７６：急行、そして激突！
「急がなくてはッ！！」
ああ、出遅れた上に誘導エネルギー弾をバラまいての足止めまでされてしまって、これで加速に回す力の出し惜しみなど、出来るわけがないッ！
ああ、頼むこれ以上ネガティオンの好きにさせてはおけない。ヤツがメレテを破壊するよりも早く、誰かが打ち倒されてしまうよりも前に追い付かなくてはッ！
心と体を一つにしたままの私とグリフィーヌであるマキシマムウイングの私は、鋼魔王という最悪の敵増援を向かえているだろうメレテ王国の都を正面にフルパワーで飛ぶ。
グリフィーヌに吊るされて飛ぶのとは訳の違うスピードは、景色をぐんぐんと後ろへ流して、目的地を近づけてくれる。
やがて正面に人の都の白い城壁と、その手前で毒々しい緑の輝きを溢れさせた、白い鋼鉄巨人の背中がハッキリと。
あんな膨大なエネルギーがばらまかれては、メレテに住む人々はひとたまりもないぞ！
それはつまり、あそこで鋼魔別動隊に対処しているだろうビブリオとホリィも死んでしまうということだッ！
「間・に・合・えぇええええッ！！」
その許せない未来予想に、私は無意識に叫んで加速していた。
今までもフルパワーの最大速度で急いでいたつもりだったのに。と、思わないではないが今この瞬間は絞り出せた余力があったというのは好都合。
さらに勢いをまして大きくなるネガティオンの背中へ、クロスブレイドを叩きつけに。
しかしネガティオンはとっさに振り向きながら高めたエネルギーを私の正面に。
クロスブレイドと同じ反発するエネルギーを重ねて練ったパワー。
同質の力同士の衝突は激しい爆発を生じ、私のマキシマムウイングボディを吹き飛ばした。
濁流じみた爆風の中、私はどうにか空中でバランスを取ると、宙返りに跳ねるようにして知っている気配の方へ向かって飛ぶ。
「ライブリンガー！？」
「無事だったのね、やっぱり。良かった……」
「ああ、どうにか健在だ。そちらこそ、無事でなによりだ」
はたして、背中にかけられたこの声は二人の友、ビブリオとホリィのものだ。
ブレスとシンボルの反応から、まだ最悪の事態に至っていないことは分かっていた。だが実際に声を聴いて無事な様子を確かめたのとでは安心感が違う。
一度は砕かれたグリフィーヌのことがあっただけに、なおさらだ。
「ねえライブリンガー、その羽根はどうしたの？」
「そういえばまるでグリフィーヌみたいな勢いで飛んできてたけれど、まさか……」
おっと、グリフィーヌについて考えていたら案の定と言うべきか、私をマキシマムウイングとするグリフィーヌウイングについて突っ込まれることに。
「私のことならば、心配無用だ。今はライブリンガーと合体しているだけで、機体を残して消滅したわけではないぞ」
「うわぁ！ ライブリンガーからグリフィーヌの声が出た！？」
「な、なんだか、変な感じね……」
どう説明したものかと迷ってしまっていたところだったが、グリフィーヌ自身が先回りに説明してくれて助かった。
なんの。しかし二人には思いがけないところから出た声で戸惑わせてしまったようだがな。
声だけでも聞けて安心しただろうし、じきに慣れるだろう。大丈夫だよ。
そうして安堵に和んでいた私たちに、爆音が割り込んでくる。
「さて、感動の再会はもう充分だろう？」
「ここまで待っていてくれたとは、意外だなネガティオン！」
忘れていたわけではないが、からかうような鋼魔王の声をきっかけに、私たちは迫る脅威に意識を向け直す。
右腕から刃を伸ばし、左腕を大砲にしたネガティオン。
その白く堂々たる巨体の足の下には鋼鉄の人型が踏みつけられて横たわってる。
まさか聖獣の誰かが！？
などとぎょっとなってしまったが、それはただの見間違いだ。第一、色は緑色で、知ってる仲間たちのものとはまるで違う。
鋼魔王の踏み台にさせられているのは、メタルワイバーンのチェンジした巨人、飛竜参謀ウィバーンだ。
いったいなぜそんな事になっているんだ！？
「……ああ、このタワケのことか？ また失策を重ねてくれたようなのでな。それも、我直々に出撃をさせておきながら、な！」
「お、お許しください、お許しくださいぃ、ネガティオン様ぁあ……ッ！」
私の戸惑いと疑問を視線と点滅のリズムから察したのか、ネガティオンは説明と合わせて部下を仕置きする足の圧力を強める。
絞り出されるような声で許しを乞う飛竜参謀の姿には哀れみを感じないではないが、彼には我々も貶められたグリフィーヌを始め、苦々しい思いをさせられている。
控えめに言って自業自得だろう。
しかしそれは横に置いておくとして、ウィバーンが失策を責められているということは、私たち側が勝ったと、ファイトライオの強奪を阻止できたということだ。
三聖獣の揃い踏み。
それを期待した私だったが、セージオウルやガードドラゴ、そして新顔であるファイトライオと、鋼魔王と戦っているはずの者たちの誰も、私の乱入に反応した声すら上げない。
「ビブリオ、ホリィ、セージオウルは？ ドラゴも、いったいどうしたんだ？」
最悪の予感に、心が凍るような感覚がある。だがどんな結果であれ確かめずには、確かめないで目を逸らすわけにはいかない。
「……よう、アンタが話に聞いたライブリンガーかい？」
そこで重々しい音と共に、今までに聞いたことのない声が。ネガティオンへの警戒をそのまま声のした方向へも意識を割く。
すると分厚い金属の入り混じった魔獣の遺骸が動いて、その下から起き上がる獅子の顔を胸にした炎の戦士の姿が現れる。
「そういうキミは、ファイトライオか！？」
「ああ。一応オレ様たちはみんな健在だぜ。無傷じゃねえのは見ての通りだが……」
獅子の戦士が言いながら立ち上がる一方で、辺りで土や魔獣に埋もれていたセージオウルやガードドラゴも各々の武器を支えに立ち上がってきている。
実際に健在であることに安堵したのも束の間、ネガティオンの左アームカノンが動く。
対して私は雷撃を上乗せしたストームホールド！
鋭く伸びた防御エネルギーは、アームカノンから放たれたエネルギー弾と反発。私たちを狙った攻撃を防いだ。
「ぎゃああああッ！？」
その際、散った拘束嵐の一部が魔王の足元にひれ伏したウィバーンを直撃。地面に半ば埋まったその身を縛って地面から飛び出させる。
ウィバーンのボディを縛った帯状の嵐は、含んでいる電撃でダメージを与えていく。
ネガティオンはそんな部下から足をどけつつ、冷ややかな目を向ける。
「貴様はそこで震えているがいい」
そんな参謀をほったらかしに、ネガティオンは私たちへ向かって踏み込んでくる。
この冷たさに私は反感を感じたままにウイングとスラスターにパワーを！
この必殺の意思と力を、私とネガティオンは振り下ろした刃越しに叩きつけ合う！
「王を名乗る割には配下に冷たすぎはしないかッ！？ ウィバーンにもだが、特にグリフィーヌにッ！！」
「フン！ 好きなようにさせているだけ有情だと思うがな？ それにこの参謀も失態は責めても、身の丈に合わぬ大それた野心を咎めたことはないぞ？」
刃と共に言葉を叩きつけた私たちは、その反動でもって、双方にわずかに間合いが開く。
しかしすぐさまに開いた間合いを詰めロルフカリバーと結晶質の刃を衝突させる。もちろん一撃だけではなく、跳ねかえる勢いを利用しての翻しでフェイントや牽制を織り交ぜた連撃でだ。
「たしかにそれがお前なりの……部下に向けた情なのだと、グリフィーヌは納得している。だが私は許せんッ！ もっとやりようはあるはずだッ！」
「それは貴様の考えで貴様のやり方だろう。我が強いられてやる義理はどこにもないッ！！」
刃の合間に砲撃と嵐の盾、さらに拳と蹴り、そして言葉を織り混ぜ、怒涛の勢いでぶつけ合う私とネガティオン。
しかし互いの主張は一方的な投げ合いになるばかりで、剣もまた譲らずに衝突を繰り返し続けるのだ。
