが眼力で婚礼の客を呪縛していると。


the harbour clear'd :港から出たのを「クリアした」という言い方で 直前と押韻。そのまま訳すと意味がないので、訳文を弄る。


The ship :Ship は3本以上の帆柱に横帆を張る帆船をいい、あるいは軍艦フリゲートを指す。従って語り手は漁師や商人などではなく、「水夫」というより「水兵」と見るべきであろう。


did we drop :この drop は top と押韻するにしても、「出港した」と取るのは無理。drop には(薬物を)「キメる」といった意味合いもあり、a drop で「一杯やる」ことにもなる。


the kirk :Churchに当たるスコットランド方言。


upon the left :太陽が左舷から右舷へ進むとは、船の南下を示す。


over the mast at noon :正午の太陽が真上に来るのは赤道上。


bassoon :ファゴット(バスーンとも)は、しばしばオーケストラの代わりに用いられた。その音が聞こえてきたとは、結婚式の始まりを意味する。


the drifts the snowy clift :流氷 drift ice は水面が凍結したもの、氷山 iceberg は氷河が千切れたもの。

clift = cliff


ken : = know


Albatross :ボードレールも歌った最大級の海鳥は、しかし実際には尊重されず、今では小笠原諸島にしか居らず、それも1度は絶滅したものと見込まれた。多いと人には迷惑な鳥だったのかもしれない。邦名『アホウドリ』は何とかならないのかと思うが、『沖の大夫たゆう』以下異称は地方名ばかりで通用しなかったらしい。アホウドリは海面で暮らす鳥ではあるが、陸上に営巣するので、その姿は陸が近いという報せでもあった。


vespers nine :vesper は、カトリック教会で日没後にする典礼。教会暦は日没を1日の区切りとするから、晩課は1日の始まりとなる。船上で晩課に励んだわけではなく、鳥が止まるのを燭台に見立てて「1日の始まりが9度」として、"Moon-shine" に押韻している。

もっとも、実際のアホウドリが船に止まることはない。身体が大きく、飛び立つには助走を要し、それもしばしば失敗するような最大級の海鳥に、止まり木から助走なしに飛び立つという小鳥のような真似はできない。


cross-bow :兵器としてのクロスボウは16世紀までに衰退し、この頃には狩猟用。しかし利用法を書いてないので、食用になり羽毛が売れた筈のアホウドリを、目的もなく暇潰しに狩ったことになる。捕ったものは食って供養しろ。



「アホウドリの呪い」として知られる本作ではあるが、実際にアホウドリが飛び回るのは第1部のみ、本人(本鳥?)は呪ってなど居ない。それより終わり近くに顔を出す月の描写を覚えられたし。

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