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005 ヒューイットさん、わざとやってます?

005




 長い拍手も徐々に消え、僕たちも席に着きいてアンジェリカを待った。

 ミュージーズのショーが始まり2曲目が終わったころ彼女が来た。


「ハルトさん、リオネッサちゃんコンバンワ。そちらの方々は?」


 アンジェリカは疲れたのか、テンションがちょっと低い。

 僕とリオネッサは少女楽団を紹介した。


「聴いたことがない曲を演奏するんだ。アンジェリカにも聴いてほしいよ」


「ふーん」


 あんまり乗り気じゃないな。エンディングにも歌うんだし緊張してるのかもしれない。

 手元にあるコップの酒を飲む。


「わ! これ美味いな! でもアルコール強い!」


「ヒューイットくん、それワシが頼んだ奴……」


「え。そうだったんですかスイマセン」


「まぁ良いさ飲んでくれよ。美味いだろ」


「はい。じゃあ戴きます」


 エルヴェットミュージーズの歌が流れ、みな談笑も楽しみながら時が過ぎる

 僕たちもお話しに花を咲かせた。


「アンジェリカ、さっきの歌はすごかったね。後半は別人かと思っちゃったよ」


「そうですわ。私、痺れました。どんな心境の変化がありまして?」


「ハルトがね、そっとアドバイスくれたの。それで気持ちを込めたら素直に歌えたの」


「あー。アレか。スキルでこっそり呟いたヤツね。確か『好きな……」


「駄目! あのアドバイスはわたしだけが貰ったの。みんなには内緒」


「ずるいですわアンジェリカさん。私にもお聞かせなさいな」


 アンジェリカは「内緒」といって人差し指を口に当てて見せた。

 ぷにっと変形した唇が可愛い。


「アンジェリカは可愛いな」


 酒が回って気が良くなって僕は陽気になった。

 その勢いで彼女の頭をなでなでしてしまった。


「……」


 場が固まってしまった。

 そろそろと手を引っ込めた。酒を飛ばすためにお茶を頼もう。


「アンジェリカさん! 私も歌ます。エンディングはデュエットいたしましょう」


「うふふ。良いよ~」


 アンジェリカは上機嫌だ。顔が赤い。

 リオネッサとまた歌えるのが楽しいんだな。


 エドガーさんは軽く打ち合せをすると、ホールの責任者のもとへ行った。

 アンジェリカとリオネッサのデュエットか、面白そうだ。


「ただいま戻りました。お嬢様のご提案通り少女楽団も問題ありません」


「ご苦労、エドガー。アンジェリカさん。歌うのは『My love is infinite』でよろしくて?」


「良いよ~。アップテンポな曲選ぶのね」


 ショーの時間も半ばすぎたころ、エルヴェットミュージーズの休憩時間になった。

 しばらくは宿の専属スタッフが演奏する。


 女の子たちは歌の打ち合わせで忙しそうだ。


「ヒューイットくん。うちの娘をどう思うかね?」


「ええ。彼女は天賦の才があります。いまにどの町からもお呼びがかかりますよ」


「魅力的に見えるかい」


「ええすごく。スタイルも良いし、どんな衣装でも似合うと思います」


「そうか。きみがそうなら安心だ」


 そうかお父さんは衣装を扱っていたな。

 彼女が自社の衣装を着て有名になれば、商売も盛り上がるという事か。


「ヒューイット様はなかなかの難物でございますな」


 エドガーさんに「どういう意味ですか?」と聞こうとしたとき、僕らの席に来客があった。


 エルヴェットミュージーズの一人。リーダーのカルラさんだった。


「アンジェリカさん。アンジェリカ・ハートレイさんね」


「は・はい。そうだと思います」


 アンジェリカが緊張して立ち上がる。


「オープニングはイントロこそイマイチでしたがお見事でした」


「はい。ありがとうございます」


「後半から歌い方が変わりましたが、なにか秘訣があるの?」


「いえ、その。……秘密です」


「そう」


 カルラさんが僕をチラリと見た。

 歌っている時のドレスにガウンを着ている。もともと落ち着いたセクシーさを売りにしてる人だけど綺麗な人だなぁ。


「彼かしら?」


「あ・違っ。いえ、そうです。彼の声が聞こえてその……リラックスできたんです」


「ふふふ。なるほどね」


 僕のアドバイスは役に立ったようだ。


「あなたお名前は?」


「ハルト・ヒューイットと言います」


「ハルト・ヒューイット……さん? 私はカルラよ。芸名だけどね。よろしく」


 おたがい握手を交わした。綺麗で細い手だ。思ってたより冷たくて驚いた。


「アンジェリカさんの秘密は貴方にありそうね」


「秘密と言うか、僕はスキルで音を操れるんです。それで彼女の声が会場に響くようにしたんですよ。少しだけですけどね」


「そうじゃなくて……。いえ、そうね。そういうことにしておきましょう」


「?」


「たしかに彼女の歌声はよく通った。貴方のスキルは強力な武器だわ。でも、歌う前の騒がしさがあるときは有効かもしれないけど、彼女が歌いだせば必要ないと思うわ」


「僕もそう思います。彼女の歌は本物です。じきに彼女の魅力に皆が気づくでしょう」


「ええ。間違いないわね。でもあなたのスキルも面白いわね。音を操るスキル。私も欲しいわね」


「以前は使い道の無いダメスキルという事で、ギルドもクビになったんですけどね。今は無職です」


「あら、大変。素敵なスキルをお持ちなのに。むしろ私の一座に来て欲しいくらいだわ」


「光栄です」


 エルヴェットミュージーズの出番が近くなったらしい。

 係の人がカルラさんを呼びに来た。


「ハルトさん、貴方に興味がわきました。是非またお話ししましょう」


 立ち上がりざま僕の頬にキスした。大人だなぁ。


「皆さん、後半もお楽しみください。アンジェリカさん。エンディングもよろしくお願いしますね」


 颯爽と控室に帰っていく彼女の後姿を見送った。


「カッコイイ。そして綺麗だ。ね」


 みんなを振り返るとすごく睨まれた。

 当然か憧れの歌姫と一方的にしゃべってたもんな。


「ハルト。次はスキル使わないで」


「ハルトさん。私、あの方たちと実力で勝負したいと思います。スキル無しでお願いいたします」


「え? いいの? まぁ良いか。二人がステージに立てばみんな注目するだろうし」


「わたしもっと頑張るから!」


「私たちがいかに魅力的か、しっかり見ていてくださいまし」


「うん。分かった。二人の歌を聴いたらもっと好きになるよ」


 会場のミュージーズファンを、みんな二人のファンにしてしまえ。


「ハルト、本当に好きになる?」


「ハルトさん、本当ですわね?」


「本当だよ。もっともっと好きになる」


 二人はスゴイ熱量で盛り上がってる。歌う時が楽しみだなぁ。

 僕は二人を見ながらコップを取って飲んだ。


「あ。それワシが頼んだ……」


 彼女たちは打ち合わせに熱が入っているようだ。ガンバレ。


「行ってくる」「行ってまいりますわ」「いってきまーす」


 ディナーショーが終わりに差し掛かったころ、アンジェリカとリオネッサ、そして少女楽団がセッティングに行った。


「エドガーさん。楽団は演奏するんですか?」


「はい。幸い曲に必要な楽器はございましたので」


 僕らは3人は男同士でエルヴェットミュージーズのショーを楽しんだ。


「みんなが居なくなると一気に寂しくなりますね」


「ワシは気楽でいいよ」


「私は複雑でございますな」


「アンジェリカもリオネッサも仲良くなってくれて良かったですね。いいお友達になったようだし」


「いつまで友達でいられるか」


「さようでございます。もうライバルと言う方が良い気もしますな」


「ライバルか。良いですね。二人が切磋琢磨して成長してくれれば、どんどん上手くなりますよ」


 ショーも終わりに近づき、リクエストでアンコールを歌ったところでカルラさんが僕を見た。


「目が合ったお兄さん。最後の曲のリクエストをちょうだいな」


「え。僕? そうだな何が良いかな?」


 周りからいろんな曲名が飛んできた。あれが良い、この曲リクエストしろ、とか。

 そうだな一番はあれだな。


「デビュー曲の『Woman robbing love』」


「良い選曲ね。バンドさんお願い」


 言い終わる前にバンドがイントロを演奏する。


「ヒューイットさん、わざとやってます?」


「?」


「It ’s good that the boy is with me」


 数年前の曲だけど良い曲だ。

 男のことを好きな女性がいるけど、横から入ってきて奪うっていう曲。だけどメロディーラインがすごく綺麗なんだ。


 曲のサビの部分で、4人がバラバラにフロアを歩き始めた。

 歌いながら聴いてくれた皆へお礼をしながら周る。


「First, here is an example」


 カルラさんが近くまで来て空席に座った。

 女の子たちが準備に行ってしまったので、空席が目立つから気になったのかな。


「I'm not the only one aiming at you」


 他の3人も近寄ってきた。


「With wine you are my POW. First of all, one puncture wound」


 いつの間にか4人が僕の周りに座っている


「It ends with a kiss. Forever my loved one」

 

 歌が終わったと同時に4人からほっぺにキスされた。

 かっこいいなー。曲に合わせたパフォーマンス。かっこいい。

 

「みなさん、今宵はお楽しみいただけましたか?」


「明日も同じスケジュールで歌うから、ぜひ来て下さい」


「このあとは先のお嬢ちゃんがお友達と歌ってくれるわ」


「カレの彼女だからみんな手を出しちゃだめよ~」


 4人が立ち上がって舞台そでに向かう。


 ウィンクしながら手を振ってショーは終わった。


 舞台の袖からこっちを覗き見るアンジェリカとリオネッサが見える。


 すごく厳しい目をしていた。プロの歌姫のパフォーマンスをしっかり見て吸収してくれ。



ご愛読いただきまして、誠にありがとうございます。

 誤字、脱字など、ご指摘ご指南いただけましたらなるべく早く対応します。

 ご感想やこうしたほうが良いんじゃない? などありましたら、ぜひご意見お聞かせいただきたく思います。


*次話投稿は明日の朝を予定しています。


 よろしくお願いいたします。

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