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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第四章:分かたれた者
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95:隠密作戦なのにすぐバレた!?

 ボク、ビブリオとホリィ姉ちゃんを真ん中に、先頭をウェッジさん、後ろをビッグスさんでが挟んだのが、そろりそろりって進んでる。そこははパサパサに乾いた地面の坂道。鋼魔が根城にしてるアジマ火山の斜面だ。


 今ごろは連合軍の主力が、正面からこの鋼魔の城の入り口をこじ開けようとしてるんだろうか。獣の声や大砲の音が響いてくる。そうやってライブリンガーたちのいる大軍で引き付けてる内に、こっそりと門の後ろに入って吹っ飛ばしちゃおうっていうチームのひとつがボクたちだ。ライブリンガーたちのパワーをムダ遣いさせないようにって作戦なんだから、友達のボクらがガンバらなきゃウソでしょ。まあ、工作隊に加わりたいって言ったらみんなから止められたけどさ。


「仕方ないわよ。私たちっていえば人も出る戦場ではまず救護班だもの」


 実際、ライブリンガーはもちろん、みんなにめっちゃくちゃ渋い顔された。それをわがままでゴリ押しにしちゃったのはちょっとごめんなさいな気分だけども。


「そうそう。いくら勇者殿の信頼篤く、これまで共に鋼魔と戦ってきた小聖者だって言ったって、敵の本拠地の破壊工作に潜入するって言い出したらそりゃ心配されるさ。兵に思われる大事な御身にもしもがあれば~ってな」


「もう、そんなんじゃないやい」


 姉ちゃんはもちろん、おどけたウェッジさんも、それに返すボクも小さくおさえた声だ。見つからないで、お城の入り口を塞いだのを無くしちゃおうって言うんだから声も小さくなるよね。誰だってそうだ。けれど――。


「しかし、二人の魔法の力が借りられたのはやはり頼もしいな。こうしていると分からないが、少し外れて見た時には、目でも耳でもまるで分からなくて合流できるまで不安になったくらいだ」


 後ろから警戒してくれてるビッグスさんが言う通り、実はボクと姉ちゃんの魔法の隠れ蓑を作ってあるから、実はそんなに声を気にしないでも良いはずなんだけどね。

 セージオウル直伝の天属性の魔法で、音の伝わりを遮って、景色が目に正しくうつらなくなるっていうのだ。清めの光ーとか、風や雷みたいなイメージの強い天属性だけど、こういう補助系にも優秀なんだ。これをセージオウルが教えてくれた時、実はちょくちょく隠れてサボるのに使ってるんじゃないかってホリィ姉ちゃんと二人で疑っちゃったんだけれども。


「けど、こんな魔法まで足しても鋼魔に気づかれるかも知れないんだっけ? ゾッとしねえな」


 ウェッジさんが言うように、隠れ蓑魔法でも絶対に見つからない訳じゃない。本家本元で解除もできるセージオウルはもちろん、ライブリンガーたちはみんながみんなその気になれば見破れちゃうんだ。なんか見るものを変えてるんだとか、なんとか? 人間の体温を見るようにしてるらしいけど。


「魔獣の中にも見えるのがいるかもだから、そういうのは危ないらしいけれど……」


「なんにせよ、油断せず慎重に進むしかないということだな」


 ビッグスさんのまとめの言葉に、ボクらはそろってうなずいて、いっそう息をおさえる。

 そうでなくても、ボクらは小さくてもバースストーンをもらって持ってる。ライブリンガーたちの方が強くて目立つだろうけど、鋼魔の対になってるって言うパワーの石なんだ。近づいたら感づかれてしまうかもしれない。

 そんなわけで隠れるものが少ない山道を、ボクらは魔法も使って慎重に進んでく。


 そのおかげでボクたちは、無事に抜け穴をくぐって、広い広い洞窟を標的の門が見えるところにまでたどり着くことができた。できたんだけれども、ちょっと厄介な状態だ。


「面倒な見張りを置いてくれてるじゃないかよ、まったく……」


 ウェッジさんがぼやいて睨むのは岩のかたまり……じゃなくて大蛇の魔獣だ。岩みたいな鱗でビッシリと体を包んだのが、ボクらが道に使えそうな場所に顔を出してるんだ。


「ビッグスが気づかずにいたら、俺はバクンと丸のみにされてただろうな……」


「目立つ見張りを別のところ、見える位置に配置してくれてるから危なかったな。まったくイヤらしいことだ」


 ビッグスさんが指さす先には、ジッと動かずに足元を見張って立つ、大きな鳥型の魔獣がいる。目力強いそれで目を引いておいて、こっちが隠れて進もうとしたら大蛇の口の中へようこそっていう寸法みたいだ。うん、なかなか恐ろしいフェイントだよね。


「で、問題はホントにこの二段構えでおしまいなのかってことと……」


「見えてないの込みで、見張りの目全部から隠れて進まなきゃならんってことな」


 洞窟全体が何度も繰り返しにびりびり震えてるっていうのに、まったく怯えもせず、静かに獲物を待ち続ける巨大鳥。アレだってボクらが気づける場所を任されてるだけで、置物なワケが無いんだ。

 そう思ってボクらが道すじを考えている前で、立ち尽くしていた魔鳥が突然に動いた!

 振り下ろした、のかな? 残像を残して上下した頭は、そのくちばしの中から爆発の音と炎の赤い光を洩らす。


「あれって、やっぱり……」


「……別の工作班の連中が餌食になっちまった、ってコトだよな……」


 ボクが迷って言葉にできなかったことをウェッジさんはあっさりとはっきりさせてしまう。


「で、アレが真面目に見張り仕事してるのははっきりしたわけだが、どうするよビッグス」


「気づいた見張り魔獣は迂回するしかないだろう。同じ轍を踏むかもしれないのに強行突破するのは反対だ」


「チェッ……もうすぐそこだってのに、だがこういうトコでのビッグスの判断に間違いは無いからな」


 ビッグスさんは犠牲になった班の皆さんを最悪の未来図として、それを避けようと迂回を提案。これにウェッジさんが悔しそうに、名残惜しそうに標的の門を見るけれど、相棒の判断を信頼して迂回路探しに足を向ける。けれど結局ボクらはこの場で足踏みさせられることになってしまった。

 こちらに向かってくる金属の黒豹、クァールズを見つけちゃったからだ。

 全身メタルの巨体なのに音もなく滑ってるみたいにこっちに来るクァールズの動きには迷いがない。たぶん近くで見張ってたんだ。それであの爆発の音を聞き付けて来たんだ。その途中で唐突にヒラリ舞い上がると、着地した前足を持ち上げる。それで赤いものを滴らせて爪に引っ掛かったのを眺めて、その金色の目をチカチカとさせる。


「ははーん。なーるほどなるほど。勇者チーム全員と人間の軍勢で正面突破と見せかけといてってーワケか。ならさっきのとコイツら、それだけなワケはねーよなー?」


 くすぐるようなリズムの言葉とこの目の輝きに、ボクの体はたまらずに震えちゃう。

 あれはきっと、たぶんボクらがこの場に居ることに気づいてる! どうしよう、どうやってやり過ごしたら? それよりクァールズに勘づかれたのに城門を壊したりなんてできるの? もうライブリンガーに危なくなったって、突撃してきてもらった方がいいんじゃ……って違う!


「ど、どうしたのビブリオ!?」


「大丈夫、気にしないで」


 弱気の虫を叩き潰すのにセルフビンタをしたのに、ホリィ姉ちゃんがギョッとなる。結構ヒリヒリするから赤くなってるかもだけど、全然平気だから。むしろこの痛みが目を覚ますのに欲しかったから。

 ライブリンガー達を助けに頑張ろうってここまで来たのに、ライブリンガーを頼るなんて台無しじゃないか!

 たしかに今ボクらはピンチだけど、だから勇気の振り絞りどころじゃないか。ボクらの勇者ならこんなピンチにどうするのか、それを考えて見習わなきゃだろ!

 そうだ、ライブリンガーなら躊躇したりしない。進むか戻るか、踏んばるのか。やれる、やるって心を決めたら怯まないし、ためらわない!


「みんな、ボクに考えがあるんだ、お願い」


「ええ任せて」


 ボクの考えがどんなのか聞く前に、姉ちゃんがうなずいてくれる。それにビッグスさんとウェッジさんも了解だって。これがあんまりに早すぎてボクが逆に固まっちゃったのに、三人ともが微笑み返してくる。


「ビブリオができるって思ったなら私はそれに応えるだけよ」


「賢者様直弟子の頭の回転、期待してるからよ!」


「圧を掛けるなよ。とにかく、俺たちもビブリオの考えに賭けるが、ビブリオも俺たちに賭けていてあいこだ。だからこの策がどう転ぼうと、その結果は俺たち全員のものということだ」


 それぞれがそれぞれの言葉で力づけてくれる三人に、ボクは抱き着いてしまいたくなる。けれどやってる場合じゃない。

 クァールズは走り回ってるわけじゃないけど、もうずいぶん近いんだから。

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