97:仲間も増えて、さあ決戦だ!
「そんなわけで大将、入り口はこじ開けたから行ってくれ! 後はこのウェッジ改めハイドフォレストと……」
「ハイドスノー。そして連合軍が引き受ける!」
「そうだよライブリンガー! 今がチャンスだ!」
「鋼魔を、王のネガティオンを討ち取って!」
ビッグスさんとウェッジさんから生まれ変わった双子のフォックススカウトに続いて、ボクと姉ちゃんも破れた門を指さしてゴーサインだ。
「分かった任せてくれ! しかし、くれぐれも無茶はしないでくれよ」
「時には退くも勇気だからな!」
それぞれの役割を背負って、ボクらはうなずき合う。けれどその間にクァールズは後ろ跳びに距離を開けて、すぐさま切り返して踏み込んでくる。
「もう突破したつもりかよ!? そいつはちょーいと気が早いんじゃーねーのッ!?」
速い! スピードを全開にしたクァールズは、短い間に何度もステップを繰り返してるけど、それがぜんぜん見えない。この動きのあいだあいだに細身の鉄巨人になったり黒豹になったりを繰り返してるみたいだけど、それは全部フェイントの残像で、途中の変身もいつやってるのかぜんぜんだ!
そんなとても追い付けないスピードでボクらの目玉を振り回して、誰に襲いかかってもおかしくないように思わせておいてからの、またボク達狙いのワイヤーと投げナイフが!
「ちょい捻りが足らんのと違うか? もっとまさかを狙ってこいよ」
「まぐれ当たりでも一番痛い事になる狙いには違いないがな」
だからこそ予測してるし警戒してると、ボクと姉ちゃんっていう急所を狙った攻撃を赤と銀のフォックススカウトコンビのナイフが弾いてさばく。
でも、クァールズの金色に光る目に揺れはない。
「さーて、素直すぎるのはどっちだろうかねぇ?」
「な、重いッ!?」
弾かれたまま流されてるのに余裕たっぷりの一言からすぐ、どうしてか攻撃を弾いたハイドブラザーズの方が膝をついてしまう。
「さすがにもう出し惜しんじゃあいられないからよー……ちょいと隠し玉だ」
得意げに言ったクァールズは、体の重みに動けないでいるハイドツインズへ大振りのダガーを構える。
「させるものかッ!!」
けれど当然それをライブリンガーが許さない。ロルフカリバーを構えてグリフィーヌと一緒に救出に急降下してきてくれる。
「お前は我の相手をするのではなかったか?」
でもここでとんでもなく低くて重たい声が響く。それと合わせて敗れた門から光が飛び出す。通せんぼするこの破壊力の塊を、ライブリンガーはバースストーンオレンジに輝くロルフカリバーで切り開きに。ボクらとハイドブラザーズを助けに急いで強行突破しにかかったロルフカリバーはエネルギー弾と衝突して爆発。そうやって吹き飛ばされた先でグリフィーヌが羽根を操って体勢を立て直そうとする。
「ほほう。フルパワーを出せる姿でないというのに今のを防ぐか。我と戦うために温存してきたためということだろうが、無駄な努力だったな」
そんなライブリンガー達の姿に、感心したような言葉からの無慈悲な一言と一緒にまたエネルギー弾が発射される。
「ライブリンガー、グリフィーヌ逃げてぇえッ!!」
慌てて動くように、逃げるように声を上げるけれど、ボクの声が届くよりもエネルギー弾のが速そう!
「それは通さんッ!!」
だけど勇ましい声と一緒に水の盾が間に割り込んで、角度と水の流れでよそに逸らしてくれる。ガードドラゴがやってくれた。守ってくれたんだ!
友達の無事が分かったならそっちは安心だってことで、ボクはようやく練り上がった冥属性の魔力を放つ。その先は重たい気配のしてる火山の中でもなく、ハイドブラザーズを抑えたクァールズでもなく、突然の重さに身軽さを活かせないでいる双子狐だ。
ボクの魔力を浴びた二人は何をするのかと、驚いて目をチカチカとさせる。
「……ッ、動ける!?」
だけれどその効果を実感すると、素早くボクと姉ちゃんをこの場からさらいに動く。
「小僧ッ!? やってくれやがったなッ!?」
ボクがどんな魔法をかけたのか大体分かったらしいクァールズが慌てて追いかけに来る。けれどそれを炎の壁が取り囲む。
でも黒豹密偵はこんなものでって言うように強引にボクらとの間を塞いだ炎を突き破ってくる。鋭く素早いその動きは重圧が緩んだとはいえまだ本調子じゃないハイドツインズにあっさりと追いついてアンカーを発射。絡ませるつもりなのか、先っぽのカギが脇を通って繋がる糸といっしょに後ろに回り込んでくる。
「なにッ!?」
でも糸に縛られるはずだったのは、触れたとたんに壊れて消えたんだ。種明かしっていうほどのじゃないけど、クァールズが追いかけてたのはハイドスノーの作った雪の囮で、フォレストの火遁で目くらましをしてる間に出してたっていうだけのことさ。
「こんな単純な手にッ!?」
まんまと囮に引っかかったクァールズは目をヂカヂカさせながら、ボクらに向けて手持ちのダガーや針を投げてくる。これをツインズはまた手持ち武器や装甲で弾いたりはしないで、変化前そのままに火炎弾と水弾をバラまいてそれで代わりに受け止める盾にする。武器との接触で爆散して、それで二つの玉の接触で生まれた蒸気が煙幕になってくれる。
「せっかく捕まえたってーのに、まんまと逃げられたとあっちゃーよぉッ!」
「ホッホウ残念でした」
それでもと煙幕を破って追いかけてきたのをセージオウルが電撃で叩き伏せる。声を上げて動きを止めたそこにすかさずとファイトライオが燃える獅子の斧を叩き込みにいく。
けど雄叫びあげてのこの一撃は割り込んできた黒い影、馬のイメージの黒騎士ディーラバンの槍にブロックされちゃう。そして受け止めたディーラバンが頭から出した青いムチをファイトライオに伸ばすけれど、これは突っ込んできたグリフィーヌに吊るされたライブリンガーが切り払って、黒騎士と獅子戦士の間も切り裂いた!
「マキシビークルッ!!」
その勢いのまま空に舞い上がったライブリンガーは、クルマに変形して、まっ逆さまに呼び出したマックス下半身にすっぽり。その上にマックス上半身が乗っかると、背中にグリフィーヌの変形したマキシマムウイングがくっついて。別れたローラーから飛び出した手が、ロルフカリバーを握ってライブリンガーマキシマムウイングに合体。ボクらの前に立つ。翼もついてよけいに広くなった背中は、いつ見ても、何度見ても頼もしいや。
そんな雄々しい背中が前に来てくれて安心したのか、ハイドツインズの赤茶の方、フォレストがひと息ついたって感じに肩を上下させる。
「ふぃー……っと、それにしても助かったぜビブリオ。さっきの重圧、解き方教わってたのか?」
「うん。前にクァールズからね」
そう。クァールズがボクの重圧魔法を、同じパワーの逆向きので跳ね返したって言ってたのを覚えてたから、試しにやってみたらドンピシャってヤツだったってわけさ。いいタイミングでいい感じに追い回されたことのお返しになったよ。
ボクはどんなもんだいって胸を張ろうとするけれど、体から力が抜けちゃう。そんなふらついたボクの体を姉ちゃんが柔らかく受け止めて支えてくれる。
「無茶しないでビブリオ。魔力バテしてその上あれだけ使ったんだから。でもすごいわ。あんな状況で、よく冷静に的確な魔法を見極めて使って……」
なんだ。安心して気が抜けちゃったのはハイドブラザーズだけじゃなかったんだ。今まで何とかしなきゃってことで夢中で、怖いのも疲れてるのも忘れてたけど、完全に思い出しちゃったよ。
「ホッホウ、よくやったぞビブリオ。後は私たちに任せるといい。そうだな、二人とも?」
「ああ。ビブリオにホリィを始め、皆の頑張りに粘りに応えねばならん!」
「親玉も出てきてるわけだしな。後は俺さまたちの踏ん張りどころだぜ!」
「ホッホウ、では出し惜しみは終わりと行こうか、聖獣合体!」
セージオウルの号令に、ドラゴとライオは声を合わせて応えて、勢いよく飛び上がった!




