91:聖獣合体! その名はミクスドセント!!
「すまない、遅くなった!」
仲間たちで満員になった車体を急がせ、迷宮から飛び出した私は、その勢いのままチェンジ。右手にロルフカリバーを。左腕を肩まで使って仲間たちを抱えた姿勢で構える。
「おおライブリンガー。任せてくれていて良かった、と言いたいところだが、急いで駆けつけてくれて助かったぞ」
「え? 誰!?」
遅参した私に空から応えた声の主に、ビブリオとホリィが揃って誰何の声を上げる。
知らないシャープなバトルマスク、知らない鋼の巨体であるから無理もない。
しかしよく見てみれば、頭に繋がった大きな白いウイングに見覚えがあるし、右肩の獅子、胸の竜も仲間たちの顔の片割れだ。ということはつまり――。
「合体、出来たのか?」
「うむ、聖獣合体ミクスドセント、とでも名乗ろうか。グリフィーヌの尽力に助けられて土壇場に、な」
名乗りながらミクスドセントは長柄の大斧を一閃! 自分を狙う強大強烈な光の塊を弾き飛ばす。
なんということだ。三つの力が束ねられて、さらに力強く頼もしくなっているじゃないか。
この強力な味方の誕生をグリフィーヌも支えてくれていたのか。
「そうだグリフィーヌ!? 彼女はッ!?」
無事を訊ねる私に、ミクスドセントは三つの武器を束ねた大斧でその答えを示す。そこには傷ついた翼を振るい、稲妻の刃を放って迫る敵の手を切り払うグリフォンの女騎士が!
「ライブリンガー、あのままじゃグリフィーヌが!?」
「ああ任せてくれ! グリフィーヌ、合体だッ!?」
「分かった!!」
仲間の救出を求めるホリィにうなずいて、私はロルフカリバーを手放して車へチェンジ。向かうべき場所へタイヤを回す!
「ロルフ、グリフィーヌの援護を……」
「承知! 拙者にお任せあれ!」
みなまで聞くまでもないとばかりに、ギュンと飛んでいくロルフカリバー。私も同じように空を直進して行ければ速いのだが、そうもいかない。行きがけにやっていかねばならない事もあるからね!
「無理に前に出るな、結界の境目を常に意識しろよ! ライブリンガーも来てくれた! ラヒノスと結界を盾にして、近づけさせなければそれでいい!」
そんなわけで正面には、結界に取りついて破りにかかる鋼魔軍と、それをさせじと迎えうつガイアベアのラヒノスを先頭にマッシュが指揮を取る人類連合軍の衝突が。
「クソが! 生意気なクマ公とうざったい人間どもがッ!? 安全圏からチクチクチクチクとよおッ!?」
猛牛戦士は翻弄され通しで押すに押せぬいら立ちにまかせ、鋼のボディから炎を噴き上げる。そのままぶちかましにかかろうと構えるのに、私は躊躇なく突っ込む。
「ラヒノス! ハンマー、マサカリッ!」
ベタ踏みアクセルの勢いに乗せてチェンジした私の指示に、ラヒノスは体を揺さぶって背負った工具を放り出す。私は熊の背を飛び越えざまに求めた工具を掴み、これをクレタオスの脳天に叩きつける!
「ごぁ……てめ、ふいうち……」
「皆はラヒノスと一緒にここで!」
「わっほい! 任せてよ!」
クレタオスのくぐもった呻き声、仲間たちを代表したビブリオの返事を背に受けて、私は前に。
そうはさせじと魔獣たちが行く手を塞いでくるが、私はこれに鎚と斧を叩きつけ、道をこじ開ける。
「マキシビークルッ!!」
脳天の揺れに傾いだ魔獣を踏み台にジャンプ。合わせてマックスボディを構成するビークル二台をコール。地響き二つが響く中を私はグリフィーヌを迎えに急ぐ。
彼女の側からもこちらに向かってきてくれているが、大物バンガードの砲撃やクァールズのものらしい妨害が激しく、飛行コースが乱されてしまっているのだ。
「うおっとぉ! グランガルト! 自慢のパワーでライブリンガーを、いやデカいボディになるの、どっちか止めてくれって!」
「んん? どっちにいけばいい?」
「どっちでもいいから! お前の止めたい方で!」
「わかったー」
戦いの最中にしては気の抜けたやり取りに続いて、グランガルトはマキシローラーに真正面から体当たり。なんとこれを止めて見せる。
「うおおー……お・も・い・ぞー!?」
「まさかッ!?」
鋼魔水将の力を軽く見ていたつもりはないが、しかしこの計算違いは頭が揺らぐような気分だ。
だがしっかりしろ私! ショックでふらついている暇などないぞ。
自分に言い聞かせ、頭を切り替えた私はハンマーと斧とを鋼の大ワニに投げつける。
これがギリギリの拮抗を崩し、グランガルトは「あいたー」と声を上げるや、マカダムローラーに巻き込まれて車体の下へ。
しかしその直後、マキシローラーの巨体がぶわりと浮き上がる。これまたなんと、グランガルトが真下から跳ね上げたようだ。
なんとも立て続けに予想外、計算外れの行動をしてくれるものだ。だが、これは逆に好都合!
「いくぞグリフィーヌ、飛翔合体だッ!!」
「ここからか? ええい、出来ると見込んでのことだろうがッ!!」
「拙者に任せて行ってくだされ!」
グリフィーヌは私の無茶振りにぼやきながらも、ロルフカリバーの後押しも受け、機体の核から湧き出す朝焼けの輝きを纏って加速してくる。それを迎えるようにマキシローラーとローリーが円の軌道を描いて合体シーケンスに。
マックスボディのパーツに変形完了したマキシビークルズに、カーモードの私がサンド。それと同時にマキシマムウイングと化したグリフィーヌが背中にドッキングする!
ああ……満ち足り、みなぎる……! 飛翔合体をすると、元気になれるなぁッ!?
直に伝わる感極まったようなグリフィーヌの叫びの通り、私の側にもジョイントした背中から彼女の内に秘めたエネルギーが満ちる!
「ライブリンガー……マキシマムウイーングッ!!」
機体を一繋ぎに、共鳴して溢れるエネルギーに任せて両腕のローラーを回転。稲妻迸る反発エネルギーを拳と共にぶつけあい、名乗りを上げる。
「ウッゲェーッ!? ちょいちょいちょい、噂の羽持ちライブリンガーになられちまいましたぜ!? どうするよ近衛殿!? てか、助けてー!?」
完成したマキシマムウイングを見て悲鳴を上げる黒豹斥候を正面に、私は思い切り地面を踏み込む。合わせて背中の翼がスラスターを噴射、鋼の巨体を強烈に押し出す!
散々に追いまわして地に落とそうとしてくれた礼はさせてもらうぞ!
そんなグリフィーヌの報復に燃える思いも受けて、電撃付き破壊竜巻を帯びた右スマッシュ。大きく吹き飛んでいくその軌跡を目で追うことなく、振り向きざまにシールドストーム。ショットランスとそれに続いたエネルギー砲を受け止め弾く。
そのまま私たちはウイングのスラスターを全開に守りの嵐を盾に押し返していく。
「来てくれロルフカリバー!」
「承知ッ!」
声を揃えた私たちの呼び声に威勢の良く応じて狼の剣が右手に。
すかさずしっかと掴んだこの刃に、クァールズを殴り飛ばしてなお旺盛に荒ぶる雷電破壊竜巻をまとわせる。
そして弾幕をシールドストームで押し開けたところへサンダーブレード上乗せのバスタースラッシュを一閃。分厚い刃から伸びた鋭い破壊竜巻の刃は歩行要塞めいた超巨大バンガードの背甲と首砲台の数々を斬り飛ばした。
まだだ! メインの首がッ!
グリフィーヌの経験も繋がり伝わっているので、甲羅の上部分ほとんどを斬り飛ばしても気を抜かずに翼の翻しでもって体ごと刃を返して大亀の頭にも刃を!
しかしそうはさせじとディーラバンの放った槍が私へ迫る。
対してロルフカリバーに巻きつけた破壊竜巻を拡散し、振り回す勢いで広がった余波で迎え撃つ。が、槍の穂先を叩き落すバスタースラッシュの幕を四方からの砲撃が貫いてきた。
私が装甲が焼かれるのに耐え、どこからだと探って見つけたのは、なんとこちらを取り囲むように浮かび上がった目の無いヘビたち。そう、切り飛ばした甲羅に宿っていた砲台役のだ。
本体と切り離されたにも関わらず、それらは機敏に空中を滑り、口から強烈な熱線を浴びせてくる。
まさか最初から集合体だったと。甲羅から生えたように見えた首の一つ一つがそれぞれバンガード化された魔獣だったということか!?
全周囲を完全に取り囲まれた形ではあるが、この程度で音を上げてはいられない。
プラズマショットとショットタイプのサンダークローも用いてこじ開けた道に、飛行砲台の二、三基を体当たりに撥ね飛ばして包囲を離脱。飛行砲台たちは当然脱出させまいと追いかけてくる。が、その大半が海が飛んできたかのような水のハンマーに叩き潰される。
「ミクスドセントかッ!?」
この援護に合体した三聖獣を見れば、彼はその目を明滅させる。
この目配せから私はすぐさまに反転。合わせて放ったバスタースラッシュを、狙いをミクスドセントに向けたバンガード砲台たちの残りと、その本体を叩きつける。
これでバンガードたちの目がまたこちらに集まり、追跡が始まる。
大小様々な熱線が飛び交う中、私は網の目を抜けるようにかわしながら両腕のローラーと翼から暴風を放つ。おおいに気流を乱すこの威力が、バンガードらの飛行を妨害し、時には墜落までさせる。
それでも命令があるためか、飛行砲台のバンガードたちは懸命に私の軌跡を辿ってくる。そして私に追いすがるままに、本体である大亀バンガードがこちらを見上げる位置に集団がくる。
「いい配置だ。流石だな!」
そしてそれを一直線に結んだ先。そこには大斧を担ぎ必殺の構えを取るミクスドセントが。そう、私は彼と目配せの一瞬で打ち合わせ、囮としてあちらが全力全開の大技でまとめて蹴散らすお膳立てを整えたのだ。
「トライフォース・スマッシャァアアアッ!!」
大上段に構えた大斧が振り下ろされ、それに打ち出されるように三色の光の玉が。三角陣形を組んで渦巻く三つの力の塊は、進路上にあるあらゆるものを磨り潰して進んでいく。それはつまり要塞じみた亀のバンガードと、その直線状にある飛行砲台の群れをだ。
実は私たちもまだ射線上に乗っていたのだが、マキシマムウイングのパワーとスピードは、巻き込まない充分な位置にまで機体を運んでくれる。
「まったく、凄まじいパワーだな」
距離を開けてもビリビリと装甲を震わせる破壊の余波に、私は戦慄さえも感じる。
そんな私に向かって、墜落するなどしてミクスドセントの大技から逃れて生き延びた飛行砲台数基が突っ込んで来る。
これを大振りに打ち払ったものの、その
爆散に紛れて後続のものが突っ込んで――私が刃を返すよりも早く爆発四散。
「勝ちの気分に浸るのが早すぎたようだな、ライブリンガー?」
「ああ、助かった。いや指摘の通り、恥ずかしい限りだ」
かの三聖獣の力を束ねたのであるから、その必殺必勝の一撃が怖ろしいほどの威力に至るのにはなんの不思議はない。そして同時にその心根も頼もしい味方であることは揺るがない。
空中で背中合わせになった私たちは、結界と勇気ある友たちを打ち破ろうとする鋼魔の手先たちを打ち払うべく、内からみなぎる力を纏って降下するのであった。




