74:集合! 伝説の三聖獣!!
「ここからは一歩も先には通さんぞッ!!」
メレテ王都を守る壁近く。そこに降り立ったガードドラゴの大声がここにまで届いてくる。
「ホッホウ。大きな声で敵の目を引きつけてくれているのだろうが、いかんせん大きすぎるというものだ」
そんな聖獣仲間の声に、ボク、ビブリオとホリィ姉ちゃんを乗せたセージオウルが首を右に左にと回す。
ボクらが今いるのは、メレテ王都の上空。
突然の飛行魔獣の襲撃を迎え撃つ戦場の空だ。
ウィバーンの連れてきた空の魔獣の群れ。ネガティオンと分かれてメレテを襲いに行くこいつらを追いかけたボクらは、これから火の玉や魔法弾を都に落とそうってところで、どうにか追い付くことが出来た。
そこで群れのお尻にキツいキックを入れておどかしてやって、その隙に追い越して、ガードドラゴを城壁前に落としてちょうど今になる。
壁の守りに加わったドラゴの槍から飛ぶ水流と、盾から広がった壁みたいな水。これが空にある魔獣を叩き落としていく。けれど、魔獣たちも考えられないわけじゃない。落ち着いたなら自分たちは飛べるんだからって、当然高さを取り直してドラゴの守りを跨いでこようとする。
「まあそんな動きは読むまでもないことだがな。ホッホウ」
そんな軽快なオウルの声と示し合わせたように、水の守りを飛び越えようとしていた魔獣たちに電撃が絡みつく。
ドラゴを下ろすのと一緒に、あらかじめ隠して仕掛けていたサンダーウェブのトラップだ。
抜け道があるように見せかけておいて、そこに罠を仕掛けるのは基本中の基本、なんだとか。
「ええい、これだからケダモノどもは! 逸って食らいつくばかりで、無駄に溶かされる!」
電撃網にかかって、さらに水流にも叩き落とされてく魔獣たち。その先頭集団の姿に、遠くからウィバーンのものっぽい声が。
「ホッホウ……これは近場の魔獣にも呼び掛けているのか?」
「魔獣招きのさえずりですか?」
「うむ。やろうと思えば現地で戦力を賄える。これだから鋼魔は厄介よな」
神妙な色をした目を飛竜の声のした方へ向けていたセージオウルは、姉ちゃんの質問に首を縦に振る。
ボクら人間の耳には聞こえない音だから見逃しちゃうけれど、ライブリンガーやセージオウルたちなら、ヤツらが手下にする魔獣を呼び集めてるのが、敵の増援が来そうだっていうのが先に分かるんだ。
「策士気取りのアイツのことだ。私の注意を引き付けて釣り上げようという魂胆もあるのだろうが、四方八方から襲われては、いかに守りに長けた水竜にも限界もあるからな」
「うん。堀の水があるから手が届かないってことはないかもしれないけれど」
「その長く伸ばした手を操るのはガードドラゴ一人。城の守備兵と装備はあっても、一周全部の盾に回るのはひどい多勢に無勢だわ」
そんなボクらの言葉にうなずきながら、セージオウルは音もなく滑空。城前の広場に向かって高度を落としてく。
その狙いはもちろん――。
「というわけで、私たちが抑えている間に、こちらも味方を増やしたい。頼めるな?」
「任せてよ! すぐに獅子の聖獣を目覚めさせるから!」
獅子像、ファイトライオの復活だ。
ウィバーンの狙いがファイトライオなら、先回りにボクたちライブリンガー隊が復活させて、味方に付けちゃえばいいんだ。
「させるものかッ!!」
「ホッホウ!?」
その為に動いていたセージオウルに、いつの間に追い付いてきたのか、ウィバーンが上からカギ爪を突き出しながら落ちてきてた!?
背中にのせてたボクらを庇おうとしたセージオウルは急制動をかけて急降下からの爪と尻尾をやり過ごす。
でもそれはアイツにライオへの道の先を譲ってしまったってことだ。
「オウル、ボクたちここで降りるよ!」
「そうね。まずは彼を抑えてないとだもの!」
「……わかった。気を付けるのだぞ」
ボクと姉ちゃんの提案にセージオウルは一瞬迷う。けれどすぐにそれしかないかってうなずいてくれる。
それを受けてボクらはメタルででっかいシロフクロウの背中からジャンプ!
セージオウルの防御魔法の外に飛び出すや強さを増した風に、ボクと姉ちゃんは天魔法で自前防御。それに落っこちるだけの体を少しでも前に、いい場所に降りられるように魔法の風で持っていく。
守りを飛び越えて侵入したウィバーンに気づいて、逃げ出す人々が飛び出した大通り。
それを見下ろす屋根に、ボクたちは着地。一方でセージオウルは白い魔法使い風の姿にチェンジ。飛竜の戦士に姿を変えたウィバーンと風や稲妻をぶつけ合い、目眩ましの光や雲をばらまき合っての空中追いかけっこを始めてる。
いや、出し抜いて追い越すのを狙うだけじゃなくて、引きはなそうともしてるから追いかけっこっていうのはどうだったかな。
「さ、今のうちに!」
「うん!」
とにかく、セージオウルが言ってたとおり、聖獣ふたりがウィバーンたちを抑えてる間にやることをやらなくちゃ。
ホリィ姉ちゃんに言われて目的地を見たボクは、獅子の像に急ぐ。
「小娘と小僧を別動隊にかッ!?」
「やらせているからには守らせてもらうぞ」
傾いた屋根を走るボクらを狙ってウィバーンが発射してきた空気弾たち。
広がって正面の白い賢者を避ける動きで飛んだそれらを、セージオウルの杖の一振が生んだ風の波が狂わせ落とす。
でも一つ二つ特に大きく迂回してたのがその波を避けてボクらに迫る。
これにボクたちは揃って脚力を強化してスピードアップ。それでも足りない分はジャンプからの魔法の風で後押しして、三軒先の屋根まで届く勢いを足す。
これでボクたちは間一髪に空気弾を置き去りにして避けられた。
ボクらが道に使ったせいで屋根を破られちゃった家の持ち主にはごめんなさいだけれど、後でライブリンガーたちといっしょに修理するからね!
そんな気持ちを口に出すよりも、今はとにかくライオの復活だって、ボクたちは大きく屋根を飛んだ勢いを消さないようにして獅子像の広場へ走る。
その間やっぱり時々ウィバーンが邪魔しに攻撃をしてくるけど、セージオウルがブロックしてくれてるから、まぐれで通った流れ弾みたいなのだけ。
そんなのを避け続けてボクたちは大きな獅子の像の前にたどり着く。
これを見るのははじめてじゃないけど、改めてファイトライオなんだってつもりで見てみると、確かにサイズ感は石像だったセージオウルやガードドラゴとおんなじ位だって思う。
「前にはこれの前で宴をしたこともあったのに、どうして気づけなかったのかしら」
「だよね。もしあの頃にこの獅子が復活してくれてたら、どれだけライブリンガーが楽に戦えたのかーってね」
あの時にああしていたらー……なんて言い出してたらキリがない。なんてのはフォス母さんもよく言ってることだけど、もっと早くに揃えていられるはずの戦力があったんだってことになると、どうしてその時にってなっちゃうよ。
「あの時には色々足りなくてできなかったってことかもだけど、それでもね」
「それだけ獅子の復活には力が必要、という風にも考えられるわよね」
そう言ってボクと姉ちゃんはうなずきあうと、ライブブレスとメレテにいた時には無かった姉ちゃんのライブシンボルを揃って獅子像に向けて掲げる。
これまでにも、今この瞬間にも鋼魔に打ちのめされて苦しめられてる人たちを救うために。
それにボクたち人間のために傷つき戦い続けてる友達を、ライブリンガーたちを助けるために……。
そんな心を揃えて、ボクと姉ちゃんは気付けのために渡す魔力を、それぞれの朝焼けの宝石に込めていく。
「トランスファーッ!!」
そしてボクたちふたりは息を合わせて全部持ってけって気持ちで、込められるありったけの魔力を高めに高めて獅子の像にあげる!
それで力がごっそりと抜けたからボクたちはいっしょに膝を着いちゃう。けれどボクらの魔力を受け取った獅子の像は内側から爆発するみたいに光を溢れさせる。
「はぁ……はぁ……やったの?」
「お願い……目覚めて、目覚めてください……!」
とても目を開けてられないくらいのまぶしさを浴びながら、ボクたちは天冥火水の精霊神さま方に、特にファイトライオが司る火の精霊神さまに、無事の目覚めをお祈りする。
そうやってどれくらい光に向かってお祈りしてただろう。
長い間だった気もするし、気のせいだった気もする。
とにかくボクらがお祈りしてる間に、獅子の像から出ていた光は弱くなって、まっすぐに見られるようになっていく。
そうしてまず目に入ってきたのは、またまぶしいくらいの赤だ。
それまでまぶしい思いをしてたのに、それでも鮮やかに見える炎の赤。
ううん。違う、そうじゃない。
燃え上がる炎に見えたのはタテガミだ。ツヤのある金属の巨大ライオン。その真っ赤なタテガミがまるで燃える炎の輪みたいに見えてたんだ!
じゃあ火の色をしたタテガミ以外の部分はって言えば、これもまた鮮やかなオレンジ色で炎の感じ。
とにかくこれでもかってくらいの火属性のフルメタルライオンがボクらの前に出てきたんだ!
それもお座りしたその胸には、朝焼け色の石が欠けたところ無しのキレイな状態で収まってる!
「……やった! ふっかつ……復活できた、できたよ姉ちゃんッ!」
「うん! これで三聖獣が、伝説の聖獣がみんな揃ったのね!」
オウルにドラゴ、そしてライオが揃って、勇者と共に戦う三聖獣が完全復活したことに、それをやったボクと姉ちゃんはその場で抱き合う。
これで鋼魔にライオが利用されるようなことは無くなったし、伝説のメンバーが揃った以上に戦力は充実してるんだ。
これならきっとライブリンガーが鋼魔をやっつけられる。ライブリンガーを助けに合流して、そのまま一気に逆襲できるんだ!
「チクショウ! しかし、復活したならば復活したとて、やりようはあるッ!」
そんなトントン拍子なくらいに都合のいい勝ちの絵を思い描いてたボクの耳に、まだ諦めてないウィバーンの声が届く。
何か逆転の手があるみたいなこの声を合図にしたみたいに、辺りからボクらに飛びかかってくるのが。
その大きな四つ足の怪物たちは、緑に黒や白って色んな色の火を体から吹き出す虎やジャガーっていう獣を大きくした魔獣たちだ。
イルネスメタルから出た鎧もついてるからバンガードだ。復活したばかりのライオが目覚める前に取りつかせてやるつもりなんだ。ガードドラゴの時と同じに!
「そんなのさせるかッ!」
ボクはそんなウィバーンの企みを邪魔するために姉ちゃんと水魔法の槍を構える。
けれどボクらがそれを放つよりも早く、バンガード魔獣たちは飛びかかってきたのを逆に辿るみたいにして吹っ飛んでく。
それをやったのは金属製の太い腕だ。ボクらを影の下に入れるみたいに守ってくれてるその色は燃える炎の色。
炎のタテガミのライオンヘッドを胸にしたたくましい戦士が獣たちを殴り飛ばしたんだ!
「危ないところだったみたいだな、坊ちゃん嬢ちゃん! 後はこのオレ様、ファイトライオに任せとけって!」




