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villain festival ~過酷な主役争い~  作者: 顔の無いVの男
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過酷な主役争い1

世界のどこにも、こんなことを思う人はいるのではなかろうか。


『人生に一度は運命的な出会いをしたい』と。

 

僕もそんなことを思う人間のひとり。人と会うこと自体、運命ともいえるのだが、それでも、一目ぼれするような、恋愛に限らず出会ったことをついつい他人に自慢してしまうような、そんな出会いをしてみたいと思う。友達に言ったら笑われるのだろうが。

 

 ちなみに、僕の名前は猪狩奏汰いかりしんた。名乗ったのはいいけど僕はこの物語の主人公ではない。なんというか、準レギュラー的な。そもそも、物語が始まってすぐに登場してるのに、主要人物ではない。ここからの話はちょっと前、三ヶ月くらい前の話になるだろうか。では、回想シーンをどうぞ。



今日は日差しが強い。どこかで熱中症の人が出てきそうなほどの暑さだった。


「ふー、今日はほんとに暑いなぁ」


 学校が休みの今日、俺は友達を誘って遊ぶ予定になっていた。だが、この暑さで参加者全員から中止を求めるメッセージが届き、結局俺ひとりで町をさまようこととなっている。町はこの暑さにもかかわらず、何が彼らを焚きつけているのだろうか、多くの人で賑わっている。暑い中こんなにも人が溢れかえっているのだ、相乗効果で涼しさなど微塵も感じる余地がない。


「はぁ」


 俺は特にすることも無く、だらだら歩いて、さまよい着いた近所の図書館に身をおくことにした。そういえば、図書館なんて今までになかなか行かなかった。本が嫌いというわけではないが、本よりむしろゲームのほうが好きなので、休みの日は家で一日中ゲームをやり続けたこともあった。こんなにゲーム好きになったのは、まあ、遊びに誘ってくれる友達があんまりいなかったからなのだ。友達がいないわけではないが、積極的に誘うこともない。そんな煮え切らないというか、一線を引いてしまっている自分がどこか不器用な感じがして嫌気が差している。


図書館の中をあてもなくふらつき、溢れ出ていた汗が引いて気持ち悪いほど冷たい服が体にまとわりつくころ。俺は適当に一冊の本を手に取る。本選びの俺なりのポイントは、やっぱり表紙の絵。いくら面白い話を書いていたとしても、表紙絵がダサければ誰も手にとってはくれないだろう。そんなことを考えると、この一冊作るのにかけられた苦労は計り知れないものだと感じる。いろいろと大変だ。何一つ努力が欠けることが許されないなんて。しかし、それが道理なのだからどこか寂しい感じがする。


結局俺はこの本の表紙絵に気にいり、いすに座って読みふける。内容の違う短い話がいくつも綴られていて、それぞれが面白い。


「なんかどんどん読み進んじゃうな、これは」


「その本、面白い?」


「なかなかだよ………ん?」


 俺の背後から、急に聞き覚えの無い声がした。その声は優しく感じのいい、女の声だった。だが、今の俺は続きが気になって本から目が離せない。俺はいきなりのことに驚きつつも、そのまま読み続ける。


「ねえ、どれくらい面白いの」


「え、うーん、どれくらいって言われてもなぁ」


「じゃあ、倒れたとき仮設部屋にくいこむくらい大きいポップコーンの箱くらい?」


「………基準がわからない」


俺はこのおかしなことを言う声の主の姿が急に見たくなり、後ろを振り返ってみる。がしかし、人の姿はそこには無かった。よくわからない例えに共感も納得もすることなく、ただ不気味な恐怖だけがそこに残っていた。


「……なんだったんだ、いったい………疲れてるんだろ、今日は暑いし。帰ってゲームでもするかな」


このときは何も気に留めなかった俺だが、家に帰ってから、彼女をちょっと見てみたいと思うようになった。もしかしたら、運命か?…いや、そんなわけないか。というか、アレが運命だとして何だと。電波系発想力の持ち主とお近づきになったところで、いいとこキャトルミューティレーションいわゆる宇宙人による拉致監禁をくらって終了である。これ以外はデッドエンドあるのみ。



次の日、俺は学校が終わってすぐに図書館を訪れた。もしかしたら、と思ってはいるものの、人生そうは甘くないことも知っている。


「今日も居るかな?」


 施設の入り口を抜けるといつも通り、本がずらりと並んでいる。しかし、不思議なことに今日は利用者が誰一人居ない様子だった。休館日かとも思い、カレンダーを見ても、やはり今日は休みなどではなかった。


「…」


薄気味悪く思いつつも、俺は昨日のようにたくさんの本の表紙絵を手に取って眺めていた。静か過ぎる図書館の居心地はかえって落ち着かないが、俺はそれを振り払うように、これまた適当に選んだ本を読み進める。


読んでいる本がちょうど半分に差し掛かったところで、俺は辺りを見回した。客はいまだ誰も来ていない。しかし図書館の係りの人すら来ていない状態が続いていた。さすがにこれは怪し過ぎる。係員が来ていないのなら、俺が入れるはずもない。内部で別作業をしているならまだしも、一冊を半分読み終えるほどの時間は経過していた。俺はとりあえず読んでいた本を元の位置に戻し、やめておけばいいものを施設内を探索してみることにした。


貸し出し禁止のシールのついた、分厚い本がいっぱい並んでいるところまでやってきた。がやはり誰も居なかった。決定的に何かがおかしい。俺は不意にさっき以上の恐ろしさを感じ始め、もう帰ろうと決意したその時だ。


「みーつけた」


 俺は全身が震えるくらいの寒気を感じた。声の主は正面には居ない。俺はたじろぎながら後ろを振り向く。


「ふふっ、そんなに驚かなくたって平気よ。私はあなたに少し用事があるだけ」


 うつむいてはいるが一見すると髪の長い普通の女性のように見える。のだが、この図書館の雰囲気と今の言葉が彼女の不気味さを倍増させていた。


「な、なんですか?」


「心配しなくてもいいわ。あなたのをちょっと頂くだけだから」

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