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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第一章:邂逅
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9:立ち向かうのならば共に!

「そこの異形の馬車! 貴様が我輩の計画を台無しにしてくれた出来損ないかッ!?」


 コウモリのシルエットが上空でわめきたて、またもエネルギー弾を落としてくる。


 攻撃と共に降ってくるこの声には、聞き覚えがある。

 予知夢と言うべきかなんと言うべきか、遠い鋼魔の動きを見聞きすることのできたあの不思議な夢の中で。


 だが夢の中で見た声の主は、羽こそ生やしていたが、全体的には山羊であったはず。


 そんな疑問をこねている間に、コウモリ型の影は攻撃を繰り返しながら徐々に高度を下げて近づいてくる。


 鋼魔参謀バルフォット……だったか、その声で話すコウモリは、大きく開けた口の中に鏡のようなモノを収めていて、そこに映った山羊頭が私のことを睨み付けている。

 つまりあのコウモリは、通信モニターつきのドローンのようなものなのだ。

 全容が見えてしまえば、何の事はない種明かしだった。


「その通りだッ! 友の暮らすこの村を、鋼魔の手に落とそうという計画など、絶対に許せるものかッ!? それを見過ごすくらいならば、私は貴様ら鋼魔にとっての出来損ないで構わんッ!!」


 偵察ドローンと揃って両目をチカチカさせながら、一方的に言うバルフォットへの反発のままに私は叫び返す。


 これにコウモリの口の中に映るバルフォットは、怒りの色で顔を染めた。

 が、私の姿を改めて見下ろして、すぐに顔色を染め直す。


「フンッ! なかなかに堂々とした啖呵を切るものだな。だがその有り様は随分ではないか? 助けた人間に縛られて、それでも我輩たちに逆らうか……まったく見上げた志だな!?」


「アイツ! ライブリンガーを見下ろしておいてッ!?」


 縛られた私を嘲笑うバルフォットに向けて、ビブリオが魔法を放とうと構える。

 だがそれよりも早くマステマスさんが剣を抜いて上空を指す。


「魔法放てぇえッ! あの鋼魔の斥候を撃ち落としてやれッ!!」


 この号令に従って、兵士さんの何人かが炎や氷をコウモリ型のドローンへ向けて放つ。


「たかが人間風情が生意気なッ!」


 しかしビブリオを追い抜いて放たれた魔法たちを、バルフォットは軽く笑い飛ばしてコウモリドローンを羽ばたかせ、合わせて迎撃のエネルギー弾を落としてくる。


 だがマステマスさん率いる魔法の使い手たちは怯むことなく、降ってくるエネルギーの塊を散らすために魔法を放ち続けている。


 その一方で、唐突に私に絡んでいた縄が緩む。

 何が起きたのか。と、戸惑う私の隣には、私を縛る縄を剣で断ち切ったマステマスさんの姿が。

 なるほど、遠距離攻撃で引きつけた上で、ひそかに私を自由にして驚かせようと言うつもりか!


 そう察した私に、マステマスさんは正解だとでも言うようにウインクをして見せる。だが――。


「じゃあ、奴はこのまま俺たちで引きつけるから、村の衆連れて逃げてくれな?」


 まさかの要請に、完全に共闘するつもりだった私は肩透かしを食らって返事をし損ねてしまった。

 そんな私にマステマスさんは親指を立てて畳み掛けてくる。


「なぁに心配はいらねえさ。村の衆が逃げる時間は稼ぎきって見せるからよ!」


「バカなッ!? あなた方を見捨ててなど、出来るはずがない! 見てくれで信用しきれないかもしれない、だが私は残って……」


「信用できないのとは違うぜ?」


 食いつく私の言葉をマステマスさんが割り込み断ち切る。


「俺らの本分は国を守ること、民を守ることだ。俺が守らなきゃならん人たちを、アンタに預けたいんだよ」


「しかし、ならば……ッ!?」


「それに鋼魔に対抗出来るアンタは自由に動き回ってくれた方がいい。俺らじゃ束になったって目眩ましが精一杯……だったら、アンタにしがらみなく動けるように逃げてもらった方がいい……ってな」


「しかし、しかし他の皆さんはそれで納得が……ッ!?」


 反対意見を期待してマステマスさん隊の兵士さんたちに意識を向ける。


「相変わらずマッシュ隊長は無茶苦茶言ってくれやがる。が、隊長が決めたんじゃしょうがねえやな」


「だな。というわけで、後は任せるからきっちり仇は討ってくれな?」


 しかし私の期待に反して、兵士の皆さんは覚悟完了とばかりにマステマスさんの命令を遂行する構えだ。

 躊躇なく私に後を託すのも、私をではなくマステマスさんを強く信頼してのこと。

 その信頼は素晴らしいものである。ではあるのだが、私にはつらい。


 そんな彼らの思いを、覚悟を無碍にしてまで私がこの場に残っても良いものなのだろうか?


「それじゃ俺も加わっていっちょド派手な花火で目を引くから、その隙にな?」


 私の葛藤をよそに、マステマスさんはグイグイと話を進めてしまう。

 だのに彼らの意思を汲むべきか、否か。私の心は定まらない。


 しかし状況は、私の悩みを慮ってはくれない。

 マステマスさんたちの準備が整ってしまう。


「今だぁああッ!!」


「断る! チェーンジッ!!」


 マステマスさんの合図を拒否して私は変形。からの上空へ向けてのプラズマショット!


「な、なんだとぉおッ!?」


 魔法による目くらまし、特に一層強力なものと合わせたがためにかプラズマショットがクリーンヒット。コウモリドローンはバランスを失って墜落する。


「お、おいおい!? 俺は逃げてくれって……」


「この場で皆さんを見捨ててなど、いけるはずがないでしょう!? それに、もうマステマスさんたちが囮になる必要はない。違いますか?」


 要請に背いたことへの抗議を、私は遮る形の反論で封じる。

 プロの判断に従うべきとの言葉もあるかもしれない。だが私はマステマスさんに協力するつもりはあっても、その指揮下に入った覚えはない。

 大人しく縄を受けたりもしたが、それはマステマスさん自身が解いて逃がしている。


 詭弁ではある。力押しの暴論であることも自覚はしている。


「協力すれば何とかなりそう……実際にどうにかできた場面で、捨てなくていい身を捨てようとしているのを見過ごすことなど、私にはできませんよ」


「隊長、こりゃあ反論できませんや」


「そうそう。ここは命拾いしたって素直に喜ぶとこみたいですよ?」


 そんな私の、私ばかりに都合のいい話に、兵士さんたちはお手上げのポーズを取る。


「そうだな。ここは助けてくれてありがとうの一言しか無しみたいだな」


 これを受けてマステマスさんもため息交じりに首をフリフリ。私のわがままを良しとしてくれる。


 無事に乗り切れたこと、そして受け入れられたこと。このことに私の顔が安堵に緩む。


「浮か……おっ……れで……にものを……」


 しかしそこでノイズ交じりの不穏な声が上がる。

 その出どころは墜落したコウモリドローンだ。


「何をするつもりかは分からんがッ!!」


 ここにいる皆に良くないことが起こる。

 その確信を持って、私はさせじとプラズマショットを撃つ!

 この直撃でコウモリドローンは爆発四散。


「おお、やったな!?」


 最後の足掻きを前もって防いだと、マステマスさんは喝采をあげる。が、それはぬか喜びに終わってしまう。


「いや、マッシュ隊長……そうは問屋が卸さんって感じらしいですよ?」


「なんだってビッグス……うわマジかー」


 炎上したコウモリドローンの残骸。

 その中から煙に混じって濁った緑色の気が立ち始めている。

 この色、そして禍々しい気配には覚えがある。


「あのイルネスメタルというヤツかッ!?」


 あのオーラにガイアベアは狂暴強化させられていた。

 では今度はいったい何者が?

 そう思って身構えた私の目の前で、炎の中に輝くものが浮かび上がる。


 それはドクロだった。

 濁った緑色の金属でコーティングされた、人間の頭蓋骨だ。


 笑うように歯を打ち鳴らすそれの不気味さに、マステマスさんたちも僅かに怯んでしまう。

 一方の私は、今度こそと本格的に動き出す前にプラズマショットを浴びせ、消し去る。


「いやぁあああああッ!?」


 しかし同時に後方から悲鳴が!?

 慌てて振り返った私が見たのは、緑の金属にコーティングされた人間の全身骨格が、ホリィに掴みかかっているところだった。


「ホリィ!? 今助けに……ッ!」


 私は急ぎ駆けつけようとする。が、そんな私の足も、地面から生えた巨人サイズの緑骨に掴まれてしまっていた。

 そしてさらにマステマス隊の皆さんごとに私を取り囲むように、メタルコーティングスケルトンたちが次から次へと地面から這い出てくるのであった。 

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