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villain festival ~過酷な主役争い~  作者: 顔の無いVの男
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過酷な主役争い2

「頂くって、なにを...?」


「単純な話よ?...あなたの、命を」


そういうと彼女は顔を上げ、かっと目を見開き、耳まで破れたように開いた口で、俺に笑顔を見せた。

俺はその勢いに圧倒されて尻もちをつく。一瞬で足が竦んでいるのを理解し、足先から白い何かが這ってくるように感じた。それは恐怖。


「ふふふっ、怖いかしら。でも心配しないで。本当に一瞬で終わっちゃうから。さあ、さあ」


彼女はその笑みのまま、ふらふらと俺に近づいてくる。その姿は、殺人鬼やら、悪魔やらにしか見えなかった。俺は走って逃げようとは思うのだが、恐怖からか体が思うように動かず、辛うじて動く腕を使って、ズルズルと体を引きずりながら距離を取ろうとする。


「くっ、くるなっ」


そういって立ち止まってくれるはずも無く、相変わらず彼女は恐ろしい笑みをうかべながらふらふら歩いてくる。


「ふふふふ、おりこうさんでよろしい。抵抗しても無駄だって、体はわかっているようね。じゃあ...」


彼女は構えるように体勢をすとんと落とし、片手の肘から指先までをぴんっと伸ばすと俺を相変わらずの顔でじっと見てきた。ただ、彼女の目はいわゆる獲物を刈り取るときのような目をしていた。


「いっただっきまーす!」


その体勢から跳んだかと思うと、一瞬で俺の目の前に浮かんでいた。そしてそのまま彼女は片手を伸ばし、俺の胸を突き破った。



どこかで魂の抜ける音がした。いや、まだ抜けきっていないかな。どちらにしろ、急がなくては。ここからの距離なら間に合うかもしれない。それにしても最近は妙に数が増えてる気がする。やはり中級ゴーストが出始めているんだろうか。とにかく、今は急ごう。


私は音を感じた場所へたどり着いた。夕暮れ時ではあったけど、ここはあまりにも静か過ぎる。こういう状況は決まって、ゴースト達が“狩り”をしている。無作為に生きた人間を自らの空間や縄張りにおびき寄せ、その命を喰らう。早く止めなければ、間に合わないかもしれない。しかし、焦ってゴーストを仕留め損ねれば、また同じ惨劇が繰り返されるだけ。救えなかった命よりも救えるかもしれない命を数えなければならない。それが私達の役目。


私は腰のポーチから、通信用のお札を取り出す。いちいち連絡するのは時間の無駄だが、決まりなので仕方が無い。少しの魔力をそれに与え、お札に黄緑色に光る陣が浮き出ると、いつも通りに声が聞こえてきた。


『本部、受信しました』


「こちら第二軍討伐部隊A班キリス・レイラント。ひと気のない状況より、ゴーストが出現したと思われます。ただいまより、戦闘を開始します」


『承認します』


お札から光が消え、私はそれをポーチにしまうと施設内にむかい走り出す。案の定、図書館周辺、そして内部に人影は全く無かった。その上かすかに生臭い血のにおいがする。あまりなれたくない臭いだけれど、仕事柄そういうわけにもいかない。仕事で現地人と出会うときはほとんど血だらけで瀕死、または死んでいる状態なのだから。

          

「どこ...このあたりのはずだけど」


私はさらに施設の奥へと進んでいく。この気配からすると、相手はそれほど強くないようだ。これなら増援が無くても討伐できるだろう。


「ふふ、ふふふふふっ」


「出た、やっぱりゴーストか」


私がゴーストと呼んだその姿は長すぎる髪をもち、質素なシャツに青のジーンズという姿。片側の手は手先から肘の手前まで血でぬれていた。しかし、そのゴーストからは魂を食べたような気配は感じられず、魔力の上昇見られない。


「魂を食べたわけじゃないのに、私の前に現れるとは珍しいね」


「残念ながら逃げられちゃったのよ。私って、魂だけ見るのって苦手なのよね。だから、先に邪魔者に居なくなってもらって、ゆっくり食べようと思って。やっぱり、楽しみは後に取っておいたほうがいいでしょ?」


目の前のゴーストは不気味な笑顔でこっちを見ている。たいていのゴーストは形が整っておらず、ただ不気味なやつが多いけれど、このゴーストは形も意思も普通の人間みたく整っている。それが何よりもおぞましさを際立たせていた。


「私を消す自信が相当あるみたいだね、ゴーストさん」


「もっちろん、あるわよ。あなたみたいな魔力の少ない人なんて、私の餌同然よ」


このゴーストは私を見下しながら、女帝とも言うべき笑い声を上げる。


「じゃあ、お話もここまで。真っ赤に染めてあげる。ふふっ」


ゴーストは両手の肘から指先までぴんっと伸ばしながら、私のところに走りこんできた。私はポーチに手を伸ばし、中を探りながらゴーストの突きを次々よけていく。ある程度の距離をとったところで、私は取り出したお札に魔力を込める。そして、そのお札は小型ナイフへと姿を変えた。


「あら何かと思えば...そんな小さなもので私を消そうなんて」


「いやいや、ゴーストごとき、この程度で十分だよ。これでさえもったいないくらい」


「なっ...小娘が、遊ばせていれば調子に乗りやがって!」


さすがにゴーストにもプライドというものはあるようで。挑発する必要は無かったのだが、どの道今日の現地人は助からない。残念だけれど、魂が抜けてしまっては私たちの組織にはなす術はほとんどない。だから、せめてゴーストの調査をしようと思ったのだ。

しかし、私は確かに調子に乗っていたようだった。はじめに感じたおぞましさを、もっと正確に吟味すべきだったのだと、今は思う。

明日も何かを更新します。

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