四話 オリバー 幼少期~1
小さい頃から、綺麗な物や、可愛い物が大好きだった。包装に使われていたリボンを大事に取っておいて、箱の中に綺麗に並べていた。そこにはレースの端っこや、ツヤツヤした端切れも入っていて、開ける度にドキドキした。
普段はあまりお化粧をしない母様が綺麗に着飾ると、それを見るだけで嬉しくて、ドレスの裾にまとわりついて離れなかったのを覚えている。
そして、そんな時はたいてい父様が訪ねてきた。時々やってくる父様は、黒髪で背が高く、ひげを生やしていて、僕は少し怖かったんだと思う。あまりなつかない僕を、いつも少し寂しそうに見てた。
でも、その日は少し違った。父様はなんだか照れ臭そうにしながら、後ろ手に隠していたものを僕に見せてきた。それは薄茶色のクマのぬいぐるみだった。
ふわふわで、茶色の大きな目をしているクマは、ピンクの花のついた白いリボンが首に結ばれていた。抱きしめると柔らかく、ふんわりといい匂いがした。
「気に入ったか?」
うんうんと肯く。
「よかった。それはヴァイオラからだ」
「まぁ、お嬢様が?」
ヴァイオラ?お嬢様?
「あぁ、どうせ私はプレゼントの趣味が悪いだろうからと言って、自分の持っていたぬいぐるみをくれたんだ」
「…それ、誰?」
「君の姉様だよ。年は君より3歳上でね、今7歳だ」
「姉様……」
ふわふわで可愛くて、いい匂いがする<これ>をくれた姉様。僕のために自分のぬいぐるみをくれた姉様。まだ会ったこともない姉様を、その日、僕は大好きになった……
僕はぬいぐるみにビィと名前を付けた………
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それから三年後、僕と母様は、父様と姉様のいる侯爵家に迎え入れられた。その二年前に侯爵夫人が亡くなり、その喪が明けたためだと後で知った。
初めて姉様に会う、そう思うだけですごく緊張した。通された応接室は天井が高く、高そうな調度品が飾られていてさらに緊張が高まる。その部屋の応接セットの側に姉様がいた。
父様と同じ黒髪をハーフアップにして、僕と同じ瞳をしている彼女は、凛とした雰囲気の綺麗な女の子だった。
姉様は近づいてくると僕の手を取って、
「ようこそ、オリバー」
そう言ってくれたて、すごく嬉しかったけど、緊張していた僕はただ肯くしかできなかった。その後姉様は、僕と手を繋ぎ部屋まで案内してくれた。部屋にはすでに荷物が運び込まれていて、ベッドの上にはビィが座ってる。
ビィは母様が作ってくれたスカートを穿き、僕が結んだリボンをいくつもつけていた。
「まだ持ってくれてたのね。おまけに、ふふっ、可愛くなってる」
「ビィっていうの」
「そう、ありがとう」
「姉様は……嫌じゃない?僕や母様がここにきて」
ビィを抱え、ベッドに腰掛けて聞く。
「全然嫌じゃないわ」
そう言って隣に腰掛け、僕の頭を撫でながら姉様は色んな事を話してくれた。
姉様の母様はきれいな人だったけど、病弱であまり会えなかった事や、父様が忙しい中でもちゃんと気にかけてくれてたこと、僕の母様の事を知った時少し悲しかったことも。それでも弟がいると知ったときは嬉しかったと、声を強めて言ってくれた。
「だから、オリバー、これから仲良くやっていきましょう」
初めて姉様に会った日、僕は姉様がさらに大好きになった……