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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第四章:分かたれた者
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86:大樹の根元にあったものとは?

「はい。これで大丈夫ですよ」


「ありがとうございました、聖女様」


「はい、お大事に。でもできれば聖女様呼びは控えるようにお願いしますね」


 ホリィによる回復魔法での手当てを受けて、元気になった兵士さんがお礼も朗らかに立ち上がる。そうして次に待っていた人に順番を渡して立ち去る彼に、ホリィもまた微笑み軽く手を挙げて送り出す。


 ここはキゴッソ王都の外縁部。都を囲う城壁のすぐ傍にある治安維持兼、食肉確保のために周辺の魔獣退治に勤しむチームの即席拠点のひとつ。特に解体所からにおわない程度に離して併設された青空応急施設だ。

 連合首脳部の集まった再奪還祝いが終わり、お客様であった代表名代の皆様が引き上げて、鋼魔との戦の最前線拠点らしい活動に戻ったのだ。

 それで今日はホリィの治療に付き添っているのであるが――。


「ホリィ……一息入れた方がいいんじゃないかな?」


「そうだよ姉ちゃん。その間はボクもいるしさ」


「……うん。ビブリオは休んで。私は平気まだ平気だから、ね」


 この調子である。

 先日のパーティの件から、心配でなるべく傍につくようにしているのだが、ビブリオと二人で勧めても聞かないくらいに手を止めるのを避けるのだ。どうしたものだろうか。


 そんな心配事を心の内で捏ねていると、ふと辺りからどよめきが。

 空の彼方を指差す彼らの視線を辿ってみれば、そこには私たちを目掛けて迫る影がある。翼とサソリの尾を備えた獅子の魔獣は、羽ばたき勢いをつけて急降下。だが慌てる必要はない。魔獣は狙い来る勢いのまま見えない壁、結界に正面衝突し弾かれる。そして跳ね返ったところをグリフィーヌに仕留められたのであった。


 彼女が仕留めた獲物を掴んでやって来るのを、襲撃にどよめいていた人々は安堵の拍手で迎える。

 この称賛を受けながらグリフィーヌは解体班に魔獣の亡骸を渡して、私たちのところへやってくる。


「仕留めたので持ってきたが、アレは人間が食べられるようなところがあるのか?」


「臭い対策をした上で我慢すればなんとか、とは聞いたことがあるよ。むしろああいうのは、皮革や甲殻、翼が素材になるのと、驚異排除の意味合いが強いんだとか」


「ああ、そういう……しかし、今度こそなにか結界を破るなり揺さぶるなりする術でも持ってきたのかと思えば、結局はまた無謀な野良魔獣の突撃で、拍子抜けだな」


 グリフィーヌの言うように、キゴッソ城をあっさりと明け渡して以来、鋼魔側からなにも動きはない。

 牽制を命じられた誰かしらがバンガードを率いて来るでもなく、工作を仕掛けて来るでもなく、追加の交渉を持ちかけて来るでもなく、なにも無いのだ。


「おかげでこっちも準備に専念できるから、それはいいとは思うけど……」


「斥候に行った人も野良魔獣しか見つけられてないっていうのは不気味、だよね」


 鋼魔がおとなしいようだからそれでいい、とは行かない。そのビブリオたちの意見に私もヘッドライトでうなずく。


「うん。同胞のために手放したとはいえ、そのままにしておく理由はないはずだからね」


「ディーラバン個人ならともかく、鋼魔王が人類連合攻撃の布石とせずにおくはずがないからな」


 このグリフィーヌの意見に私は深く同意を示す。

 人類種の滅びを望むネガティオンが何を狙って私たちにキゴッソ城を明け渡すのを許し、さらには静観し続けているのか。その辺りがはっきりしないことには不安を拭いきることなどできない。


「城部分はともかくとして、大樹としては潰さずに守り確保してきていた風なだけに、余計にね」


「しかし聞き出そうにも、ディーラバンはその理由を黙して語らずに交渉を終わらせて、以来まったく姿を現さないからな……」


「大樹に何があるのか……それは調査の結果待ち、しかないわけだね」


 お客様を招くに当たって一通り調べはしているが、巧妙に隠された罠が残っていないとも限らない。それも奪還祝いのパーティが野外になった理由のひとつである。

 確実に城内が安全であることを確かめるため、後回しになってしまったところを重点に整備と平行した入念な調査が都中で行われているのだ。


「ライブリンガーにグリフィーヌ!」


「殿ー! みなさんこちらにお揃いでー!」


「おやビッグスとウェッジにロルフカリバー? 今日はセージオウルと一緒に調査チームだったはずだが?」


「さっそく何か進展があったかな?」


 呼びかけに振り返れば、こちらに駆けてくるデフォルメウルフナイトと馴染みの斥候コンビを迎える形に。


「殿、大事おおごとですよ! 賢者殿がスゴい、スゴそうなのを見つけたので至急来て欲しいと!」


「スゴそうなの? ビッグスさん、いったい何を見つけたっていうの?」


「遺跡だよビブリオ。記録に無い、城の地下に続く穴が空いてたのが見つかっただろ? これは何かあるって賢者殿が特に力入れて調べてた穴。その奥に壁画でビッシリの壁が見つかってな。で、賢者殿の魔法も使って穴を広げたらそれがまたバカでかくてな」


「大樹の地下の巨大な遺跡か……」


 ビッグスの説明を聞いた私はビブリオとグリフィーヌに目配せ。次いで私たちと同じように遺跡発見の報告を聞いていたホリィをチラリと。

 調査の必要性と私自身の興味もあるとして、ホリィも関心を寄せているようだ。彼女の気分を切り替えるためにもいいきっかけではないだろうか。

 ビブリオたちも同じ考えのようで、私の考えを後押しするようにうなずいてくれる。


「ではここに集まった人たちの手当てが済んだら行こう。ホリィも、もちろん来てくれるだろう?」


「それはまあ……私も行きたいけれど……」


 私の誘いにホリィはしかし躊躇いがちだ。まあやりかけの仕事を、それもケガ人の治療を放り出して行くというのはためらわれることだろう。責任感のあるホリィならなおさらだ。

 そんな後ろ髪引かれる様子のホリィに、グリフィーヌが背後をふさぐように回り込む。

 

「なんだ、つれないじゃないか。我らは共に歩み、空を征くのではないのか?」


「そうだよ姉ちゃん! ボクもいっしょに頑張るから、みんなをしっかり素早く治して、ライブリンガーといっしょに行こう! ていうか、姉ちゃんがいっしょに行けるんじゃなきゃボクも行かないからね?」


「グリフィーヌ、ビブリオも……」


 同行以外の選択肢をふさがれつつあるホリィは私に視線を向ける。が、私も同行を求める側なのだが?


「何も急ぐことはないさ。今集まっている人たちのケガをきちんと治した上で、次の治癒に回るまでに、私たちと一緒に凄い遺跡とやらを見に行く。それだけなんだからね」


 こう言えばホリィはその青い目をぱちくりと。そして困ったような笑みを見せてうなずいてくれる。


「……分かったわ。ありがとう」


 ホリィの色よい返事に私は内心で胸を撫で下ろす。ふとその一方でビブリオがジトリとした眼をグリフィーヌと私の交互に向ける。


「でもグリフィーヌ、共にって言う割には、こないだはライブリンガーといっしょになって自分達だけで残って、ボクたちのこと撤退させたよね?」


 過日の殿の件を持ち出されると痛いな。

 グリフィーヌと声を揃えてでうめき声が出てしまう。


「うぐ、それはその……全員で生き残る可能性が少しでも高い方向をだな……」


「……でも奇跡の復活が無かったらここにいなかったよね?」


「うぐぅ……ッ!?」


 ビブリオの言う通り、全員無事だったのは本当にただの偶然。運が良かっただけだ。そんな転がり込んできた結果だけを前にして、全員無事だから問題なし、とできるほど、私たちのメンタルは図太くない。

 しかし、この件については謝りはしたし、ビブリオたちも必要なことだったと認めて、受けいれてくれたはずなのだが。やはり、そう簡単には許すことはできないと、そう言うことなのか……!


 私たちがそんな思いでうめき悶えていると、抑えた笑い声が漏れ出ているのが聞こえる。それに意識を向ければ、ビブリオとホリィが揃って堪えきれぬ笑みを溢していた。


「あーゴメンゴメン。フフッ……ちょっと冗談言って困らせちゃおうって思っただけだったんだけど、イジワル過ぎたみたいだね。ゴメンよ」


 愕然としていた私たちに、ビブリオが笑い声混じりに冗談のつもりだったとネタばらし。

 これにグリフィーヌはメタルのクチバシを苦々しく歪める。


「まったく、冗談がキツいぞ」


「まあ、先にやってしまったのは私たちの側なのだけれども、それでもなぁ……」


 からかわれたことに不満を唱えはしたものの、きっかけは私であるので、これ以上は言わない。幸いビブリオたちもこれであいことしてくれるつもりのようで、私の車体をぺちぺちとしながら笑っている。


「それじゃあともかく負傷者の手当てをしてから向かうことにしよう。少し待たせてしまうことになるが、案内はそれから頼むよ」


「承知しました殿」


 というわけで私たちは皆で足並みを揃えてから、セージオウルの調査成果だという遺跡に向かうことになるのであった。

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