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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第三章:三聖獣集結、そして飛翔
70/168

70:暗殺者を振り払え!

「うわぁあああああッ!?」


 落ちてくるひも付きの鉄杭に、ボクは悲鳴を上げながらバリアを張る。

 がむしゃらにライブブレスの力を借りて魔力を広げたのが良かったのか、鋼魔のヤジリは魔力の盾の表面を滑る。

 けれどそれだけでボクの体は横へ弾き飛ばされて壁に叩きつけられてしまった。


「おいおいおい、今のまで弾くのか? 加減無しに飛ばしたんだぞ?」


 驚いたと声に出しながら、クァールズは落としてきたイカリを一気に巻き上げる。

 瞬く間にヤジリの再装填の終わってしまったのに、ボクは叩きつけられた痛みで目の前が滲むのを拭って走りだす。

 打ち身の痛みは魔法で和らげて。足の速さも強化して。それでも鋼魔の斥候が落としたひも付きのイカリはボクの行く手を先回りして土煙で塞ぐ。

 それに続けてボクの頭を狙って、もう一発の鉄杭が落とされる。でもボクは足を止めずに、自分から土煙に飛び込む!


 それならそれでってクァールズは先に打ち込んだのを巻き戻して。土に埋まっていた返しが飛び出してボクを引っ掻けようとするけれど、これにボクはマジックバリアをフルパワーで。

 先にバリアがクッションになったから、ヤジリの返しはボクの足をかすっただけ。それでも膝から下を守ってくれてた革のブーツは切り裂かれて、足の肉も引き裂かれた。


「うあッ!? み、水の精よ癒しの力を貸して……」


 熱いくらいの痛みにボクは受け身も取れずに地面を滑る。

 それでもどうにか逃げ続けなきゃって、立ち上がるためにやられた足に治す。けれどそんなボクを見下ろして、クァールズはその目をチカチカと弾むみたいに。

 チェックメイトだ。

 そんな感じの目の光を、突然横から飛んできた火の玉と水の玉が塞ぐ。

 それらはフルメタルな黒豹の鼻先で衝突。ぶあつくて濃い蒸気を拡げた。


「んがッ!? なんっだとぉッ!?」


 いきなり目の前で爆発した蒸気の煙幕に怯んだこの隙に、ボクは転がるみたいになりながらだけれど、クァールズの真下から抜け出す。

 そんなボクを迎えるみたいに正面の路地を走ってくる人たちが。あの馴染みのある動きやすさ重視の革鎧は!


「ビッグスさん、ウェッジさん!」


「遅れてすまないッ!」


「よく一対一で持ちこたえ切ったじゃねえか。やるもんだ!」


 ボクと同じライブリンガー隊の一員で、斥候を引き受けてくれるコンビだ。さっきの水蒸気の目くらましも二人が手助けに投げてくれたものだったんだ。


 ビッグスさんたちはボクが伸ばした手を取ると、一気に元来た方へ駆け出す。


「そら、おまけだ」


「ちょい足しにな」


 合わせて後ろ手に水の玉と炎の玉をポイポイと、蒸気の煙幕を継ぎ足し広げていく。

 霧っていっても湯気の固まりみたいなので、浴び続けたら火傷してしまうかもしれない。

 セージオウルやライブリンガーたちからも聞いた話からそんな風に思ったボクは、天の魔法で緩やかな空気の流れを作って、ビッグスさんたちと一緒に直浴びしない程度の幕を張っておく。


「チクショウ! 熱を含んだ霧とかうざったい目眩ましをッ!」


 これに苛立ったクァールズが鉄杭を落としたり屋根を崩したりして来るけど、当てずっぽうなそれじゃあそうそう直撃したりなんかしない。


「クソ、塞がれたか、こっちか」


「いや待て、こっちはさっき塞がれていた。そっちから回った方がいい」


 でも狭い路地なので隠れながら逃げるには便利だけど、どうしても瓦礫が簡単に積もって塞がれてしまう。さっきからビッグスさんとウェッジさんが、瓦礫の壁にぶつかるその都度にルートを更新しながらの遁走だ。


 破壊力のある魔法でこじ開けることもできるけど、それは周りに居場所を大声で知らせるようなものだ。

 迂闊にやったらクァールズにばらすだけで終わっちゃう。それじゃせっかく身を隠した甲斐がない。

 だから力任せに道をひらくのは最後の手段。切り時を見極めなきゃな切り札なんだ。


 そんな風に考えていると、また降ってきた瓦礫に道を塞がれて、角を曲がることに。

 なんだかさっきから先回りに道を潰されているような気がする。


「ねえ。大丈夫なのかな?」


「たぶん、蒸気の広がり方と、屋根の上から見えてる道からある程度の目星はつけてるんだろうな」


「俺たちは仲間と合流する方向に逃げるダロウって絞れてるだろうしな」


 そんな不安からつい尋ねちゃったけど、ビッグスさんもウェッジさんも誤魔化さずに自分達の予想を答えてくれる。

 それはボクが認められてるって実感できて、こんな状況だけれど嬉しい。

 でも浮かれてもいられない。何か手を考えないと。


「それじゃあ、クァールズも辺りが見えなくなっちゃう。それくらいにこの蒸気をぶあつく広げられたなら……ダマせる、かな?」


「そうだな。それならいくらかは誤魔化せるだろうが……」


「だが俺たちも、そんなにいっぺんに息継ぎも無しにばらまけやしないし、コントロールも良くないぜ?」


「そういうことだからやるのは言い出しっぺのボクが……危ないなってなったらお願い」


 引き受けたボクは右の手から火の玉を、左の手から水の玉を出す。

 まったく同じサイズのそれを、ボクはさらに四つ六つ八つと何ペアも立て続けに作り出していく。それを真上とそれまで走って来た道に一組ずつ走らせてく。

 もちろん壁にぶつからないように。狙って無いタイミングで交わって仕舞わないようにコントロールして。


 こんな細かい操作、片手間のながら仕事で出来るわけがない。足を止めて出来る限り気を散らさないようにしなきゃ、とてもコントロールなんかできやしない。

 実際、ボク一人だけだったら二組を動かすので精一杯だと思う。それもどうにかよたよたと、どうにかぶつけずに動かせているっていう程度で。

 それが倍でも足りない数をちゃんと動かせているのはライブブレスから「頑張れ頑張れ」って流れて来てくれる力のおかげだ。

 これが無かったらコントロールするだけでも魔力を持ってかれ過ぎて、きっとすぐに目を回してた。


 自分も戦ってて、急ぎだからって勝手に役割分担決めてボクらの納得を待ってもくれない。なのにボクらの側にはガンガンパワーを寄越してくれる。

 そういうところ、頼もしくもあるし、ありがたい。けれど……。


「ムカつくんだよねッ!!」


 そんな八つ当たり気味の声を号令にして目的地に着いたファイアボールとウォーターボールのコンビが次々と衝突を始める。

 微妙にタイミングをずらして連鎖爆発した水蒸気は、今ごろ屋根の上のクァールズをすっぽりと包み込んでくれただろう。

 ついでに天の風球も屋根より高くに飛ばして、散らばらないで熱い雲になる様にしておこう。おまけに電撃の魔法もつけて。これはダメージがあるかどうかは別で、ただハラスメントにでもなればいいや、程度のだけれど。

 やらずに出し惜しみする理由も無いしね。


「よっし、やってくれたじゃねえかッ!」


「一つ一つが俺たちが連携でつくる目くらましと同じ程度だったとしてこの数。味方を呼び寄せる追加の目印にもなるだろうしな」


「へへへ、はりきってだいぶ派手にしてみたよ」


 真上に開いた建物の隙間にフタをしたぶあつい蒸気。これを確かめたビッグスさんとウェッジさんがボクを支えて走ってくれる。

 支えるって言うか、もう完全に抱えてる感じなんだけども。ビッグスさんが肩、ウェッジさんが足を抱えたタンカ無しのタンカみたいな風で。


 これが出し惜しみがいらない理由。

 ボクがへばっちゃったり、目を回しちゃったとしても、二人がなんとかしてくれる。そう思ったから。


 そんなわけで、ボクを運びながら二人は予定してた方角の出口に向かって走っていく。

 そして飛び出したボクらを迎えてくれたのは――。


「チェンジ!」


「うぉわぁああッ!?」


 爪から飛ばす衝撃波、そしてワイヤーでもって辺りを薙ぎ払う黒い巨体の暗殺者アサシンだった。

 当然ボクらも衝撃波のせいで押し戻されちゃう。

 おまけに両脇の建物が切り崩された瓦礫が押し潰しに降ってきてる。


「大地とその底の闇の精霊よッ! 我らを降り注ぐ重圧よりお守りを!」


 早口に唱えた呪文によって、ボクらを押し潰しに来ていた瓦礫は急停止。でも後から降ってきたのに押されてズンズンと踏み込むように落ちてくる。

 それはどうにかボクらのすぐ目の前、押し潰す真上のところで勢いを失くして止まる。


 でもどうにか押し潰されずに凌いだだけ。安心するには早すぎる。


「いやいやこれも凌ぐか? 手を抜くのは止めたつもりなんだが、いや驚かされっぱなしだぜ」


 そんな拍手と一緒に、のし掛かってくる瓦礫が重みを増す。

 それは出し抜いたはずのフルメタル黒豹。クァールズと同じ声で話すこの暗殺者風鉄巨人が瓦礫のおかわりを寄越したからだ。


「く、クァールズ……どうして……!?」


「んん? どうしてってのは目眩ましが通じなかったことか? それとも逃げ道を先読みしてたことか?」


 欠けた言葉を付け足しに尋ねながら、黒豹の暗殺者は腕をひと振り。さらにボクらにのし掛かる瓦礫を積み上げようとする。


 逃げようにもボクもビッグスさんたちも重なって転んじゃっているような姿勢だ。その上起き上がろうにも、ボクでさえ這いずらなきゃいけないような高さに瓦礫がある。

 こんなの、ボクらだけじゃ無理じゃないか!?


「グゥオオオッ!?」


 そこへ太くて低い獣の声が。

 野太い雄叫びを上げて突っ込んできた巨体はクァールズに背中から襲いかかった!


「おおっと、そう言えば熊魔獣もいたんだっけか」


 でもクァールズは眼中になかったラヒノスの突撃を飛び上がって回避し、宙返り。

 それと合わせて放たれた鉄杭と体を繋ぐ糸が鋭い音を立てて大木の幹みたいなラヒノスの首に巻きつく。

 首を締め上げられた事で、ラヒノスは詰まったような声を吐く。


「ラヒノスッ!?」


「おい、マジか。これで切り落とすつもりだったんだぞ?」


 苦しみながらも振りほどこうともがくラヒノスに引っ張られて、自信を無くすとクァールズは言う。

 でも、ぶあつい毛皮と筋肉でこらえられているだけで、締め上げられて息ができてないのには変わらない。


「こらえてラヒノス、いま助けるからッ!!」


 そうは言ったけれど、そのためにも、ラヒノスの助けをムダにしないためにも、まずはビッグスさんとウェッジさんと瓦礫の下から這い出ないとどうしようもない!

 急いでるのに自由に動くこともできない。これがじれったくて、余計に焦らさせられてしまう。


 そうやってじたばたしてるうちに、クァールズは腰を落としてラヒノスにかけた紐を引っ張る。


「やめろ! やめてよッ!?」


「やめてと言われてやめるわけにはいかないんだよな、これが」


 手のひらだけでも向けようともがくボクの目の前でクァールズは、その目を弾むように点滅させながら腕に込めた力を強める。

 そこへ横合いから長いモノが、暗殺者を狙って飛んでくる。


 穂先から迫る巨人サイズの長槍に、クァールズはとっさに紐を伸ばし緩めて身を引く。けれど、手元を掠めた槍はラヒノスに絡んだ紐を断ち切っていた。


「おぉおおッ!!」


 そこへ槍に続いて突っ込んできた青い巨体がクァールズに体当たり。

 大盾からぶちかましをかけた重装騎士ガードドラゴは、竜の顔を刻んだぶあつい盾をさらに押し込みながら盾からの水流もつけたスプラッシュバッシュで暗殺者を吹き飛ばす!


「ぐあ!? くっそ! 次から次へと!!」


「ガードドラゴ、来てくれたんだ!?」


 ボクらやラヒノスを庇うように盾を構えた竜の騎士の後ろで、ボクたちは瓦礫の隙間から這い出す。


「ああ。もちろん我輩だけではないぞ」


 チラリと振り向いてのその言葉に続いて、ちょうど立ち上がったクァールズの脳天に白い稲妻が降り注ぐ。

 檻か網のように取り囲もうと落ちるこれに、でもクァールズは起き上がった勢いにブレーキをかけずにバックステップ。稲妻の囲いを外れてさらに飛び退き逃げた。


「ホッホウ。やはり逃げ足が早い。そういう厄介な斥候はここで仕留めておきたかったのだが……」


「それは贅沢というものでは、賢者様? 助けに向かった相手の窮地に間に合い助けられた。その第一の目標を果たしたことで良しとすべきでは?」


「ホッホウ。まさに女神官殿の言う通りか。欲をかいて届かぬところにまで掴みかかれば、足を滑らせるか翼を折るか、とな」


「姉ちゃんに、オウルも!? みんなを集めるのはいいの!?」


 ゆっくりと降りてくる白の賢者とその手に乗ったホリィ姉ちゃんは、ボクの叫びに安心したのと呆れたのとでハーフ&ハーフな感じに首を横に振る。


「あんなの見たら駆けつけないわけにはいかないわ。ちゃんと伝令をお願いしてきたから」


「自分があわやというところだったと言うのに、真っ先に出るのがそれとはな。類は友を呼ぶと言うべきか、まるで勇者殿だな。ホッホウ」


「そんなに無茶苦茶してるつもりはないけど……」


「言い方を不満そうにしてても顔がにやけてるぜ?」


「え、うそ!?」


 ウェッジさんに言われて、ボクは慌てて顔を隠す。

 でもこれをみんなが笑って見てるのに気づいて、ボクはからかわれてるんだったことが分かった。


「さてさて、ともかくこちらも手は揃った。人々の撤退はマッシュと姫君に任せて、我々は抑えるべきを抑えに行かねばな」


 それでボクがムッとなったのに、オウルはホッホウって話をまとめにかかる。


 あからさまな……あからさますぎるくらいな話そらしだ。


「わかったよ。行こう、ボクらはボクらのやるべきことをやりに」


 だけど、ライブリンガーに押し付けられた感じでも任されたことを果たせないんじゃダメだ。

 そんな思いからボクは我慢してセージオウルに掴まりにいく。

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