96:勇気ある二人にもう一度命を!
やると決めたのなら、後は素早くためらわずにだ。のんびり段取り決めてる時間はないけど、口に出さなきゃ伝わらない。やって欲しいことを伝えておかなくちゃ。
「ありがとう、じゃあまず姉ちゃんは全力でボクらのことを隠して、地面の音とかは良いから」
「分かったわ、やってみる」
「そしたらビッグスさんとウェッジさんは煙幕やってよ。音もデカいのだといいな」
「二人でやるアレでいいか? 水の玉を火炎弾で爆散させて熱い霧をバラまくやつ」
「うん。ボクが合図したら連発でお願い」
「そりゃ俺たちの方が準備が必要になりそうだな」
ウェッジさんの軽口を流して、ボクも自分がやらなきゃいけないことのために準備をする。何にも無しじゃとても使えそうにない大がかりな魔法になるから、もちろんライブブレスからめいっぱいにパワーをもらってだ。そうなると当然に――。
「おおん? いるとは思ってたが、そこか小僧!?」
「クァールズのヤツが来るぞ! やるか!?」
「お願いしますッ! それですぐ走って!」
バースストーンのパワーにつられて金色の目をぎらつかせてくるのに、ビッグス・ウェッジコンビが蒸気煙幕を炸裂! この破裂の音が響いている間にボクは駆け出しながら準備してた魔法を投げた。
「ハハッ! 分厚い蒸気だがムーダムダッ! その眩しい石ころの気配はぜーんぜん隠せてないぜッ!!」
その分厚い蒸気と魔法の隠れ蓑に隠れたボクらを追い越して、クァールズはボクが魔法を投げた城門の方に走ってく。そう。ボクが投げた魔法はクァールズを正面から叩くためのじゃない。バースストーンのパワーを固めて、それにボク達四人の姿を被せた囮の魔法なんだ。
「焦りすぎだぜ、ブロードビーク啄ばめ!」
そうとは気づいてないクァールズは見張りを任せていた魔鳥に命令。これを受けたブロードビークは素直にその幅広のくちばしを振り下ろす。けれどさっき別の工作隊を捕まえた時とは違って下ろしたまま戻らない。
囮に使った魔法にはつぶしたらサンダーウェブみたいな拘束効果が発動するような仕込みがしてあった。食いついたのがクァールズじゃなかったのは残念だけれども。これはこれで良し!
「なんだどうしたッ!? まさか後ろ!?」
「今だよみんな、やっちゃってッ!!」
まさかの結果にギョッとなって切り返しが遅れたところに、ボクらは一斉に魔法を投げつける。
「う、お・おーッ!?」
ボクの冥魔法がクァールズの足をすくったところへ姉ちゃんの突風とビッグスさんの吹雪、それにウェッジさんの爆風も重なって金属の巨体を吹き飛ばす。とんでもない音が洞窟の中で跳ね返って耳が痛いし、揺れもボクらの方まで転んじゃいそうだ。だけどもちろん一発だけで終わりにしないで、みんながみんな手持ちのバースストーンから力を借りて何発も何発も繰り返しに魔法を打ち込んで押し流してく。
「立ち直らせる間を与えちゃダメなんだ! がんばって!」
ボクも魔力が辛い。息をするのにも鉄臭い感じがするけど、がんばるから!
バースストーンでパワーアップしてたって、鋼魔相手にどこまで効くか分かんない。立ち直られたら、また動きを止められるかどうか……。でも門さえ壊しちゃえばボクらの勝ちなんだ! ライブリンガー達が突っ込める入口を開く。そうすればライブリンガー達が突撃ついでにクァールズをやっつけてくれるはずなんだ! だからここで力を尽くさないと!
「え?」
ライブリンガーたちの通るための、それでボクらが生き残る道を開こう。そんな一心で電撃の塊を構えたボクの横をするどい音が通り過ぎる。それに振り返ったら、そこには柱みたいなのに吹き飛ばされたビッグスさんとウェッジさんの二人が。
「いやあああああッ!? し、しっかり、しっかりしてくださいッ!?」
それを見て姉ちゃんが悲鳴を上げて二人に回復の魔法をかけに。ボクももちろん発動直前だった特大サンダーボールを投げ出して、回復のために走る。
「うぐ……傷が、傷が塞がらない……!?」
でもほとんど使える魔力が残ってなくて、傷を治す魔法をかけても、ビッグスさんたちの体から血がどんどん流れていっちゃう。お願いだ止まって、止められるだけの魔法を使わせてよ! いま使えなくちゃ意味がないんだから、湧き上がってよ!?
このお願いが通じたのか、ボクのブレスレットと姉ちゃんのペンダントシンボルから朝焼けの光が出てくる。
「やーってくれる……また今度もやってくれたじゃねえかよ、小僧よぉー」
けれど魔力が回復出来るかもと思ったところで、聞き覚えのある声が後ろから。回復魔法はそのままで振り返ったら、真っ黒い鉄巨人が。ライブリンガーよりも背が高いけれど、細身で鋭く闇に潜む感じのソイツは、きっと変身したクァールズだ。
「……ったく、人間が石ころ持っただけで、俺たち鋼魔に敵うわけがねーってのに、よくもまあ何度も何度もビビらないでかかってこれるもんだよなー……なぁ? お前、ちょっとおかしいんじゃねーの?」
「……なにをッ!?」
「こわくないわけないだろ!? だけど、ボクたちだって友だちに助けられてばっかりじゃいられないから、助けになりたいから……だからッ!」
「そーかいそーかい」
言い返すボクの前でクァールズはまた黒豹にチェンジ。その荒っぽいのが起こした風でボクらは押し倒されてしまう。
「じゃ、もう無理に怖いのを我慢して、オトモダチに義理立てしないでよくなるようにしてやるよ。後ろの危ない役目押し付けられてる斥候役どもと一緒にな」
ギラリと両目と牙を輝かせて予告する大きな金属の黒豹に、ボクは息が詰まってしまう。
でもそんなのダメだ。姉ちゃんを……みんなを傷つけさせるなんて、絶対にダメだ! 守らなきゃ、ボクが何とかしなきゃ!
「うわぁああああああッ!!」
気持ちの溢れるまんまに前に出したブレスレットから光が吹き出す。コントロールもなんにも無しにばらまいたのは、バラバラになったそれぞれが地面や壁にめちゃくちゃに跳ね返ってく。
「おーいおい、まぶしくするだけじゃーないかよ……って、なんだッ!? 死にぞこないどもに集まって、どうなる?」
「そんなことボクが知るわけないだろッ!?」
そんな言い合いの間にも、ボクのブレスレットからあふれたパワーはビッグスさんとウェッジさんに集まり続けてる。魔力がたまる一方の二人の体はそのまま光輝いて、そのうちに光の玉になってふくらみだした。
「オイオイオイ……なんか知らんがヤバそうじゃないかよコイツはよぉー! 今のうちに潰しとかなきゃーな」
「ダメだ、そんなの!?」
冷や汗を感じるつぶやきにボクが止めに入るのに、クァールズはうっとおしそうに見下ろしてくる。
「悪いんだけどよー小僧の言うこと聞いてやる道理は俺にはねーんだよなー」
そう言ってメタルの黒豹は、ボクのことを前足で軽く払いにくる。叩き潰しに来るのにボクはとっさにライブブレスを盾に出す。
けれどボクが殴り飛ばされることにはならなかった。それはいつからいたのか、クァールズと同じくらいの大きさで色違いの金属の狐二体が止めていてくれたからだ。
知らない顔のはずで、鋼魔だって思うのが当たり前な状態だ。だけどそうじゃないって、敵じゃないんだって思えたんだ。
「……まさかビッグスさんと……」
「ウェッジさんッ!?」
そんなボクと姉ちゃんの声に、そうだと言うようにクァールズを冷気の玉と炎の玉で吹き飛ばした! その威力はクァールズを城門に叩きつけて、いっしょに吹き飛ばしちゃうくらいのだ!




