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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第一章:邂逅
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7:大工仕事の方が性に合ってるのですがそれは

 晴れ渡る空の下。

 森に臨むのどかな村で、木材を削ったり叩いたりの大工仕事の音色が響く。


 私ことライブリンガーが予見した、鋼魔族の空将ウィバーンの襲撃から三日。

 これを幸い被害者を出すことなく凌げたラヒーノ村であったが、村の境を作る柵や、戦場の近くの建物には壊れたものが出てしまった。


 現在村はそれらの修復中だと言うわけだ。


「そぉれぇ!」


 そして私も木槌を振るって、そんな修復の音色のひとつを奏でている。

 せっかくだから壊れる前より強靭に。ということで、私の担当はガイアベアが森の木ごとに突き破った柵だ。


 私が使うようにと大木から拵えられた大木槌で、太く、高い縱木を地面に打ち込んでいる真っ最中だ。


 そこへ近くを通りがかった村の大工さんの一人が声をかけてくる。


「どうだね、ライブリンガーさんそいつの使い心地は?」


「大変によろしいです。ありがとうございます」


「そいつは良かった。なにぶんこんなデカイ木槌を作るのなんてはじめてでね。都の職人ならもっと上手いことやるんだろうがな」


「いえそんな、使いやすいですよ? 重すぎず軽すぎず」


 証明するためにひとつ叩いてみれば、大工さんは「お見事」と拍手してくれる。


「ありがとうよ。しっかし、大工仕事やら畑仕事やら色々やってもらっちまってるが、ホントに手を貸してもらっちまって良かったのかい?」


「何を言います。こういうことは初めてですが、私は楽しんでやっていますよ」


 この返しに大工さんは意外そうな顔をしているが、紛れもなく本心だ。


 牛や馬の力を借りて運ぶ荷を担いでいったり、壊れた建物を修理したり、畑の土を返したり。村のため、そこで暮らす人のために働くのは本当に楽しい。

 戦える力があるから、戦わなくては守れないものがあるから、だから私は戦うが、大工仕事や畑仕事の方が性に合っているのだと思う。


 私が大きすぎて手に合わない作業はあるにはあるが、そこは大きさを活かせる方向で頑張ろう。適材適所というやつだ。


「おぉい、ライブリンガーッ!?」


「お、ビブリオ坊主の声ってことは神官様たちか。ほいじゃ俺はこれでな。道具でまた具合が良くない感じがあったら遠慮なく言ってくれな」


「ええ。よろしくお願いします」


 そうして大工さんを見送ると、入れ替わりの形でビブリオを先頭にホリィとフォステラルダさん。それに彼女が面倒を見ているビブリオ以外の子どもたちが三名の集団が私に向かってくる。


 私が道具を置いて片膝立ちになって迎えると、ビブリオは私の差し出した手に飛び乗るようにしてくる。


「やあ、ビブリオ」


「お疲れさま、ライブリンガー。休憩にしようよ」


「私たちも休憩にしますし、どうですか?」


 ビブリオを後押しするように、ホリィが昼食を詰めているらしいバスケットを掲げて見せる。


「では、ご一緒させてもらおうかな」


 そんな二人のすすめにしたがって、私は地面に腰を下ろす。

 掌にはビブリオを乗せたままにだ。


 そうして道具を手放して休息の姿勢を取った私の傍に、ホリィとフォステラルダさんが布を敷く。

 これに続いて、ビブリオ以外の子どもたちもおそるおそるといった風に近づいてくる。

 ビブリオとホリィから大丈夫だとは聞かされているのだろうが、しかし私の体格も体格だ。

 怖くないからと言われていても、ハイそうですか、というのはなかなか難しいだろう。


 だから私の方からはまだ動かないで、子どもたちが納得するまでを待つ姿勢だ。


「みんななにやってんのさ。ライブリンガーはボクたちの優しい味方なんだから」


 うん、だからビブリオそんなに手招きしないでいいから。

 それぞれのペースというのもあるし、第一顔合わせは初めてだからね?

 安心感の積み重ねがビブリオとは違うから。


「ほらーライブリンガーに気を使わせちゃってるじゃないかー」


「いや、私は大丈夫だから。ビブリオも気にし過ぎないで、急がせないであげてくれ」


 念を押す形で繰り返してしまったが、ビブリオは仕方ないなとホリィから渡された小さなパンとチーズを手に四大精霊神への祈りを捧げている。


 一回の食事としては少なすぎないかとも思う。が、それは特別村の神殿の懐事情が苦しいから……というわけではない。


 フォステラルダさんの神殿はもちろん、村だけでなく、メレテ国とその近隣に昼食という習慣が一般的でないからだ。

 昼時には仕事の合間の休憩に合わせて、軽く摘まめる程度の軽食を摂る程度で、むしろなにもお腹に入れずに、朝夕の二食だけで済ませることの方が多いのだとか。


 実際子どもたちと違って、フォステラルダさんとホリィの分は飲み物だけ。

 おやつやティーブレイクとでも言うような感じだ。


「こらビブリオ、先走って行儀が悪い! 食べ始めるのはみんなのお祈りの後だよ!?」


 フォステラルダさんの一言に続いて、残った子どもたちも目の前の糧に感謝を捧げて、ビブリオと揃ってパンにかじりつき始める。


 ビブリオ以外の子どもたちには遠巻きにされているが、この景色を自分が守ったのだと思うと感慨深いな。


「しかしそれにしても見事なもんだねえ、勇者様お手製の柵は。まるでちょっとした砦の防壁じゃあないのさ」


「そうですね先生。丸太も太くて長いものを使ってあるから高さもあって頑丈そうですし」


 そうして和んでいたところで、フォステラルダさんとホリィが揃って私の手による柵を見事なものだと褒めてくれる。


 確かに、木造の平屋ばかりの村の建物よりはずっと高く、頑丈そうに仕上がっている。

 しかし私からすると、村の人たちから見れば巨人としか言いようがない体躯と力、それと素材に任せての仕上がりなので、あまり手放しに褒められるとくすぐったくなってしまう。

 しかしそんなくすぐったさなど、問題にならないものがある。


「ありがとうございます。しかし、勇者様……と呼ばれるのはどうも……」


 それがこの「勇者様」という呼び方だ。


 ウィバーン襲撃の一件で、フォステラルダさんをはじめとした村の皆に、私の存在が明るみになってしまった。

 そうなった以上、ビブリオとホリィには隠し立てをすることは出来ず、私に関わる全てを洗いざらいに説明させられる事になった。


 とは言っても光の柱を通って出てきた私との出会いから、その風体のために密かに村でかくまうことになったということぐらいであるが。


 だが、フォステラルダさんにはその出会いのところでのある一言に目を付けた。

 それが私が通ってきた道らしい光の柱の事だ。


 ――天地が破滅へ誘われる時、光の柱より大いなる勇者現れ、聖なる獣を従え滅びへの道を断つ――


 このような英雄降臨の伝説が言い伝えられているのだとか。


 私がビブリオたちと出会ったあの日、近くにいた二人はもちろんのこと、村にも光の柱を見た者たちがいた。

 それが私が通ってきた光のトンネルだったというのは間違いないだろう。

 そこの辺りは確かに言い伝えの通りには違いない。

 軍勢でかかっても歯が立たない脅威を押し返したのもその通りだ。


「ですが私はそんな、勇者と呼ばれるような大層なもののつもりはないのですが……」


「ハハッ、でっかい図体の割りに謙虚なこったね。まあいいさ、アンタに勇者様でございって名乗る気があろうがなかろうが、アタシらにとっちゃ村のヒーローに変わりないさね! どうしても気になるってんならそうだね、守り神様守護神様とでも呼ぼうか?」


「それはちょっと……むしろ余計に大きくなってませんか?」


 大きな私が小さなフォステラルダさんに押されているのに、ビブリオは肩を震わせて笑い、ホリィまでもがクスクスと笑みを溢し始める。


「ほらなエアンナ? ライブリンガーなら心配いらないって分るだろ?」


 笑いを落ち着かせたビブリオが呼びかけたのは、一人の少女だ。

 鮮やかなブルーに輝く様なグリーンを混ぜた髪。

 首や肩、腕には同じ色をしたフェザーを纏っている。

 いや、纏っているというのは正確ではない。

 それは彼女の体毛なのだ。

 エアンナと呼ばれた少女は、色鮮やかな羽毛を生やした鳥の特徴のある娘なのだ。


「おい? エアンナ?」


 だがエアンナは首を傾げるビブリオに返事をすることなく立ち上がると、その大きな黄色い目を鋭くさせる。

 そして射貫く様な視線を投げるや、踵を返して走り去ってしまう。


「お、おい! なんだよエアンナ!? 何が気に入らないんだよ!?」


 ビブリオは私の手のひらから飛び降りると、遠ざかるエアンナの背中を追いかける。


 そんな少年少女の背中を見送って、ホリィはため息を吐く。


「気を悪くしないでくださいね、ライブリンガーさん。あの子は……エアンナは、鋼魔に攻め落とされたキゴッソの生まれなんです……」


「ああ……それでは無理もない、な」


 メレテ国や鋼魔族に関してはホリィとビブリオから多少なりとも情報は得ている。

 メレテ国も参加している対鋼魔族の人間種国家連合ヤゴーナ。

 現在の最前線を担っているのが、今私たちのいるメレテ国は、イナクト辺境伯領である。

 だがそれ以前に、鋼魔族との最前線を担っていた国家があった。

 それがメレテ国のヤゴーナ連合結成以前からの友邦で隣国のキゴッソであった。


 鋼魔族が人類への本格侵攻を始めてから一年足らず。

 その間にキゴッソ国はその全土を蹂躙され、今や鋼魔族とその下僕である魔獣たちが我が物顔で闊歩する有様なのだという。


 そんな有様の故郷から焼け出された戦災孤児に、仇もどきとにこやかに接するようになどと性急に過ぎる話と言うものだ。


「私のせいでビブリオを急がせてしまったのか……」


「いや、それを言うならアタシらだって、みんなで勇者様と一緒にって言うのを止めなかったからね。村の英雄だから分けて考えれるかもしれない。なんて軽く見過ぎたアタシのせいさね」


「いや、そもそもは私がきっかけで……」


「いやいや、コイツは母親代わりのアタシの……」


「いやいやいや……」


「いやいやいやいや……」


 そうして私とフォステラルダさんは互いに責任の抱え合いに入ってしまう。


「おぉーい! 大変、大変だよーッ!?」


 だがそれはエアンナの手を引き、慌ただしく駆けてきたビブリオの叫びに断ち切られる。


「ビブリオどうしたの? そんな血相を変えて」


「だって姉ちゃん大変なんだよ! 村の入り口に騎士様が来てて、鋼魔族はどこだって聞いてたんだって!?」


 このビブリオの報せに、私たちは思わず顔を見合わせてしまうのであった。

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