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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第一章:邂逅
8/168

8:喜んで縄に打たれよう……そういう趣味はないが

「あ、そこはもっとしっかり固定した方がいいですよ。それとタイヤにも。馬車の車輪感覚で輪留に板を噛ませるだけでは、私には乗り越えられてしまいますから」


「あ、ハイ……」


 ただ今、私ライブリンガーは車モードに折り畳んだ体に縄を打たれている最中だ。

 だが、どうにも手緩くて拘束としてはポーズにもならない弱さであるので、思わず助言をしてしまった。

 まさか縛られてる側から緩いと言われるとは思っていなかったのか、軽装の鎧に身を包んだ兵士さんの顔がひきつってしまう。


 鋼魔族を探して村へやって来た彼らであるが、本命の目的は私ではなくウィバーンだった。


 最前線であるメレテ国境、イナクト辺境伯爵領の境にある砦の守兵である彼らは、山を越えて領土を侵犯したウィバーンの姿を確認。

 それを追いかけて村へやって来たのである。


 ビブリオとホリィ、フォステラルダさんをはじめとした村人たちは、彼らの目から私を隠そうとしてくれた。

 私はなにも悪いことはしていない。それどころか村を守るために戦ってくれたのだから、と。


 恩を返そうと、庇おうとしてくれる皆の気持ちが嬉しかった。

 目の洗浄液がたまらずに溢れ出てしまったほどに。


 だが私は断った。

 皆の情は嬉しかったし、厚意はありがたかった。だがここで鋼魔もどきとして名乗り出ないわけには行かなかった。


 私のことを隠しだてしたとして、村に悪印象を残すわけにはいかないからだ。

 なんの落ち度もない、偶然に軽く終わっただけで甚大な被害を受けるかも知れなかった村と、そこに生きる人々がいらぬ悪評をかけられていいのだろうか。いいや、そんなはずはない!


 それに私にも、記憶にある限りやましいことは何一つない。

 誠心誠意に向き合えば、いずれ私が敵ではないと納得して貰えるはず。

 自分から名乗り出たのはその第一歩だ。


「……これくらいの拘束でいいのですか? まだ動こうと思えば少し身動ぎするだけで外せてしまいそうですけれど」


 なので誠実に、拘束の不確かなところを指摘していっているだけだ。何もおかしいことはない。


「マッシュさまぁ~……助けてくださいよぉお~」


 しかし、私の捕縛を担当している兵士さんは、縋るような目で上官に助けを求め始める。

 解せぬ。


 この弱々しい声に応じて、マントを羽織った黒髪の騎士さん、マステマス・ボン・イナクトと名乗った人が近づいてくる。


「はいはいっと、あー……ライブリンガーだってか? 協力的なのはよぉ~っく分かったから、ちょいと手心を加えてくれな?」


「と、言うと?」


 私の疑問にマステマスさんは困り顔で半歩退いて背後への視線を通してくれる。


 するとマステマスさんや兵士さんたちを凄い目で睨んで唸り声を上げているビブリオがいた。


「助けに来たはずなのに、あんな感じで睨まれ続けちまって、いたたまれねえったらねえからよ」


「なるほど。それは確かにつらい」


「だろぉ? 俺だってこの村を守ってくれたお前を頭っから疑ってるわけじゃねえんだからよ……」


 そう言ってマステマスさんがやれやれと肩をすくめていると、フォステラルダさんが近づいてくる。


「だったら、最初っから縛ったりしなきゃいいんじゃないのかね」


「そりゃあいちいちごもっとも。ですがね……こりゃ必要なポーズですよ。鋼魔の侵略の手をはねのけてくれたっても、こんな鋼魔っぽい見た目のを納得を待たずにほったらかしにしたとあっちゃあ示しがつかんでしょう?」


 頭から疑ってはいない。ウィバーンたちと戦ったこともあるだろうに、そう言ってくれるマステマスさんだが、彼に従う兵士さんたちの中にも私への疑いの目が露骨な人がいる。

 実際に戦って仲間が犠牲になっているのなら、信じられないと警戒する兵士さんたちの反応が多数派になるだろう。


「宮廷の毒蛇どもに知られちゃあ、今すぐにでなくても余計なちょっかいをかけられるか……勇者様が勇者様だって、何とか証明、納得を勝ち取らなきゃあ大手を振って、とはいかないか……」


「仮に証明できて、民の大多数にも受け入れられたとして、そうなったらそうなったで重石はデカくなりそうですがね」


「ああ、めんどくさい話さね」


 揃って似たような未来予想図にたどり着いたのか、フォステラルダさんとマステマスさんは、揃ってげんなりと項垂れる。


「お二人は随分と親しいようですが、古くからの知人なのですか?」


「ああ、伯母上で甥っ子なんだよ。似てねえ?」


 私の疑問に、マステマスさんはフォステラルダさんに顔を近づけて見せる。

 しかし似ていないかと聞かれても、正直なところピンとこない。はっきり共通してると言えるのは黒髪黒目の色合いくらいだろうか。


 対してフォステラルダさんは寄ってきた甥の顔をうるさげに押しのける。


「あんまりペラペラ喋るもんじゃないよ。一応は何もかんも放り出して出ていった身の上なんだからさ」


「そりゃまあ、口に出す相手と場所は選びますよって。ウチが割れないようにって伯母上の思いやりを台無しにはしたくはねえですからね」


「妖しいもんだが……せいぜい気をつけてくれよ?」


 二人には何やら複雑な事情があるようだ。だが血縁は間違いなく、険悪な間柄ではなさそうだ。

 それどころか親密だと言えるだろう。


 そう言えばここはイナクト辺境伯で、マステマスさんはイナクト姓。そしてフォステラルダさんは彼の伯母、ということは……うん。どうにもこの辺りには、気安く踏み込んではならない背景があるようだから、突っ込むのは止めておこう。


 ともあれ二人を、特にマステマスさんをフォローしようと、不服顔なビブリオとホリィに意識を向ける。


「預かってくれるのもこのマステマスさんだし、何より私が納得してのことだから、マステマスさんたちのことは責めないであげて欲しいな。頼むよ」


「悪いようにはならねえようにするからさ……ここは俺に免じて、しばらく堪えてくれな?」


 私の言葉に乗っかって、ビブリオをはじめとした強く反発する村人たちに許しを求める。


 しかし、ビブリオは唇を尖らせて、ホリィもうつむいてはいるが不服そうだ。


 この反応に、マステマスさんは困り笑いを私に向けてくる。


「また随分と懐かれたもんだな?」


「ええ。嬉しいことに……」


「この二人にこんだけ懐かれるってことは、本当にただいいヤツか……でなきゃとんでもなく狡猾な役者のどっちかってことになるが……」


「ライブリンガーがそんなヤツなワケないよッ!?」


「俺だって本気で言っちゃいないさ。だが、オレの勘だけで大丈夫だってゴリ押しにするのは、ちょいと乱暴すぎるだろ?」


 マステマスさんは冗談半分に言っていたが、彼に従う兵士さんたちも含めて、私が潜入のために芝居をしているのではと心配する人がいるのは事実だ。

 そんな疑いを払拭するには、まだ時期尚早の証拠不十分なのだ。

 こう理解を求めるマステマスさんに、ビブリオは反発の目を逸らしながらも、うなずくことはしない。

 それはホリィも同じくだ。


「それで、ここで勇者様を捕まえておいて、どうするつもりなんだい? このまま縛って村で見張り続けるだけってことはないんだろ?」


 頑なな養い子たちの態度に、フォステラルダさんはため息をひとつ。そして具体的な考えをマステマスさんに求める。


「ああ、はい。それはまあ。とりあえずは陛下に村の防衛の功も含めて余さず報告するとして、その御裁可を待たなきゃですね。正直、ライブリンガーの存在が存在なんでねぇ……」


 マステマスさんが苦い顔で言いよどむとおり、私がらみは現場の考えのみで判断してよい状況ではない。

 最高責任者である王様を蚊帳の外にしておけるものではない。


「それはまあ当然として、それだけで足りるかね?」


 そんなマステマスさんの考えは必要であると認めながら、フォステラルダさんはもう一声とアイディアを求める。


「そう……ッスねー……もう一つなんか、ライブリンガーに誰も無視できないドデカい戦功があれば、そいつを土台に立場を組み立てることもできるんでしょうが……」


 マステマスさんの言うように、私の立場を補強できる功績があればいいのだろうが、そうそう都合よくそんなチャンスが転がっているはずもない。


「ここは、最前線の砦に隠れてもらって、いい具合に武功と兵士たちの支持が集まるまで待つ……ってのが賢明ッスかねぇ」


「私のために色々とありがたいのですが、そんなことをして大丈夫なんですか?」


「そうだな。押しも押されぬ証を立てられる前にバレちまったら、ヤバいかもな。最悪、鋼魔との内通者扱いをでっち上げられるかも?」

 

 私のためにそんな危ない橋を渡らせるわけにはいかない。

 別のアイディアは無いのかと声を出そうとした私を、空からの光弾が遮る。


「なんだッ!? 敵かッ!?」


「ライブリンガーッ!? ライブリンガーは平気なのッ!?」


 マステマスさんたちが敵襲かと警戒を強める一方、ビブリオたちは撃たれた私の事を心配してくれる。


「だ、大丈夫。私の事なら平気だ……それよりも本当に敵が……?」


 ビブリオたちを安心させるため、私は無事であることをアピール。同時に何が起きたのか上空に目を向ける。


 すると晴れ渡った青い空に、小さなコウモリのようなシルエットが浮かんでいるのが見えた。

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