物理職皆無の世界の聖剣伝説Ⅰ
はじめまして。十字路ミノルです。前からの夢だった異世界物がようやく投稿できるところまで行きました。だいぶ投稿がゆっくりになりますが、どうぞ読んでやってください。
序章
陰謀
私はここにいるべき人じゃないんだ。
この世にいたら、人類全員に迷惑をかける存在だ。
でも‥それでも。
これが、私に出来る、
最後に、みんなの役に立てることなんだ。
第一章 1話
紅の記憶
赤い花が好き、と俺の記憶の中のアイツは言った。
賢司郎君もそう思うでしょうと。俺がその時なんと言葉を返したか、よく覚えていない。
空の青の方が好きだ、とでも言ったのではなかったか。
ちょっと困ったように笑ったアイツ―一村真桜の顔は忘れられない。
もう、見られないから。
アイツは今、俺の目の前で、赤い花になっている。
もう、「ただの幼馴染み」でくくれる関係ではないことを、少なくとも俺はわかっていた。ずっと触れたかった少し長い髪を、アイツの血が伝っていった。
俺の目と鼻の先で、アイツは飛び降りた。
握りたくても握れなかったその手を俺より先に取ったのは死神で。
抱いてみたかったその肩を俺より先に抱いたのは嫌味なほどに青い空で。
変えられない事実が憎らしい。
震える手でアイツの整った顔にべったりとついた血を拭う。やけに爽やかな顔をして死んでいた。
子供の頃に読んだ白雪姫の挿絵を思い出す。
「…っ、清々しく逝ってんじゃねぇよ…。」
汚い言葉が口を突いて出た。
ぼやけた視界に刺さる真桜だったもの。
生きがいなんて皆無の人生で、勝手に生きる目的にしていた人は、ただの肉片となった。この世界にもう用はないと、心の中でヒステリックに泣き喚く自分がいた。
集まってきた野次馬どもの中で、俺は声も出さずに泣いた。
ふと、涙で一杯の俺の目に、血のぬめり以外の光が飛び込んだ。肩に置かれた誰かの手を振り払い、野次馬を突き飛ばして駆け寄る。そこには、アイツの血がこびりついた、刃渡り30センチほどの、小さいとはとても言えない、黒い柄のナイフがあった。
「凶器か?」と言う声が後ろから聞こえる。俺はそのナイフをそっと手に取った。
嗚呼、アイツの手を取った死神は、俺にも手を差し伸べているのだと、直感的に感じた。
右手に持ち替えて、硬く目を瞑る。救急車の音と群衆の「やめろ!」と言う声が、一斉に耳に流れ込んだ。刃を受けた左手首が、反射でビクッと動く。こんなに辛い思いをしてアイツは死んだのか、と、痛みに耐えながら悠長に考えていた。
そのうち、そんな感情も無くなって、俺は暗闇に放り出されたようになった。
どのくらい経ったか、だんだんと意識が戻ってくるのがわかった。死に損なって病院だろうか?なんてことを思ってゆっくり上半身を起こす。しかし、ついた手に伝わった感触は、無機質な入院ベッドではなく、柔らかな芝生だった。
反射的に辺りを見回す。広大な草原の中で、ポツンと俺がいるのだった。例の黒いナイフが、血のシミひとつ付かない状態で俺のそばに転がっていた。左手は、何事もなかったかのように自然に動く。
異常なことが次々に起こって、俺の頭はパニック状態になった。黒ナイフを拾い上げ、衝動に駆られて真桜を探した。俺の左手が治っているのだ、真桜が生きている可能性も十分にあるはずだと、自分に言い聞かせて走った。
知らない場所をあてもなく走って、いつしか草原を超えて森に入っていた。いくらすばしっこい真桜でも、復活してすぐに遠くを彷徨うだろうか?と言う考えが脳裏をよぎった。
力なく止まって学ランで汗を拭い、一呼吸置いてからuターンした、その時だった。
正面に黒い人影があった。どうやらここは天国ではなさそうだ。
「すみません。女子高生を見ませんでしたか?もし知っていれば教えて頂けませんか?」
息を切らしながら、丁寧に伝える。人影は答えない。
「もしかして、日本語じゃダメでしたか?‥‥Do you speak‥」
「プッ‥あっはっはっは!!‥‥ヒイヒイ‥日本語じゃダメでしたかぁぁ?ウケるぅぅ!!」
黒い人影(声からして男のようだ)が初めて答えた。
‥常識の無い人だと言うことだけはよくわかった。
「いや、ごめんごめん。君があまりに察しの悪い人だったから‥普通死んで生き返ったら異世界転生だと思わないかなぁ?」
あぁ、関わりたく無い。
「すみません。知らないなら大丈夫です。では‥」
「あーいなくならないで!ね?僕と、ゲームしよう?」
男は引き止めてくる。が、依然顔が隠れているため、ますます意味がわからない。自殺の代償はこれだろうか?
「まず説明するとね、僕はこの世界の神だ。」
「はぁ‥」
「ここは、異世界だ。ここまで大丈夫だね?」
なんなんだこの厨二病、と言いたくなった。
黒い人影は絡みたくような声で続ける。
「そんで、ゲームの内容だ。今日から一年後、ぴったりに僕は僕の力で君が元いた世界を滅ぼすから、一年以内に僕を倒すんだ。ルールはこれだけ。」
「そう言うのいいんで。もう大丈夫ですから。お帰りください。」
言い終わった直後、自称神は凍りつくような、恐怖心を煽る声で言い放った。
「これは君へのチャンスなんだ。なんなら今すぐ滅ぼしたっていいんだ。」
そう言うと自称神の黒い人影は、上空へと舞い上がった。
一瞬。見えたのは細い細い、それで怖いほど紅い閃光。
森は一瞬で火の海と化した。
俺は立ち尽くして燃えてゆく森を見ていた‥が、
「やめてくれ!真桜が巻き込まれたらどうするんだ!」
と、咄嗟に上空の影へと声を上げた。
「うん。わかればよろしい。」
そう言うと、今度はどこからか大量の水が降り注ぐ。たった今まで森を蹂躙していた炎はおろか、煙すらも消えてしまった。
「君が現世の救世主になるか、戦犯になるかは君次第だ。倉坂賢司郎君。」
自称神は下に降りてくると静かに、知らないはずの俺の名を口にした。俺は返事すら出来ず、ただ震えを抑えて立ち尽くしていた。
「一ついいことを教えてあげよう。ここは魔法が使える世界だ。さっきみたいにね。僕がそう創った。なのに何故か‥君だけ魔力が零なんだよねぇ〜プークスクス」
「はぁっ⁈」
「まぁまぁ、一年あるんだし。頑張ればできるかもよ?」
「冗談じゃない、不公平じゃないですか⁈」
これが本当に異世界転生だとするならば、最初に何か凄い能力が手に入ったりするものではなかったか?
ナイフ一本で、どうやって世界を‥
「ほらほらぁ〜落ち込んでる暇ないよ〜?もうゲームは始まってるんだから〜!」
神はまた空を舞う。
「あっ、空飛ばれたらなにも出来ねぇよ!!!」
「一年でカバーしな。クスクス」
神は見下すように言った。
「それじゃあ、俺もう行くから。探してごら〜ん」
「畜生!!!!」
すると神は、またしてもゾッとするような声で言った。
「最高のゲームには、最高のサプライズだよねぇ!!!!」
神は消えた。代わりに‥
後ろから人影が迫ってきた。
恐怖心からナイフを握る手が震える。この世界は完全にアゥエーだ。俺にはナイフ以外に身を守る術がない。
人影が動きを止める。俺は呼吸を止めて切っ先をまっすぐ人影に向けた。
しかし、思っていたような衝撃も、魔法攻撃も、する気配がない。罠だろうか?
「だっ‥誰だ!なにをしにきた⁈」
刹那、人影は驚くべきスピードで俺に詰め寄った。
俺は恐怖でナイフを取り落とした。
「‥落としましたよ。」
「あっあっ‥どうも‥。え⁈」
目の前数センチのところにいたのは、奇妙な格好をした少女だった。アキバのメイド喫茶のようなメイド服を着ている。歳は15歳くらいといったところか。真紅の瞳が真っ直ぐに俺を捉えている。
「いや、拾っちゃっていいの?俺を殺すんじゃないの?」
我ながら滑稽な質問だ。相手の気一つで殺されてしまうのに。
少女は泣き出しそうになっている。
「はい‥そう命令されました。初日で死んだら面白くないから半殺しにてこいと。」
「‥できればやめてほしいな。別に俺に恨みないでしょう?」
「恨みはありませんが‥何故か攻撃出来ないんです。」
少女はエプロンのフリルをギューっと掴んで泣いていた。震える肩にかかった見事な銀髪が微かに揺れる。
「攻撃出来ない‥賢司郎君に攻撃しちゃいけない‥?」
「なんで君まで俺の名前知ってるの⁈」
「貴方が賢司郎君なんですか?」
俺は状況が飲み込めずにいたがとりあえず頷いた。
「‥‥‥再起動します」
そう言うなり少女は壊れたマネキンのように直立したまま倒れた。
俺は緊張の糸が解けてよろめいた。
「再起動って言ったよな‥ロボットか何かか?」
俺は倒れている少女の顔を覗き込んだ。その時、ふとある考えが頭をよぎった。
「このまま逃げたら正気に戻った少女が追ってくる、もしくは、さっきの親玉に報告するだろう。パニックになってる今のうちに事情を説明して2人で行動すれば良い」と。
真桜に対する後ろめたさもあったが、なにぶん情報がない。本当にここが異世界だというのなら尚更だ。
俺は少女を揺さぶった。意外にも少女はあっさり起き上がる。
「‥再起動中はいじらないってのが常識だと思ってました‥ご主人。全部初期化されたではありませんか!!」
「へ?」
「こんにちはご主人様。少女型アンドロイドのE-253-0と申します。」
「‥あ、こんにちはぁ‥」
「記憶処理がうまくいかなかったので、少しだけ覚えています。倉坂賢司郎様ですね。」
「あっ、はい。そうですね‥。」
「さぁさぁ、ご命令を。」
少女は興味深そうに俺を見ている。とりあえず作戦は成功したようだ。
「えっと‥E‥ちゃんって呼ばなきゃダメですか‥?」
「なんでも大丈夫ですよ。」
「じゃあ、Eと0でイオちゃんでいいかな‥?」
「もちろんです。」
受け止めきれない事実が多すぎて、何もかもが麻痺している。真桜のことさえ―
「じゃあ、この世界について、知ってることだけでいいから教えてくれないかな?‥初期化されちゃってる?」
「いえ、基本的なことは覚えています。」
イオは少し俯いてから、静かに話し出した。
ここが、ご主人様から見れば異世界であることは本当です。それも、魔法だけで成り立っている、とても特殊な世界ですね。全員最低限の魔法は使えます。
―私ですか?初期化されてしまったので魔法は‥少ししか使えません。ですがアンドロイドなので、お役に立てることも‥多少はあるかと。
この世界には、刃物なんて一つもありません。使うまでもない場合が多いからだと思いますが‥。しかし、私はそのハモノを、一度だけ見たことがあります。―ええ。それです。旧ご主人様の側仕えをしていた時ですね。お城の中で見ました。
‥‥‥もし、私が見たものと、それが同じものだとすれば‥‥
そのハモノは、封印された「聖剣」ということになります。
知っている。ゲームでお決まりのパターンだ。
どちらかが死ぬまで終わらない。
「ですので、その聖剣で、あの神を倒せば‥‥‥‥」
目が眩む。
血を見たばかりの俺に、また人を殺せと。
大好きだった人の亡骸の側にあった凶器で。
何人居るかも分からない敵を殲滅して。
さっきの神も殺して。
75億の命を救えと。
「ごめん。あっちの世に未練なんてないんだ。」
イオが驚いたように顔をあげた。
「ですが‥滅びるに任せると言うのですか⁈」
「私事なんだけどね。好きな人が自殺したんだ。数時間前にね。」
イオは悲しげに視線を落とした。
俺はそのまま歩き出す。
「まってください!もう術がないんです!!!」
「随分と人間よりだね。君の主人がやったことだろう?」
「‥っ、それは‥‥‥‥ですが!」
「血を見るのが大丈夫であっちの世を愛してる奴に頼めば良いだろう⁈なんでこんな状況の奴にそんなこと押し付けるんだよ‼︎」
足を速める。
探さなきゃ。アイツを‥
校庭の周りに何故か群生しているヒガンバナを思い出した。
大地が花で紅く染まっている。
空虚な夢が光を帯びて、俺を照らす。醜さを晒す。
「賢司郎‥くん‥。」
数時間の間で二度と会えない場所まで行ってしまったアイツが、そこにいた。
「なんでここにいるの‥‥‥?」
どちらの声なのか、もうわからなかった。
その手も肩も、紅く染まってはいないのに。
遠い。その存在に、届かない。
「賢司郎くん‥私は、生きてるんだよ‥ここがどこなのか、私がどうなってるかはわからないけど‥でも、ちゃんと生きてるんだよ!」
「真桜‥‥」
「賢司郎くんまで辛い思いをさせて本当にごめん。だけどね‥諦めなでほしいの。どこかで生きてる私を‥助けてほしいの。未練がないなんて言わないでよ‥」
光がこの空間を包み込む。
それは、いつも俺が立ち止まるまでずうっと追いかけてきた
アイツらしい光で。
俺をつなぎとめる光だった。
「アイツのためなら」なんて陳腐で愚直な言葉は使えない。
でも‥どこかで生きているなら。
また会える可能性があるなら。
選択肢は一つしかない。
イオの声が聞こえた。
必死に俺の名を呼ぶ、造られた声。
うっすらと、目に光が戻ってきた。
「ああっ!気づかれましたね!先程急に倒れたのです、覚えていますか?」
「いや‥倒れてたのか、俺。」
潤んだ紅い目がこちらを覗き込む。
「ゴメンな、さっきは。ちょっとパニックになってたんだ。」
「いえ‥‥仕方がないことだと思います」
夢という概念で括りたくないような、生々しい体験だった。
「真桜さん‥ですか?その‥好きな人」
「うん‥。」
「‥‥よければ、真桜さんがどんな人なのか教えていただけませんか?」
「いいよ。俺も話したい。」
一村真桜。俺の幼馴染み。
覚えてないくらい小さな時からずっと一緒にいた。
物凄く頭がいいんだ。なんでこんな高校に入ったんだろうって疑問に思うくらい。
俺が一人になりたい時も、なりたくない時も側でうろちょろしてたなぁ‥ずっと‥追いかけ回された‥
自殺‥するような原因が‥俺には、わからなくて。
わかってやれなくて‥
つい数ヶ月前に、死にかけたばっかりだったのに‥
最後に‥あった時は真っ逆さまだったんだ。
「見苦しいところをお見せしました。」
「いいんです‥泣いたって‥」
泣き叫ぶ俺を慰めてくれた。
夕日が乾いた涙の後を照らす。
アイツのために世界を救う。
生きたアイツに会いたいから。
俺はとんだ色ボケなんだろう。
でも。
「じゃあイオちゃん。この聖剣であのウザ神ぶっ倒そう。」
「はいっ!!」
1年で全てが終わるなら。
1年で全てを救うまでだ。
聖剣が妖しく輝いた。
如何でしたでしょうか。控えめに言ってクソラノベだと思うのでアドバイス、酷評、有ればお褒めの言葉など(や、ないわな。)お願いします!
気にい入っていただけましたら、末長くよろしくお願いします。