六話 アニータとオリバー 婚約1
「身の程をわきまえなさいよ!」
私、只今3人の令嬢から絶賛絡まれ中です。オリバーと正式に婚約して4ヶ月、これが3回目のお茶会ですが、毎回見事に絡まれます。
「なんで、あなたなんかが、オリバー様の婚約者なのよ!」
「そばかすだらけの茶色い地味女のくせに!」
「うるさい、黙って!あなた方が何を言おうが、オリバーの婚約者は私なの。さっさとあきらめて!」
「……ひどい…」
3人で1人を囲んでおいて、何がひどいんだか。この自称『自分こそが相応しい』ご令嬢は、名乗りもせずにトイレ帰りの私を捕まえて、建物の影に連れ込みこうして罵っていながら、ちょっと言い返せば被害者ぶってくる。
「アマリア様は、あなたと違って繊細なのよ!」
「僕のアニーも、とっても繊細だよ。しかも君たちと違って優しい」
私の後方から声がかかり、ふりかえる。オリバーだ。今日の彼は濃緑のスーツ姿で、長い髪は私の瞳色のリボンでまとめられている。思わず見惚れるほどカッコいいが、その顔は……あーー、この顔はだいぶ怒ってるや。
「オリバー様……」
「私たちは別に…」
「失礼するよ。行こう、アニー」
令嬢達には何も答えず、私の手を引き歩きだす。きっと戻るのが遅い私を心配して、探しに来てくれたのだろう。
「ありがとうね」
繋がれた手に力をこめる。
「僕のせいで、嫌な思いさせたのに…」
「大丈夫だよ。あんなへなちょこ令嬢、何人来たってやられたりしないし。私、強いんだから」
「ふふっ、そうだね。アニーは強いね……ねぇ、アニー、もし僕が君をドレスでエスコートしたら、こんなことは無くなるかな?」
ドレス姿の可愛いオリバーにエスコートされるさまを、思わず想像してみる。ふふっ、良いかも。顔がにやける。
「私は良いけど、オリバーは大丈夫?ドレス着て来れる?」
「……あぁ…ちょっと難しいかも。姉様、そこら辺厳しいからなぁ」
オリバーは7歳で侯爵家に来たが、10歳までは家庭教師の許可が下りず、お茶会には参加しなかったらしい。その後も、自宅で行われる子供も参加可能なお茶会にしか出席しなかったため、デビュー前の令嬢、令息を集めたお茶会に私をエスコートした時、大騒ぎになった。
令嬢達のため息と悲鳴で。
彼女達はまず、オリバーの顔を見てうっとりとため息をつき、次に隣にいる私に気付き眉をしかめ、最後に私が婚約者だと知り悲鳴を上げるのだ。そしてさっきみたいに私に絡んで来る。
「でも、なんとかしないと、毎回あれは面倒だろ?」
「なんとかなるよ。それにオリバーがドレスで着飾ったら、今度はオリバーが令息達にまとわりつかれるかもしれないし」
女装したオリバーは、冗談抜きに天使か妖精にしか見えないからね。
「……それは、もっと嫌だな……僕、女装は好きだけど、男が好きな訳じゃないし」
「まぁ、もしそうなったら、私が助けてあげるから!」
「ふふっ、ありがとう。とりあえず、今日は終わるまで離れないようにしよ?」
「うん」
繋がれた手を見ながら、この手を絶対に離したく無いと思った。