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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第三章:三聖獣集結、そして飛翔
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68:悪い知らせの大渋滞

 黒雲から降り注いでくる濁った緑色の雷光。繰り返しに叩きつけてくるこれを、私はまたダブルのシールドストームで受け止めきる。


「しかし……なんという威力……! 守りの嵐を挟んで防いでなお、腕に痺れが残るとは」


 私の守りの及ばぬところで、ガードドラゴもその盾と鎧でもって城を庇ってくれている。が、守りを司る彼であってすら、しのぎきった後には膝をついてしまうほどだ。


「これが、鋼魔の城攻めの武器ってこと……? 人間を攻めるのに、本気を出して来たってことなの?」


 痺れる私の腕に癒しの力を注ぎながら、ビブリオは不安げに空を仰ぐ。

 そこにあるのは黒々と渦巻く雷雲。濁った緑雷を迸らせ、次を落とそうと構えている雲だ。


「本気を出してきた、と言うのに間違いは無いのだろうね。だが、攻城兵器、というと……どうかな?」


 天属性の魔獣、それを無数に束ねた強力なキメラバンガード。それほどのレベルであればこの稲妻を落とすことも可能だろう。

 だがこの雷撃から感じるのは「その程度」ではない。もっと、大きく強い気配を感じさせられているのだ。


「じゃあ、いったいなんだって……」


 私の感じているただならぬもの。ビブリオはそれが何かと尋ねるが、その問いを遮るように雷鳴と、ひときわ太い稲妻が雲のなかに迸る!?


「いけないッ!」


「殿、拙者をッ!!」


 今までのはほんの小手調べ。そう確信するほどに高まる力に戦慄する私の手元に、ロルフカリバーが飛び込む。掴んだ勢いのまま振りかざした彼に、私は両腕分のシールドストームを注ぎ込み、振り下ろす!

 これは同時に雲から落ちた雷と衝突、収束した甲斐あって一方的に破られることなくその勢いを散らすことができた。


 飛び散った嵐の刃は、黒雲を大きく吹き散らして削った。だが一方で砕け散った稲妻もまた、キゴッソ城への直撃こそ避けたものの、辺りの森に落ちて木々を燃やす。


「やった、ライブリンガー! やったね!」


 辛うじて、ではあるが雷を防ぎ、その根源を吹き飛ばしたことにビブリオをはじめとした人々から鬨の声が上がる。

 だがまだ終わっていない。その確信から私は剣を正眼に燃える森へ構え続ける。


 それが正解だと言わんばかりに、炎に照らされるようにして魔獣やそれを率いるクレタオス、グランガルトの姿が露に。

 森を波立たせるように城へ寄せてくる鋼魔の軍勢が目に見えてしまったことで、雷雲を散らした歓声もすぐさま尻すぼみに勢いを無くす。


「ホッホウ、ライブリンガーよ、良くない知らせだ。先程この眼で確かめたが、城に押し寄せる軍勢とは別に、飛竜参謀の率いる別動隊がメレテ方面へ飛んでいくのが見えた。恐らくはメレテ王都と、そこにある獅子像を狙ってのだろう」


「これが陽動だってこと!?」


 悪い知らせと言うのは列を組むものなのか。無視できない動きを見せる別動隊が存在すると言う知らせに、ビブリオが悲鳴のように知らせを持ってきたオウルへ問い返す。

 しかしビブリオの言う通り押し寄せてきているのは陽動隊なのだろうが、これを放置してはせっかく取り戻したキゴッソ王都が蹂躙されてしまうのは想像に難くない。だが当然、別動隊を放置してメレテの都とファイトライオが鋼魔の手に落ちるのも見過ごせた話ではない。やはり嫌らしい所を攻めてくる。それが戦略・戦術と言うものだろうが。悩まされる側としては嘆きたくもなる。

 だが、どちらも無視できないと言うのならやることは自ずと決まってくる!


「セージオウル、ガードドラゴと共にメレテ王都に先回りしてもらえるか!? ここは私が引き受けるッ!」


 ウィバーン率いる別動隊。そして三聖獣の同胞への対処を任せて、私はジャンプ。さらにスラスターを全開にさらに高くへ機体を運ぶと、ロルフカリバーを手放して両腕を前へ。

 突き出した腕のローラーは、すでに右腕が左、左腕が右の互い違いの回転エネルギーに漲っていて――。


「フュージョン・スパイラルッ!!」


 臨界点を超えた融合反発する螺旋を、収束させることなく解き放つ!

 この膨大な滅びの力は、城壁へ迫る鋼魔の軍勢を飲み込み、その大半を吹き飛ばしていく。だが対消滅の二重螺旋は、薙ぎ払うのも半ばにねじ曲げられ、散らされてしまう。

 まさかと思い、曲げて散らされ出したその中心点をズームアップ。そうして見えた姿に、私は頭を抱えたくなった。


 フュージョンスパイラルを潰して見せた者。それはやはりと言うべきかネガティオンだ。両腕を使ってはいるが、しかしあっさりと私の最大の技を崩している。


 どこまで悪い知らせが渋滞してるのか!


 気配を感じてはいたが、こうも力を見せつける形で出てこられた私の正直な気持ちがこれだ。

 フュージョンスパイラルが破られたことでただならぬ気配を感じたのか、セージオウルとグリフィーヌが私のそばに上がってくる。これで二人とも私が見ているモノを確かめ、押し寄せている状況に絶句してしまう。


「セージオウル。これは後方へ先回りするだけでなく、一度撤退しなくてはならないようだ。例え城を捨てることになったとしても……」


「ホッホウ、同感だ。兵どもが生きてさえいれば、また奪い返すこともできるだろうからな。しかし、やすやすと行かせてくれる……とはとても思えないが」


 セージオウルの不安も分かる。

 まさかこの場のネガティオン。背を見せてしまえば根こそぎに討たれてしまっても不思議はない。


「分かっている。この場は、殿しんがりは私に任せてくれ!」


 そう言って私はもう一度のフュージョンスパイラル。ネガティオンにぶつかって薙ぎ払いきれなかった軍勢を吹き飛ばしに。

 しかしこれはネガティオンの砲撃に散らされて、魔獣たちを大きく吹き飛ばすまでにとどまってしまう。


「……ビブリオが納得するとでも?」


 私の最大の武器が通じない様を眺めながら、セージオウルは友にどう説明するのかと低い声で問いかけてくる。

 これには、死ぬつもりなのかとの意味も含まれているのだろうな。

 フルメタルの私に、死と言う言葉が適当かは分からないが。


「……ここで友のために、人々のために力を尽くさずして、何が勇者か」


 かつて世界を救ったという三聖獣。その内の二名が本来の形に目覚めて、人々と鋼魔に立ち向かう力になっている。

 しかしこの場で鋼魔王に立ち向かう者が居なければ、全てが滅びの道へ沈んでしまう。


 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。

 ならば私が、希望への道を開かずしてなんとする!


 この私の思いを汲んで、セージオウルは諦めたようにその丸い首を左右に回す。これに私は黙礼を返し、スラスターを全開に前へ!


「後は任せた! いくらか離れたのなら、人々のことはマッシュがなんとかまとめてくれるはずだッ!」


 返事を聞かずに突撃した私は、両の腕ローラーを左回転させつつ、額と胸、両腰で計四門のプラズマショットを乱れ撃ちに鋼魔の軍勢へ飛び込む。


「我が名はライブリンガーッ! 人々を守る盾にして、鋼魔に仇為す剣であるッ!! 我こそはと思うものあればかかってくるがいいッ!!」


 大声を張り上げながら、両の腕に帯びた竜巻を解き放ってのダブルバスタートルネード!

 半ばに途切れたものの、大技の二連打で崩れた魔獣の群れをさらに大きく削り飛ばす。

 このアピールに、恐慌に陥った獣は逃げるか、逆に台風の目である私を打ちのめしに向かってくるかの二つに分かれる。


 私がやるべきは、とにかく敵を引きつけて、人々が離脱する充分な時間を稼ぐことだ。その目的のため、私はとにかく広範囲に、派手に攻撃をばらまく形で向かって来るものを叩きのめしていく。


「どうした! 私を倒して見せようという、気骨ある者はいないのかッ!?」


「ここにいるぞッ!?」


 寄ってこいと煽る私に応じて横合いから突っ込んでくるモノが。

 炎を纏い、間に横たわる魔獣たちを蹴散らし迫るのは火炎猛牛のクレタオスだ。

 味方を躊躇なく蹴散らすその行為の是非はともかく、豪語するだけの威力が確かに。


「……だが丸太の的のように受けてあげるつもりはないぞッ!!」


 迫る脅威を打ち払うべく気合を一つ。迎撃のための拳を構える。が、この拳に腕に絡みつくものがある。

 それはワイヤーだ。細くてしかし強靭な、鋼の塊でさえ易々と釣り上げてしまえそうなワイヤーだ。


「ここにもいるんだよなぁ」


「ここにもだぞー!?」


「クァールズッ!? グランガルトッ!?」


 腕を縛るメタル黒豹と地面を突き破って足に食いついた鋼のワニ。

 この二体がかりの拘束に私が虚を突かれた間に、クレタオスの燃える角はもう回避不能なまでに迫って――。


「殿ォッ!?」


「ライブリンガーッ!!」


 そこで私の名を叫ぶ声と、それをかき消すほどに轟く稲妻が降り注ぐ。

 これに周囲の障害物と複雑に絡んでいたワイヤーが外れ、同時に私の手の中、縛られていたのとは逆の方になじんだ握りの感触が生まれる。

 これに出鼻をくじかれた気合を込めなおすと、私は構えもなにも無く掴んだものを腕ごとに突き出す。


「グワァーッ!?」


 これがクレタオスの鼻っ面を強かに打ち付け。分厚い牛顔の装甲が柄で歪むほどのダメージに。

 そしてカウンターで入ったダメージに彼が仰け反った間に、私を縛る足かせ、というか虎ばさみをやっているグランガルトへ切っ先を向ける。


「そいつはごめんだよー! ばいばーい」


 しかし鈍器じみた分厚く重い刃を突き下ろすまでもなく、グランガルトはあっさりと口を離して泥水を巻き上げながら地中へ。

 なるほど。水で泥化させるなり押し流すなりがグランガルト土遁のからくりか。

 おかげで盛大な泥はねを受けてしまったが、そんなことはどうでもいい。大切なのはこの場に駆けつけてくれた二人だ。


「二人とも、来てくれたのか?」


「今さら水臭いことを言ってくれるな。もはや我らは運命共同体だぞ?」


「いやまったく。殿の剣たる拙者が殿を置いていけるはずがありますまいに」


「ありがとう、グリフィーヌ。ロルフカリバー。私は仲間に恵まれたな」


 やらなければと、たった一人で突っ走った私に付き合って殿に残ってくれるとは。私にはもったいない仲間だ。


「さあ、これほどに頼もしい仲間が共にある以上、私を抜いていけるとは思わないことだッ!!」


 そうして振り被った私は、その勢いのまま両腕の反発するエネルギーを空へ。

 刃に沿って高く、長く伸びたクロスブレイドは頭上に残った雷雲を貫き散らす。

 この雲を貫くほどに伸びた刃を、私は正面の、鋼魔王がいるだろう方向へ振り下ろした!


 キゴッソ城攻めに加わっていた飛行魔獣を薙ぎ払いながら落ちていく刃。

 ネガティオン以下、鋼魔勢からの抵抗を受けながらも、そのことごとくをかき消しながら長大なクロスブレイドは落ちていく。

 そして抵抗全てを叩き斬った上で落着!

 もろともに大地を斬った重々しい手応え。これは私の内心ですぐさま勝利の予感へと変わる。が、それはあまりにも甘い見通しであったとすぐに思い知らされることになる。


 先の一撃の重みに、もうもうと立ち込める土煙。

 敵味方双方に相手の動向をうかがい知るのを遮る分厚いカーテンであるそれを突き破って迫るものが。

 周囲の空気を歪ませるエネルギーの塊を私はとっさに振り上げたロルフカリバーで弾く。

 実体は無い。そのはずであるのに異様に重たい手応えを持った塊は、私たちのほど近くにズシリと落ち、爆発。土くれを含んで叩きつけてくる衝撃波に、私たちは声を噛み殺して踏ん張る。

 しかし威力はあろうと収束した爆発がひとつ。強烈な暴風は吹き荒れたものの、ほどなく収まる。

 しかしこれに安堵したのもつかの間、緩んだその瞬間を狙いすましたかのように私へ躍りかかるものが。

 これに私は崩れた姿勢から無理矢理に踏み込んで剣を振るう。


「ほう。今のを、我が剣をよくぞ止めたものだ」


「ネガティオンッ!?」


 重く硬い衝突音から鍔迫り合いになったのは白き鋼魔の王であった。

 私の渾身の一撃を凌ぎきっていたということか!?

 そんな私の胸中を見透かし肯定するように、ロルフカリバーとぶつかった緑水晶の刃の向こうでネガティオンは笑みを深める。


「報告にあったが、いい剣を得たようだな。今度はやすやすと折れぬといいが、な!?」


 そう言って水晶刃を前腕ごとに捻ろうと力を込めたのに合わせて私も剣を回す。

 ぶつかり絡み合った力がほどけるのに合わせて私は膝を。しかしそれはネガティオンも同じく、膝蹴りは正面衝突。

 その余波で双方に体が離れたのに合わせ、ネガティオンは片腕を変じたキャノンを、私はプラズマショットをまた同時に。

 この衝突によって生じた爆風の中、私はロルフカリバーを構えてネガティオンと対峙する。


 ここから一歩もこの魔王を通すつもりはない。無いがしかし、最大の攻撃が通じないこの相手にどこまでやれるのか。

 手札に決定打を見いだせない現状に、私のボディが強張る。


「殿、拙者もかつての拙者とは違います。構うこと無く存分に力を注ぎ、振るってくだされ」


「加えて私もいるのだ。私と貴公が力を合わせれば、例え強大無比な相手であろうと勝機は作れる!」


「ああ。二人とも頼りにさせてもらう!」


 そうだ。私の手には、隣には、頼もしい仲間がついていてくれる。

 情けないところは見せられないじゃないか!

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