物理職皆無の世界の聖剣伝説 II
1を最後まで読んでくださった皆様ありがとうございます!!ご期待にそえるような2話になってたらいいなと思います!
第一章 第2話
記憶―I
お祭り楽しかったなぁ‥
また‥一緒に行きたいなって絶対言うんだって
鏡の前で15回練習したのに言えなかったなぁ‥
次はいつ行けるのかな‥
次に目に飛び込んだのは隣を歩く君の目を見開いた顔と
迫ってくる二つの光。
何もかもわからないまま、君と引き裂かれた。
第一章 第3話
持つ者、持たざる者
「じゃあ、まず何をすべきだと思う?」
先を歩くイオに問うた。そろそろ夕日も沈む頃である。
「早くここの人に合流したいところです。日暮れ前までに町を探しましょう。今やってみますね‥」
そう言うとイオは急に止まり、硬く目を瞑った。
「えと‥何してるの?」
「人の持つ魔力を感じとることで町を探しています。私の魔力自体強くないので時間がかかりますが‥」
「おぉー!そんなこともできるんだ!!」
「‥‥‥東南の方向に人が沢山います。向かいましょう。」
そう言うとイオはスタスタと歩き出した。
「イオちゃんはすごいね!俺は魔力が無いらしいから、そう言うことが出来ないけど‥」
「‥いえ、私だけじゃなく、この世界の人ならば全員できることです。」
「あぁ‥じゃあ俺には無理だな。」
驚いた様子でイオが俺を見上げた。
「魔力が無い‥ですか?」
「うん‥‥あのウザ神がそう言ってた。実際魔力を感じとることもできないよ。やり方がわかんないだけかもしれないけど。」
「‥‥‥もしかして。」
イオがまた目を瞑った。
「‥‥イオちゃん?」
「‥‥‥この世界で魔法が使えないというのは、圧倒的に不利なこと。」
「うん‥‥。」
「ですが‥魔力が無い故に、貴方の存在が感じ取れません。この世界の人は、視覚以外で貴方を感じ取れない。」
「それって‥俺は、透明人間なの?」
「目ではみれるので、透明人間とまではいきませんが‥使いようによっては、かなり戦闘向きということになります。」
「マジか‥。俺は人と全く違うってことがこれまでなかったから、なんか自信ないな‥‥。」
「‥持って下さい。自信。」
「でもまぁ、そんなことができるならまだやりようはあるってことだな!」
俺はハイタッチのつもりでイオの前に手をかざした。
イオはおずおずと手を合わせてきた。
「しかし‥不利に変わりはありません。まず、距離を縮めないと刃が当たらない。」
「使いたくないんだけどな‥。」
「あと、この世界にはギルドもあるのですが、それは魔力によって登録されるので‥ギルドには入れません。」
随分と用語が増えてきた。イオは俺の表情を読み取ったのだろう。
「ざっくり言いますと、常に資金不足です。」
重たい沈黙が流れた。
「お金はなんとかするとして‥‥町は近そう?」
「はい。この道を抜けると町のようです。」
がやがやとした騒音が少しずつ聞こえるようになってくる。
目の前には、三階建のアパート並みの大きさの鉄の門。
それを取り囲むかのような鉄の壁。
その中から音は聞こえるようだった。
「ここの内側から反応しています。それも、おびただしい数が‥」
「そうか‥厳重に守ってるみたいだけど、入れてくれるかな?」
俺は鉄の門の前に歩み寄ると、強めにノックをした。
「誰だ。」
俺の隣で声がして、反射で俺は飛びのいた。
「‥‥っ、いつのまに‥?」
「多分ですが‥門番の兵です。瞬間移動魔法を使ったものと思われます!」
「はぁ⁈そんなこともできんのかよ‥‥!」
声のした方を睨め付ける。
そこには、黒にフードを目深にかぶった、痩せっぽちな男がいた。
「旅のものです。中に入れてもらえませんか?」
イオが恐る恐る訪ねる。
「‥‥ここらで旅をするものなどいない。浮浪者か逃げ出した奴隷階級の者だけだ。どちらにせよ、通すことはできない。」
「そんな‥‥」
イオが憔悴の表情を見せる。
「なぜだい‥‥あんな痩せた男、君なら倒せるだろう?」と耳元で囁いた。
「魔法攻撃しか存在しないのだから、痩せてるも太ってるも巨体も関係ありません。それに‥‥この門番はかなりの魔力を保有しているようです‥‥」
「言い訳でも考えているのか?消えないなら排除するぞ。」
そう言うと門番はその場から一歩も動かずに、巨大な魔法陣をその場に展開した。
「まずい!死ぬ気で避けてください!!」
「え?」
そんな間の抜けた返事をしてる余裕もなく、気がつけば俺とイオめがけて無数の火の玉が飛んできていた。
イオが咄嗟に俺に防御魔法をかける。
どうすればいい。最短で考えろ。さもなくば死ぬ。
魔法の使えない現代人が使うべきもの。
頭だ。頭と聖剣で勝ち残るのだ。
門番男はイオ1人に標的を絞ったらしく、イオは間一髪のところで火の玉をかわしている。
しかし、長くは持たないだろう。
考えろ。俺にできることを。
「イオ!!水って出せるか⁈」
「くっ、出せるには出せますが‥MPもそんなにないです‥‥」
「構わない!あいつに全力でブっ放て!!」
「わかりました!」
「はっ。火には水をなんてことしか考えつかないか?火力で押し切ってやる!」
火の玉がさらに大きさを増した。
高音の火の玉に流水がぶつかる。
ジュウジュウと言う音を立てて煙があたりに充満した。
「ちぃぃっ!こんな煙、吹き飛ばしてくれる!!」
男は地面に魔法陣を展開すると、そこから細い火柱が無数に出現した。
イオが熱さに顔を歪める。
あまりの高温に、蒸気も消えてしまった。
「どうした?煙を巻いて逃げるのかと思いきや、逃げる気力も失せたか⁈どうやらもう一人の男は上手く逃げ出したようだがな!」
「くっ‥‥賢司郎様‥」
フードのしたからギラギラ光る目が覗く。
勝ち誇った顔をしていることだろう。
しかし俺は逃げるような人間ではない。
蒸気に紛れて男の後ろを取る。
俺の存在は、目でないと分からない筈だ。
「動くな。これは最新式のマジックアイテムでな。触れただけで死ぬぜ。」
俺は背後から男の方を掴み、喉笛に聖剣を突きつけた。
「ぐぅっ‥‥いつの間に‥‥」
「降参するんだ。」
イオは感心したように頷いていた。
「蒸気に隠れて背後に回るとは‥‥よく考え付きましたね。そのまま刺し殺していれば文句なしでした。」
俺は時々、この少女が恐ろしくなる。
「‥‥‥降参します。離してください‥‥。」
「お、やっとか。」
イオが回復した魔力ですぐにガッチガチに縛り上げる。
「門番さんよぉ、入れたくない人を排除ってのは少々物騒じゃねぇか?」
すると男は、首をぶんぶんと振ってフードを取った。
それは、綺麗な金髪の青年であった。
「参りました。ご無礼をお許しください。僕は門番なんかじゃないんです。」
「この国の人間ですね?命令します。一晩タダでこの国に泊めなさい。」
イオ‥‥お前がっちりしてるな‥‥
「僕は負けたんだ。わかりました。僕の家で良ければ‥」
俺たちは青年を吊し上げながらこの国に入った。
「本当に、申し訳ございませんでした!」
青年の家とおぼしき場所で、青年は深々と俺たちに土下座した。
「入れてくれてありがとう。早速事情聴取するね。」
「‥‥私は宿と言いました‥‥。家に泊めろなどと‥‥」
「‥それは僕の独断です。この国の宿をはじめとするありとあらゆる施設は、兵隊が占領しているのです‥一度絡まれれば、厄介なことになりますので‥。」
「‥そうか。厄介事は確かに避けたい。それで、名前は?」
「ライと申します。」
「じゃあ、ライ。なんで門番のフリして自警活動してたの?」
「はい、お応えします‥。」
この国‥‥フラムスは隣国との戦争を繰り返す愚かな国です。
少しでも魔法が得意だと、すぐに徴兵されてしまうような、野蛮な制度がありまして。
僕だってこの国で一、二の炎系魔法使いですが、頑張って隠している状態です。瞬間移動魔法が使えるの、僕だけなんですよ、この国で。
すみません、話が逸れてしまいましたね。
僕には治癒師の姉がいます。
兵隊に取られてしまって、軍隊の訓練場で、怪我をした兵を治してあげるのが仕事だそうです‥表向きは。
裏では何をされているか‥想像に難くない。
たまに姉が家に帰ってくる時は、ずっと泣いています。
兵隊の奴らは人ではない!
兵隊の奴ら、国を守っているのは俺たちだ、と好き勝手するのです。だから僕の家に連れてきたと言う訳です。
それに、治癒師は貴重なので、国内での負傷者も一手に引き受けなければなりません。
国内で揉め事を起こすような奴を入れないようにして、姉の負担をなんとか減らしてやりたいと思い、数ヶ月前から自警活動をしていたのです。
「‥‥‥そんなことになってたのか‥‥。」
「隣国‥ですか。どこの国かわかりますか?」
「現人神を名乗る男が治めている、ヴァイヤと言う国です。領土と宗教が絡んだ厄介な戦争を、3年ほど続けています。」
現人神。
俺とイオはその言葉に即座に反応した。
「これって‥‥‥。」
「多分、そうです‥‥。」
俺はライにこれまでの経緯を全て話した。
以外なことにライは、「だから魔力が感じ取れなかったのですね」と落ち着き払って笑っていた。
「しかし‥‥困ったことになった。」
ライが突然深刻な顔になって話し出した。
「貴方方は、ヴァイヤの現人神を倒すことを使命としている。それはフラムスと同じ方針です。」
「それは‥‥別に困ったことに感じないけど?」
ライは大変申し訳なさそうにこちらを見て言った。
「僕らは、有志で革命を起こすつもりだったのです。ですので、貴方方の味方は出来ないのです。もちろん敵対すると言う意味でもないのですが‥利害が一致しない。」
「利害なんてあとでいい。クーデターも成功させようぜ。」
「ちょ、賢司郎様ァ⁈」
慌てるイオににっと笑う。
「王国一つ変えられない野郎が世界救えるかよ。」
如何でしたでしょうか。アドバイス、酷評、有ればお褒めの言葉をよろしくお願いします!!