表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/27

23 この手紙を渡したら、もう私たちは、二度と会うことができないかもしれない。(猫崎桃)

 私が出発する日、まだ魚住くんは眠ったままだった。

 このままお別れするのは辛いけれど、しょうがない。時間切れだ。


「本当にいいんですか、茜音と会わないままで」


 ボンネットバスの外まで、見送りに来てくれた青都さんが、私をじっと見つめてきた。その優しい瞳は、少し寂しそうに見えた。


「茜音はきっと、君がいなくなったら、悲しむと思うよ」

「ごめんなさい。もう行かなきゃ。この手紙を、お願いします」


 差し出した手紙を、青都さんに渡そうとした。


 けれど、その指を離すことができなかった。この手紙を渡したら、もう私たちは、二度と会うことができないかもしれない。


 でもこの手紙を書くときに、私は決意したのだ。


 後ろ髪を引かれる思いを断ち切って、なんとか青都さんに、手紙を渡した瞬間、ずっと我慢していた涙が、どんどん溢れて、止まらなくなった。


「まいったな。女の子の涙には、世界一を誇るぐらいに弱いんですけどね」


 青都さんは困ったような顔をして、ハンカチを差し出してきた。

 涙をぬぐっていたら、急に突風が吹き荒れて、ボンネットバスの仕切りが空いた。


 我先にと抜け出してきた猫たちが、何匹も近づいてきた。まるで泣いている私を慰めるみたいに、足元にすり寄って、甘えるみたいな鳴き声を出す。


 いつもなら魚住くんに群がっている猫たちが、今日だけは出血大サービスをしてくれているのかもしれない。

 最後になるかもしれない『猫じゅうたん』を、私はたっぷり撫でて、メーターを貯める。


「君たちとも、さよならだね。わざわざお見送り、ありがとうね」


 ようやく涙が止まると、ハンカチを青都さんに返した。


「じゃあ、もう電車の時間もあるので」

「駅まで送ろうか」

「大丈夫です。今日はまだ明るいし」


 青都さんは、照りつける太陽をちらりと見てから、小さく笑う。


「じゃあ、気をつけて。またいつでも、いらっしゃい」


 その言葉に、私は曖昧な笑顔を返して、駅への山道を歩き出した。


 ここに来ることは、もうないかもしれないけれど、二人の幸せをずっと祈っています。

 ありがとう、魚住くん、青都さん。さようなら。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ