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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第四章:分かたれた者
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88:封じられているモノとは

 カーモードの私のヘッドライトから伸びるハイビームが遺跡を閉ざす闇を切り裂く。

 永い永い時間誰の目にも触れず、太陽の光も風さえも受けずにいただろう遺跡の内部を暴く光の中に動く影がある。しかしそれは侵入者を排除しようという番兵のモノではなく、私たちと共に、先んじて遺跡の秘めた秘密を暴くもののものだ。


「ん、オッケーオッケー。そのまま進んでていいぜ」


「おいちょっと待てよウェッジ。もう少し慎重に確かめていかないと……」


「前人未踏で、知らない材質の床なんだから、だろ? でもまあビッグスが待ったを言い出すときは何かあるからな。どれ、どの辺がヤバイ気がするっての?」


「ああ、ソコとあとその辺り……」


「ふんふんふん……って、俺の足元もじゃねえかよ、もっと早くに言ってくれよ!」


「だから行きすぎる前に止めたんだろうが」


 馴染みの斥候コンビであるビッグスとウェッジは、やいのやいのと言い合いながらもビッグスの指摘したポイントを洗い直していく。石とも金属ともつかぬその奥に仕込まれた仕掛けを暴いていくその手際は、双方反発しそうなほどに異なる性格でありながら、ガッチリと噛み合う程に息のあったものだ。


 侵入者を拒む罠がつきものの迷宮を進むということで、そういった方向に対応できる斥候コンビを先頭に、ビブリオとホリィを乗せた私とその横にロルフカリバーが、さらに続いてグリフィーヌ、セージオウルというのがただいまの私たちの隊列だ。

 罠の対処といっても迷宮そのもののサイズが私たち鉄巨人組が余裕で歩き、武器も振り回せる程だ。規模違いが過ぎて対応できるものかと正直心配になった。だがここは本職に頼ってくれとの主張に押されて、折れて任せることになった。技を備えた仲間に頼るのは何も悪いことじゃないしね。うん。


「ねえライブリンガー。もうこれでいまどれくらい進んだの?」


「ああ、ちょっと待っていてくれ」


 斥候コンビの仕事を待ってる間せっかくだからと、助手席のビブリオの問いかけに、私は運転席のホリィにも見えるようにマップを表示。すると二人はモニターに映った図に声をあげて目を剥いた。


「うわ、ナニこれ?」


「すごい、こんなにビッシリ……」


 それは細かく複雑に編み込まれた網の目の拡大図……などではもちろんなく、入り口からこれまでに私たちが通った通路のリアルタイムデータだ。

 数えきれないほどの袋小路に当たって作ったこのマップデータは、この遺跡が非常に緻密な迷宮として作られていることを示している。しかも所々が太い根で破られ、土砂と合わせて封鎖されているので、設計者や建設に携わったものさえも、完全な案内をするのに調べ直しは必須となるだろう。

 そんな私のタイヤと視覚のログが作り出したマップを、ホリィは最短距離を探るように指で辿る。


「こんな複雑な迷宮、いったい誰が何のために……」


「んー……やっぱり大事なものを守るため、じゃないかな? 伝説の時代の遺産……ロルフカリバーになった天狼剣みたいな!」


「拙者のような? であれば、きっと殿か賢者殿たちの力になるものでしょうな」


「……それは、どうだろうなぁ……ホッホウ」


 しかしビブリオとロルフカリバーの予想に、白い老賢者風な鉄巨人から否定的な声が上がる。

 飛ぶには高さが足りないので、人型モードで後に着いてきているセージオウルの壁を見つめての言葉に、同じく女騎士モードのグリフィーヌが首を捻る。


「なぜビブリオたちの予想が違うと?」


 根拠を尋ねるグリフィーヌに、セージオウルは梟の杖の先を壁にかざす。

 その先端、梟の両目から放たれた光は、壁を照らすだけではなく紋様を描き出す。その紋様は私の作ったマップデータ。今まさにモニターに出しているのと寸分違わず同じものだ。その地図を私から借りたものだと前置きしてから、翼ある賢者は自分の予想を語り始める。


「この迷宮の作りはむしろ、侵入者を拒むよりも、脱出を防ぐような、何者かを閉じ込めるための作りのように思うのだ」


 セージオウルが説明するように、複雑な分岐の折り合わせで作られたこの迷宮であるが、はち合わせる分岐の複雑さは確かに奥へ進むよりも、内から外を目指した側の方がよりややこしくなっている。

 床も真っ直ぐではなく緩やかな傾斜を描いており、常に地上か地下へ向かうようになっているのだが、安易に地上へ向かおうとすると、行き止まりにぶつかったり、ループ路に誘い込まれたり、下り坂でより地下に向かったりするようになっている。

 侵入調査する側としても、仮に秘密を掴んでもその成果を持ち帰る方が難しい。行きは良くとも帰りの恐ろしい、そんな作りだと言えるだろう。


 地図を用いての解説に納得したのか、ビブリオをはじめとした面々は真剣な顔でうなずいている。


「なるほどなー……でもさ、ボクらは大丈夫だよね。こうやってライブリンガーがバッチリマッピングしてくれてるんだから」


「ああ、任せてくれ。帰り道はしっかりナビゲーションして見せるから」


「うむ頼もしいな」


「頼りにしてるわね」


 ビブリオにグリフィーヌ、ホリィの信頼が嬉しい。こうも寄せられてしまうと、なんとしても応えたくなってしまうじゃあないか。


「ところで賢者殿、この遺跡が封じて閉じ込める、そのためのものであるとして、その封じられたものの事は分からないので?」


「それについてはホレ、ここにも警告があるでな」


 核心に踏み込んだロルフカリバーの質問に、セージオウルは杖の先から放つ光からマップを消して、照らすだけのものとする。するとちょうどその範囲に、扉に刻まれていたものと同じ絵を組み合わせた古代文字の列が現れる。

 セージオウルが警告文だと呼ぶその内容は意訳すると以下のようになる。


――ここもはお前の来るべき場所ではない。言うまでもなくこの先も。名を綴るのもおぞましき災厄よ、帰るがよい。永劫なる眠りの中に戻れ。――


「これは……引き返さないとヒドイことになるぞって、おどし?」


「不吉な文言、だけれど……でもどちらかというと私たちに、というよりは……」


「脱出しようとする者に向けたモノのようだね」


 この警告文から迷宮が何者かを封じておくため、目覚めた場合に閉じ込めておくためのものだという推測の信憑性がさらに高まる。

 こうなると「名を綴るのもおぞましき災厄」なるものの目覚めのきっかけになったり、仮にもう目覚めていたとしたら遭遇してしまわないために、迷宮に深入りはすべきではないのかもしれない。


「……ホッホウ、引き際を見誤らぬよう、程々のところで調査を切り上げた方が良いだろうな」


 私と同じく危険な予感を感じたのだろう。セージオウルの引き際に注意しようという意見には私も賛成だ。


「しかし、その災厄とやらがどれ程のものか、そこは興味深いな」


「奥方!」


「分かっている。ここにいる仲間たちばかりか、地上の人間たちまでいらぬ危険に晒すつもりはないさ。力を計り楽しむどころでは無くなるからな。しかし、危険らしいとしか分からぬ今のままでは、構えようも何もないじゃないか」


 深入り厳禁と決めはした。だがグリフィーヌが言うことにも一理ある。

 地上に出してしまっては良くない、危険な何かが封じられているらしいと分かった。これはひとつの成果だ。しかしそれが具体的にどんな災いなのか、きちんと封じられているままなのか。その辺りをどれかひとつでもはっきりさせておいた方がいいのは間違いないだろう。


「そうだね。もう少し調べてみよう。しかし最優先は、全員が無事で戻ることだ」


「ああ。もちろんだ」


「ええ、命を大事にね」


 安全最優先、慎重に調査は続行。この私のまとめた方針にホリィとグリフィーヌに続いて私の内外の仲間たちが揃って了解と賛成してくれる。


「さて、それではもう少し奥まで進んでみることにしようか。慎重にね」


「そういうことなら、ビッグスが待ったをかける頻度がグンと上がると思うんで、歩幅のデッカイ皆さんは、しばらく待って俺らの合図があってから動いてもらう感じのがいいんじゃないかね?」


「それなら先行して罠を探るのも私のヘッドライトが届く中にしておくれよ? あんまり遠く暗くに離れられると、いくら私たちの歩幅でも厳しいからね」


「んー行けるんなら行ける限りに調べたいってのが信条なんだけどなー」


「いやだから、その行ける限りをライブリンガー殿が指定してるんだろうが」


 慎重に行くと言っただろうがと、ビッグスが相棒に頭をフリフリ突っ込む。


 それとほぼ同時に突然に床が揺れた!?


「なになに、地震!?」


「いや違うね、これは……」


 不意打ちの振動に、ビブリオが私の中で目を白黒とさせる。しかし襲ってきた振動はほんの一瞬のモノが複数ほぼ同時。これは地震ではない。


「ガードドラゴ、ファイトライオ、何があった? 襲撃か?」


 私と同じ結論に達したのか、セージオウルは地上に残っている聖獣チームと繋ぐ。合わせて私たちとも通信を同調させ、朝焼け色の石の持ち主全員が地上からの返事を聞けるようにしてくれる。


「その通りだ。奴らとんでもない大型のを寄越してきたぞ!」


「ソイツが遠くからぶっぱなして来やがったんだ! それが結界にぶち当たって割れたのが地面をぶん殴って揺すったんだ!」


「幸い結界は破れていない……いないがしかし、そう何発も耐えられそうにはないぞ!?」


 そうして聞かされたのは最悪の報告だ。当然の話だが、鋼魔は結界を見てからずっと対策を進めてきていて、それが用意できてしまったのだ。こうなってしまってはもう調査どころではない。急いで引き返さなくては!


「待ってッ!?」


 しかし車体を切り換えそうとしたその瞬間、ホリィが運転席ドアを叩き飛ばす勢いでこじ開け飛び出してしまう!?

 しかもそれを追いかける形でビブリオまでドアを押しのけて行ってしまった。


「ホリィ姉ちゃんッ!?」


「いや二人とも、待つんだッ!?」


 私の呼びかけにビブリオは振り返る。が、ホリィは逆に身体強化の魔法まで駆使して加速。斥候コンビをその速度のギャップで惑わしかわしてしまう。

 これにビブリオは離れていくホリィと私とを見比べると、「ゴメン」と一言残してホリィの後を追っていく。


「ライブリンガー、どうする!?」


 地上には急がなくてはならない。しかし友も見放せない。この板挟みにセージオウルは決断を求めてくる。この状況下で私が選ぶのは――。


「セージオウルはグリフィーヌと共に地上の救援に行ってくれ! 私たちもホリィ達と合流してからすぐに向かう!」


 適材適所に分散しての対応だ。


「私も地上にか!?」


「いまグリフィーヌの翼と刃を必要としていて活きるのは地上、空の方だ。頼む!」


「……それもそうだな、任された。しかしホリィ達のことは……」


「ああ、私に任せてくれ!」


 素早く分担に了解を得た私たちは、それぞれの向かうべき方向へ向けて動き出す。

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