閑話 アニータとオリバー 告白の後
「ドレス、着てみて」
アニーに僕の女装趣味を伝えた直後に、そう言われた。
「ねぇ、オリバーがドレス着たとこが見てみたい!」
きらきらした目と、期待に満ちた顔でそう言われて、僕は少し戸惑った。
(仮)の婚約者になってもうじき3ヶ月、互いにオリバー、アニーと呼び合うようになっていたものの、いざ彼女に女装趣味について伝えるとなると、かなりの勇気と覚悟が必要だった。だから、こんな反応が返ってくるとは思わなかった。
「男が女の服を着るのって、嫌じゃないの?」
「ううん、全然!それに、きっとすごく素敵だと思うし!」
そんな風に言われると、何だか照れてしまう。それでも彼女の言葉に後押しされて、ドレス姿を見せることにした。どうせなら今一番気に入ってるドレスにしたかったので、翌日、アニーに侯爵邸に来てもらうことにした。
当日、アニーには応接室で待っててもらい、自室で着替える。ペールブルーのドレスは、柔らかく艶やかな生地で、身頃と袖の一部にレースが重ねられていて、涼やかな印象のものだ。
それに小さな真珠をあしらったネックレスをつけ、侍女に髪を一部編み込んで、髪飾りをつけてもらう。少しだけお化粧もお願いし、出来上がった僕を、アニーはどう思うだろう?と、不安と期待の両方でドキドキしながら応接室に入っていく。
目を見開き、驚きながらも楽しげなアニーの顔に、僕はほっとした。
「すっごく可愛い!ほんと可愛い!信じられないくらい可愛い!」
僕の周りを回りながら、アニーは可愛いを連呼する。
そのあまりの褒め攻撃に、顔が赤くなるのが判った。
「私よりドレスが似合ってるよ、はぁ、羨ましい」
東屋でお茶を飲みながら、アニーが言う。
「アニーだって可愛いし、そのドレスも似合ってるよ」
今日の彼女はサーモンピンクに小花模様のドレスで、薄茶のレースが所々にあしらわれているそれは、彼女によく似合っている。
「う~ん、こういう素朴な感じの物は大丈夫なんだけど、華やかな物は全然だめだもん」
「そんな事無いと思うよ。ねぇ、もし嫌じゃなかったら、今度一緒に買いに行かない?」
時々行くセミオーダーの店は、普段使いの物から、正装まで扱っており、オーダーメイドの店と違って、値段もそんなに高く無い。
「良いの?」
「もちろん!」
「だったら……二人でお揃いとか、どうかな……あっ、色違いでも良いから…」
俯き、赤くなりながら言う彼女の手をテーブル越しに握る。
「良いね、お揃い!絶対それにしよう!」
その返事に嬉しそうに笑うアニーを見ながら、僕は凄く幸せだと感じていた………