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十四話 婚約破棄騒動 オリバー

オリバー視点です

 父様の誕生日パーティ当日、着ようと思っていたドレスがまたしても姉様に隠されていたため、仕方なく姉様の部屋に入り、ドレスを拝借した。ネックレスと一緒に。幸いにも靴までは隠されていなかったため、侍女にお願いして着付け諸々を手伝ってもらい、準備は整った。


 パーティ会場となっている庭に面した大広間に行くと、すぐにアンドルー殿下が寄ってきた。


「オリヴィア、ついにこの時が来た。僕と君とでこの侯爵家を継ぐんだ」


(何言ってんだ、こいつは?)


 この家は姉様が継ぐのであって、庶子の僕には相続する権利はない。もし仮に姉様に何かあれば、その時は父様の弟に相続権が移る。たとえ僕が女で殿下と結婚できたとしても、殿下は継ぐものなんて無くなるのに、もしかして判ってない?ならコレが勘違いの原因?


「あの…殿下?」


「大丈夫、全部僕に任せてほしい」


 そう言って僕の手を取り、口づけた!


 思わず手を引っこ抜き、後ろ手でドレスで拭くが、気持ち悪くて仕方ない!そのまま肩に手を置かれ、連れて行かれた先で……



「ヴァイオラ、いまここに、私は君との婚約を破棄することを宣言する!かわりに、この麗しくも愛らしいオリヴィアを新たな婚約者に決めた!そして、これまで君がオリヴィアに対して行ってきた悪事を、今から白日の下に晒してやる。覚悟するがいい!!」


 ついに始まった。それにしても姉様との婚約破棄に僕との婚約って、やっぱり殿下は僕を女だと思ってた上に、大きな勘違いをしている。これは殿下の神殿行きは決定かな。あっ、姉様がこっちを睨んでる。ドレスを借りたのを怒ってるなぁ、あの顔は。


 そんなことを考えてる間も、殿下が僕の話した<たわいもない話>を悪事としてあげつらっていくので、僕も始まったばかりの茶番劇の舞台に上がることにした。


「お姉さま、私、お姉さまと姉妹コーデがしたかっただけなのに…そしたらきっと、仲良くなれるって…くすん…」


 ハンカチで顔を覆う。自分で言ってて、思わず笑いそうになってしまったからだ。もうこうなると、口元からハンカチを離せなくなる。


 今は姉様が<姉妹なふりして街角散歩>の時の話をしている。確かに何度も言ったよね、あの時。なので、僕もその時と同じ言葉を言うことにする。


「お姉さま、ひどい……」


 ハンカチで口元を押え、笑いをこらえる。声が洩れそうだし、肩も震えるが、ここは我慢だ!

 

 殿下はとうとう僕の出生証明書まで持ち出してきて、姉様を責める。でも、それって男女のチェック欄があって、ちゃんと男の所にチェックが入ってるんだけど、殿下、それ見たのかな?もし、見たうえでこれだったら……うゎ、考えたくない。


 その時、ふと顔を上げると、斜め前にアニーが見えた。アニーは男性用の礼服を着て、何やらへんてこな動きをしている。その様子があまりに一生懸命で可愛いので、思わず顔がニヤついてしまったその時、


 パンッ!


 殿下が姉様を殴った。血の気が下がった。まさか女性に対して暴力をふるってくるとは思っていなかったからだ。でも姉様はちょっと僕を睨んだかと思うと、毅然とした態度で事実のみを口にする。


「オリー、いいえ、オリバーはわたくしの弟ですわ!」


なので、僕もこの茶番劇の終止符を打つことにした。


「いやぁーーーん、お姉さま、それは絶対言わないって約束だったのにぃ…ひどぉい…ぐすぐす…」


 これで殿下の勘違いだらけの目論見は潰えたはず。でも姉様のお怒りモードは収まってない様で、僕を睨んでお説教に突入しそうな勢いだ。幸い、父様が来てくれたおかげで、それ以上怒られることはなかったけど。




「女装趣味がばれた訳じゃ無かったんだね」


 いつの間にか後ろに来ていたアニーが話しかけてきた。アニーは殿下が僕を男だと判った上で言い寄っていると本気で信じていたため、いろいろと心配していたらしい。僕がなんとなく気づいていたのに黙っていたことを、少し怒ってるみたいだった。


「結構準備、大変だったのに」


 話を聞くと、アニーは殿下から僕を攫って逃げる準備をしていてくれたらしい。それは、まるで姫を助ける騎士のようで、僕は嬉しくなった。だって、そのために馬まで用意してくれたんだから。その馬を、すぐに走らせることは無くなったからと、厩舎に預けに行った。




 どうやら姉様が父様に話をし終わったようなのでこっそり近づく。


「姉様よかったね、()()と婚約解消できて」


 姉様は返事をせずに、僕を睨みつける。


「そのドレス、すぐに脱ぎなさい。それとネックレスも返して」


「えぇーーっ、これはご褒美ってことで、くれるんじゃないのー?」


「そんなわけないでしょう。さっさと返しなさい」


「やぁだぁーーー、ちょうだーーい」


「あぁ、ほっぺが痛いわぁーー」


「あ……、それはごめんねぇーー、謝るからさぁ、これ頂戴?」


 やっぱり返事はなく、また睨まれた。



 ***



 夜遅くに馬で帰るのは危ないからと、母様がアニーに客室を準備してくれた。


 今、僕達はその客室のバルコニーにいて、向かい合ってダンスのホールドを組んでいた。ドレス姿の僕と礼服姿のアニー。でも僕もアニーも逆パートは踊れないから、ただ向き合ってくるくる回るだけ。


 だけど、凄く楽しい。自然に笑いがこみ上げて来る。


「あはは、もうダメ、これ以上は目が回る」


「あー、僕も」


 笑いながら、手すりにもたれる。夜風がほてった頬に気持ち良い。



「……今回のことで、みんなにバレちゃったね、オリバーの趣味。きっと大騒ぎになるよ」


「別に良いよ。誰が何を言おうと関係無いし。僕はアニーさえ居れば良いんだから」


言い寄って来る者もいなくなるから、ちょうど良い。


「それに、これでアニーをドレスでエスコート出来るかも」


「だったら、ねぇ、逆パート、練習しよう」


「大丈夫?ダンス苦手だろ?」


「大丈夫。まだ4年あるし」


 4年後。それは僕らの結婚する年だ。どうやらアニーは結婚式で僕にウェディングドレスを着せてくれるつもりみたいだ。でも僕はアニーのドレス姿も見たいから、いっそ二人でドレスでも良いかもしれない。


 アニーの腕に自分の腕を絡め、肩に頭を乗せる。月が綺麗だ。







「ねぇ、アニー………………………………愛してる…」


 驚いてこちらを向いた彼女の唇に、僕はそっとキスした。




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