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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第四章:分かたれた者
80/168

80:まとまりがないにもほどがある

「ヒャッハー! 手柄だぁーッ!!」


「ひゃっはー!」


 巻き上がる破落戸ならずもの感満載の声と土煙。それを引き連れて先頭に立つのはフルメタルな炎の猛牛と青いワニ。鋼魔破将クレタオス、そして水将グランガルトである。


 手下として従えた魔獣を引き連れて、防衛拠点から打って出てきた彼ら。私は木々を蹴散らして獣道を拓き広げて迫るそれを正面に、通常形態にフィッティングしてくれたロルフカリバーを正眼に構える。

 そんな私の隣で、大盾を前に迎撃の構えをとるのは、青の水竜騎士ガードドラゴだ。

 私たちが壁役となって後衛に回した仲間たちを守る。そういう陣形だ。


「一番前に出てきた最高の手柄首! 今日こそ俺がもらうぞッ!!」


「なんだとー!? おれだって負けないんだからなー!?」


 この私たちの構えを真正面から踏み潰し、呑み込んでやろうとばかりに、クレタオスとグランガルト、それと彼らに従う魔獣たちは加速する。


「スプラッシュバッシュッ!!」


 そして充分に相手方の勢いが乗ったのを見計らってガードドラゴが竜の盾を押し出し、水流を発射!

 怒涛のごとき鉄砲水に、クレタオスもグランガルトも面食らって急ブレーキ。しかし引き連れた魔獣の群れの後押しもあって、勢いが緩むわけもなく、スプラッシュバッシュと正面衝突に。

 威勢のいい破落戸セリフと入れ替わりに悲鳴が上がる。が、強烈な水流はそれもろともにメタルと生の魔獣軍団を容赦なく飲み込む。


「おれに水はきかなかったぞ、そういえばー!」


 しかしスプラッシュバッシュを真っ向から突き破って大ワニの顔が現れる。


「ちょっと、待て俺を置いていくなッ!?」


 飛び出したグランガルトの作った水の裂け目からクレタオスが遅れて飛び出す。

 炎の力を打ち消すだろう水の力を嫌ってか、水流から逃げるように飛び出した猛牛はグランガルトを踏み台にして私たちへ。


「な、何をするーッ!?」


「へッ! おかげで一番槍に突っ込めそうだぜありがとうよッ!」


「ぬがー! そんなことさせるかーッ!!」


 追い越しにかかるクレタオスの行いを許せぬと、グランガルトは猛牛の尻に食いついた!


「アッーッ!? クソッ! 邪魔すんなこのッ! 放しやがれッ!!」


「はなすもんかー!」


 スプラッシュバッシュの第二波の前に突っ込もうとするクレタオスと、抜け駆けなどさせるかと噛みついて足を引っ張り続けるグランガルト。

 そうして引きずりをし続けたままズルズルと進もうとする彼らだが、それには及ばない。


「二人とも、頼んだよ」


「わっほい、出番だね!」


「ええ、任せて!」


 私の合図にビブリオとホリィは力強く返事をするや練り上げ準備していた魔法を発動。

 冥の精霊から力を授かり、バースストーンでもって増幅されたその魔法は進撃する鋼魔の足元を割る。


「うぇい?」


 クレタオスの間の抜けた疑問符と一緒にその足が空を掻く。そして人にとっては広く、私たちにとってはそれほどでもない幅の裂け目にフルメタルの重みは引かれて落ちる。

 比喩ではなく、本当に裂け目から現れた影の手に引っ張られてだ。

 それに食いつきくっついていたことで、グランガルトも合わせて裂け目に。

 かかるだろうとは思っていたが、また見事に釣られてくれたものだ。


「うおッ!? しまっ……」


「いよっしゃあ次はオレ様だぁッ!!」


 足を取った罠への驚きの声に被せて飛び出したのはファイトライオだ。

 獅子戦士はもう我慢できないとばかりに、私たちの壁から躍り出るや、左右それぞれに握った燃えるタテガミの斧をクレタオスたちに叩き込む。


「うぎゃぁああーッ!? ちょ、ま! おい待てぇい!?」


「やめ、やめろーッ!?」


「オラオラオラァーッ!!」


 自由に動けなくなったところへの火炎斧滅多打ち。これに頑健、屈強、力自慢な鋼魔コンビも待ったの声を。

 しかしこれは盤上遊戯でなく戦闘である。当然ファイトライオのラッシュは緩まない。


「なあ二人とも、ここで私たちに降伏しないか?」


 そんな滅多打ちにされているクレタオスとグランガルトに、私は降伏勧告を行う。詰めた砦に問いかける前に向こうから打って出てきたので、聞くならここしかないだろう。


「ぐあ、クッソ……これでもう勝ったつもりかよ!? 何度聞かれようがお断りだッ!」


「ううー……ライブリンガーなら、悪いようにはしないだろうけどー……でもネガティオン様がコワイからダメだー!」


 意地か魔王への畏怖か、理由はそれぞれながら鋼魔二人は降伏の勧めをはねのけてくれる。

 グランガルトが悪いようにはしないだろうと見てくれていることは嬉しいことだ。そうなると、もうひとつくらいは粘って説得したくもなるというものだろう。


「悪いようにしない。私をそう信じてくれるなら、ここはもう一歩踏み込んで預けてはくれないだろうか。人々からの当りに厳しいところはあるだろうが、私たちと共にネガティオンに立ち向かって……」


「だから、これで勝ったつもりかって言ってんだッ!? 俺らが用意した魔獣がさっき押し流しくらったヤツらだけだとでも……」


 私の説得を遮り、伏兵や後詰めを匂わせるクレタオス。だがそのセリフは、少し離れた森の上を跳ぶ黒豹の姿に詰まらさせられる。


「やっちまったやっちまった。探りついでにちょっかいかけるつもりだったってのに、様子見に出した魔獣どもがモロに返り討ちで全滅食らっちまったい」


 それはそうだろう。

 私たちとて、常に全員攻撃全員防衛の全力布陣で前進し続けているわけではない。

 セージオウルは頻繁に拠点防御の留守居役を志願するし、加えてもう一名の飛行能力持ちであるグリフィーヌは空から異変を見て、それに対応してくれている。

 結界と合わせれば、相当規模の別動隊で当たってようやく揺さぶれるレベルになっていることだろう。


「はぁッ!? クァールズお前ナニやってくれちゃってんのッ!?」


 迅将クァールズの聞こえよがしの一言に、クレタオスがショックで目を激しく点滅させる。

 しかしその時にはすでにクァールズの隠密色をしたボディは木々の影に潜ってしまっている。


「お前らが俺に黙って勝手に出撃しちまったから、俺も勝手に奇襲を仕掛けさせてもらったってだけだぜ?」


「それで失敗しちゃ世話ねえだろうがよ!?」


「ハッハッハ、お互い様でな」


 クレタオスは当てをご破算にしてくれたクァールズに怒鳴るが、その相手は姿を隠したまま声を、気配を遠ざけていく。


「あー……どうするよライブリンガー。なんかもう雰囲気じゃない……ってーか、オレ様が哀れすぎてタコ殴りがし続けられる気分じゃなくなっちまったんだけど。ふん縛っとくか?」


「ん? ああ、そうしよう。捕虜にしてしまえば説得のチャンスもあるだろうからね」


 目覚めてまだそれほどでもないファイトライオからすれば、鋼魔との因縁はまだまだ積もっていない。憐れみと慈悲が勝ってしまえば、斧が鈍るのも無理はないことだろう。

 グランガルトについては説得の目も無しではなさそうだし、この場で討ち取ってしまうばかりが正解でもないはずだ。


「クッソ!? なめやがってッ! 魔獣ども助けろッ!!」


 しかしクレタオスにすればただ見下されたとしか感じられなかったようで、反発のままに脱出の手助けを求めて吠える。


 この命令を受けて、ドラゴの水流に押し流されたはずの魔獣たちが起き上がり、私たちに向かってくる。それに合わせて、私たちの背後からも来た!


「わっほいッ!? 何で後ろから、挟み撃ちの形になるのさ!?」


「きっとクァールズが引っ張ってたのよ! 殿をやらせてたのが逃げてきたんだわ!」


 まず間違いなくホリィの言う通りだろう。

 全滅といっても、本当に最後の一兵が倒れた状態を指すものではないし、そこまで付き合い続けるクァールズでは無いだろう。


 それより問題なのは、今ビブリオとホリィを含む私たちが魔獣の集団に挟み込まれつつあるということだ!


「頼む、ロルフカリバー!」


「承知!」


 合体している場合ではない。と私はロルフカリバーを後方からの者たちへ向けて手放す。合わせてロルフカリバーはみるみると巨大化、肉厚な刀身とデフォルメ騎士にチェンジする柄とに分離。道を塞ぐ我々を突き破ろうと突っ込んできていた魔獣を正面から撥ね返す。

 これで大きく勢いが削がれた間に、私はビブリオたちを背後にかばう立ち位置に移動。さらいすかさずのプラズマショットとスパイクシューターで、前進をやめない魔獣たちの群れを叩く。


「クッ!? 行かせるか!」


「しぶといヤツらだな!」


 一方のドラゴとライオはビブリオたちを挟んで逆側、クレタオスらに従っていた魔獣を引き受けてくれる。


「がんばってライブリンガー!」


「私たちも手伝うから」


 ロルフカリバーが圧し切り、竜の盾が受け、獅子の二丁斧が焼き切って、私の拳とスパイクが魔獣たちを撃ち抜く中で、守られてばかりではないとばかりにビブリオとホリィの魔法が飛ぶ。


「二人ともありがとう、マキシビークルッ!!」


 二人の作ってくれた隙に乗じて、私は巨大マカダムローラーとタンクローリーを召喚コール。私たちを挟む二つの群れそれぞれの上に落とした!

 そしてそのまま合体のために呼び寄せるでなく、手当たり次第に魔獣へ突撃させ、集団を踏み荒らさせる。

 進行方向の私たちが崩れることなく受け止め、加えて集団の中心からローラーが均し、ローリーが巨大なタンクを引っ張って暴れたことで、魔獣たちはとうとう戦意を失って散り散りに逃げ出す。

 そこで逃げる魔獣の一匹にサンダークローを浴びせて、グリフィーヌが空から降りてくる。


「ライブリンガー! 皆も無事か!?」


「やあ、グリフィーヌ。私たちは問題ない。ただ、肝心の相手には逃げられてしまったがね」


 私がそう言って視線を向けた先は、クレタオスとグランガルトがつまづき填まっていた裂け目だ。そこにすでにフルメタルの巨体はない。挟み撃ちからの乱戦に乗じて、この場から逃げ出していたのだろう。


「追いかけるか?」


「いや、深追いはやめておこう。まずは予定していた拠点の制圧と確保をすすめよう。グリフィーヌには続けて空から警戒を頼むよ」


「それは任されたが。いいのか? 後回しにしても」


 追跡の申し出を断れば、グリフィーヌはうなずきながらも念押しに確認してくる。それに私は首を縦に振る。


「ああ。私に少し考えがあってね。セージオウルと詰めてそれを次に試してみたいんだ」


「……ライブリンガーなら大丈夫だろうが、考えがある……とのセリフを聞くとそこはかとなく不安な気持ちにさせられるのはなぜなのだろうな?」


 うむ。解せぬ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「いい考えがある」と言い切られると逆にフラグに聞こえてしまうから、 ライブリンガーならきっと大丈夫! だといいなあと思います。
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