人生終了7分前。
「死のう。」と思ったのは一週間前のことだった。
理由をいうならば生への倦怠感、即ち退屈だった。
昔はこんなではなかった。もっとダサくて、センスもないし、勉強もできなくて運動もできない。客観的に見てもとてもひどい有様だった。しかし無知ゆえの鈍感さのおかげだろうか。日々はとても充実しているように感じていたし、毎日が輝いていた。
しかし、今は違う。昔のダサくてセンスがないなりのハングリー精神や愚直さはない。でもスマートにもなりきれない。何にもやる気が起きない。何事も中途半端だ。
でも、この一週間は違った。終わりが見えないものに終わりが見えたからなのだろうか、勉強するにも部活に行くにも何をするにもとても頭が冴えていた。まるで頭にかかっていた靄が晴れたかのように。
綿みたいに軽いリュックサックの中身をまさぐる。そしてさっきホームセンターに行って買ってきた荒縄を取り出す。それはどこまでも無骨で無機質だ。これから俺の命を刈り取る凶器を前に背筋が引き締まるような思いがした。だが不思議と恐怖は感じられない。
電車の発車メロディが聞こえてきた。はっとして前を見ると、電車がはるか遠くに駆けていくのが見えた。次に来るのは7分後だ。
暇をもてあまし電車を待っている時、俺の脳内には一つの考えが浮かんできた。ひどく短絡的で乱暴な思考。今死んでしまえばいい。電車が来るのに合わせホームへ飛び込もう。電車の到着を知らせるアナウンスが始まった。今だ。そう思い足がもつれてた風を装いホーム下へと落ちていく。しかし、堕ちることは叶わなかった。
堕ちていくその瞬間、万力の如き力で肩を引っ張られる。そして堕ちていく世界は一転して上昇していく。自殺しようとしてるのがバレた?なぜ?捕まる?俺の脳内に溢れ出した無数の思考を両断するかのように後ろの誰かは声を発した。その声は何度も聞いた声。恋焦がれ憧れ憎んだ声。背後にいたのは幼馴染だった。
彼女は俺の悩みなどちっとも知らないみたいに「フラペチーノ奢ってくんない?」と俺に言ってきた。
「へ?」
俺はただ間の抜けた声を出すことしか出来なかった。