九話
プロローグの続きになります。
殿下と遭遇してから1ヶ月、私とオリバーは慎重に行動した。
あれから殿下が訪ねて来るのが月1回から、何故か週1回に変わったからだ。
だから女装は基本我が家だけで、侯爵邸では男装に撤し、なおかつ殿下とは接触しないよう、気を付けていた。
気を付けていたんだけど……
なんでアンドルー殿下が子爵家に来てるのよぉ!!しかも、ドレス姿のオリバーとお母様の三人でお茶してる時に!!
「殿下、ようこそ御出で下さいました。ところで、本日はどのようなご用件でこちらに?」
ほら、お母様も困惑してる。
「いやなに、こちらにいる<未来の妹>に会いにな」
思わず眉をしかめる。確かに私は<未来の妹>といえば妹だけど、殿下の目は私ではなく、ずっとオリバーを見ている。しかも、目付きがなんだかいやらしい。
えっ、もしかして王子は実はそっちの趣味が?だめですよ!その子は私の婚約者なんですから!!
結局殿下は2時間以上、我が家に居座った。そしてその間、ずっとオリバーに話しかけるので、私はせっせと話の腰を折ることに精を出した。その度に睨まれたけど、未来の妹だということで許して欲しい。ただし私は将来殿下を<お義兄様>とは呼びたくないが。
ようやく殿下が帰ったあとは、全員くたびれ果てて、ソファに倒れこむように座る。だらしないが、許して欲しい。
「「「はぁ、疲れた…」」」
「オリバー、今日はもう帰る?」
「うん、着替えて来る」
「わかった。手伝った方が良い?」
「大丈夫。脱ぐのは1人で出来る」
うちにはオリバー専用の部屋があり、彼のドレスも普段着程度のものだが置いてある。
彼の女装趣味については正式な婚約前に、二人で両親に打ち明けた。そんなに大きな反応は無く、ただ、本当に良いのか、納得してるのかを何度か確認された。もしかしたら、前もって侯爵から何かしら聞いていたのかもしれない。
使用人達も、最初は驚いたり戸惑ったりしてたけどすぐに慣れ、今では楽し気にオリバーの着付けを手伝ったりしている。
「お待たせ」
男装に戻ったオリバーが戻ってきたので、玄関まで送って行く。
「ねぇ、アニー、もう殿下には完全に僕の趣味がばれたみたいだし、いっそいままで通りにしない?」
それは私も考えたけど、いかんせんあの目付きが気に入らない。でも、オリバーにしんどい思いをさせるのも嫌だった。
「オリバーがそうしたいのなら、良いよ」
「うん、ありがとう」
「じゃぁね」
馬車に乗り込むオリバーに手を振る。
オリバーにはああ言ったけど、やっぱり殿下のあの目付きは気に入らない。何とかして、大事な婚約者を守らないと!
「ビダール子爵令嬢とは仲が良いのか?」
「わたくしが、ですか?」
「いや、おまえではなく、おまえの……」
あぁ、オリーの事ね。一年以上前に二人が婚約したことは、確か殿下にも報告したけれど、なぜ、今ごろ?
「オリーとアニータ様なら、たいへん仲がよろしいですわ。今日もあちらのお宅におじゃましているはずです」
「そうか…あぁ悪いがちょっと用を思い出した。今日はこれで帰る。」
「まぁ、では…表まで…」
「見送りはいい。じゃぁ」
なんだか慌てて出ていきましたわね。そんなに大事な用だったのかしら?
ヴァイオラ様と殿下の間で、このような会話があった結果です。




