26 さようなら、魚住くん。もう一度だけ、猫カフェ水族館に行きたかったです。(猫崎桃)
魚住茜音さま
ちゃんとお別れを言えなかったので、こうして手紙を書いています。
さすがにあの家に住むのは辛いので、親戚の家に引っ越すことになりました。
あの日、起こったことは、何もかもが嘘みたいだけれど、少しずつ、普通の日々を取り戻せるように、一歩一歩進んでいこうとしています。
それから、きちんとお礼を言ってなかった気がするので、ここでお礼を。
私を助けに来てくれて、ありがとう。
魚住くんがいなければ、きっと今、私はここには存在しません。
本当に感謝しています。
私が生きることを諦めそうになっていた時に、優しく、力強く、ずっと声をかけてくれたのが、魚住くんのお父さんだったと、後で知りました。
魚住くんのお父さんには、もうお礼を伝えることはできませんが、代わりに魚住くんに、お礼を言うことにしました。
ありがとう。
本当にありがとう。
いくら感謝してもしきれません。
でも、きっと魚住くんは、私に会うたびに、私を助けてくれたお父さんのことを思い出してしまうかもしれません。
魚住くんの苦痛の種にはなりたくない。
だからもう私達は、会わないほうがいいのかもしれないと思いました。なので連絡先も書きません。
とても悲しいけれど、お別れの言葉を記します。
さようなら、魚住くん。
でも、わがままを言うならば、もう一度だけ、猫カフェ水族館に行きたかったです。
今住んでいるところでは、『猫じゅうたん』がまったく見られません。『猫メーター』が枯渇しています。
魚住くんと出会ったあの日は、地獄を見ましたが、それと同時に天国を見た日でもありました。
猫カフェ水族館で過ごした、あの幸せな記憶を、頭の中の大事な箱にしまってあります。
魚住くんの隣で、猫まみれになりながら、もう一度ガトーショコラを食べたかった。
それだけが心残りです。
お兄さんにもよろしくお伝えください。
では、お元気で。
猫崎桃




