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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第三章:三聖獣集結、そして飛翔
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65:いい夢を見ていられる場所でいたい

「お願い、水の精霊よ。ボクの友達のために、癒しと清めの水を……どうか与えて」


 ボクが手を組んで祈ったら、朝焼け色に輝いた魔力と引き替えに、たっぷりの水がボクの上に出てくる。透き通った水の塊はぐるんと揺れて波打つと、見えない袋が裂けたみたいに落ちてくる。……と言っても、もちろんボクの頭の上にじゃなく、目の前の鉄の塊、クルマになったライブリンガーにだ。


 叩きつけるみたいな勢いで降り注いだ癒しの水が、黒いボディを洗い流して跳ねる。それでボクにも、ライブリンガーをはさんだ向こうの姉ちゃんにもかかる。


「ちょ、ちょっとビブリオ! 勢いありすぎじゃないの?」


「いいじゃない、太陽があったかいし、気持ちいくらいじゃないか」


「もう、そういうことを言うなら……私からも癒しの水を!」


「うひゃあ! ごめん姉ちゃん、コレはいきおいありすぎたってか、多すぎたよ!」


 姉ちゃんもお返しって感じにライブリンガーに落とした清め水に、ボクはすぐにごめんなさいしちゃう。


「もう、しょうがないんだから。ほら、いつまでも水遊びしてないではじめましょ?」


「う、うん、そうだね!」


 濡れた服をまくる姉ちゃんの姿にドキッとしちゃった。それで熱くなった顔を振って、ボクらは回復の水で濡れた友達のボディを、魔獣毛のブラシで拭き磨いていく。これがまた特に柔らかいのを集めた自慢の奴で、ライブリンガー磨きのために用意した奴なんだ。この前の、ガードドラゴ奪還の戦いでは塩水をたっぷりに浴びたって言うか、沈んじゃったからね。終わったすぐ後にも洗い流してあげたけど、念入りにきれいにしなくっちゃだ。ライブリンガーの体はボクらと同じように時間をおけば塞がるし、すごく頑丈だ。ライブリンガー自身も錆びたりする心配は要らないよって言ってた。けれど金属に海水は良くないって聞くし、きれいにしておくに越したことはないもんね。というか、ボクがやりたいからやってるんだけども。

 そんなわけで洗い癒す水の魔法をさらにブラシからも直流しに継ぎ足しながら、友達の疲れを落とすように手を動かしてく。

 姉ちゃんも楽しくなってきたのか始めた鼻歌もきれいで、耳も幸せな感じだ。


 それでせっかく気持ちいい感じになってたボクの耳に雷の響きが飛び込んでくる。

 もう聞きなれたけど、それでもビクッてなっちゃう大きな音に、激しい震えのやってきた方向にジト目を向ける。するとまた晴れた空にも眩しい雷の光が起こる。それに遅れてボクらの出したのじゃない水しぶきが降ってくる。これが誰の仕業かー……なんて、分かってるんだけども。


「フフ、ハハハ! いいじゃないか! ライブリンガー共々、散々に手を焼かされて取り戻した聖獣がいかほどのものかと思っていたが、いいじゃないか! いい堅さじゃないか、面白いぞ!」


「ぬぅう、そちらこそ! この速さと刃の鋭さ、相当な研鑽を積んだ手練れと見た!」


 鋼魔の、っていうかウィバーンの支配から解かれてホントの姿を取り戻したガードドラゴ。そんな彼と手合わせを楽しんでいるグリフィーヌだ。

 翼を振り回した急降下からの剣や、回り込みながら連打する女騎士に、その激しい攻撃を堅くて大きな盾と槍、それに水と重ねた大きな鎧の特に分厚いところで流し続ける竜の重騎士。

 相手の実力に興奮してるのか、その力のぶつかり合いはもうすっかり手加減なんて忘れてるみたい。もうあの辺り完全に雷つきの雨が降ってる感じじゃないか。


「ちょっと二人とも、やりすぎ! 激しくなり過ぎだよ! ボクらはまだいいけども!?」


「止めてとは言いません。でも場所を考えて、思い出してくださいッ!?」


 二人の起こしてる嵐に負けないよう、魔法も使って声を張り上げて、ぶつかり合いに盛り上がってる二人にぶつける。

 雷みたいにパワーを込めたこれに、雷剣と盾の衝突にブレーキ。そのままゆるゆると二人は間合いを取っていく。


「いや、すまなかった。ライブリンガー相手程ではないが楽しくなってきてしまったあまりに……」


「我輩も配慮が足らなかった。面目ない」


「分ってくれたなら構いませんけれど、いきなり嵐の気配がしたら、ラヒーノ村の人たちだって大騒ぎになっちゃうんですから、もう加減は間違えないでくださいね?」


 頭を下げた二人に向かって姉ちゃんが言う通り、ここはボクらの故郷、ラヒーノ村の外れだ。

 海での戦いでガードドラゴを取り戻したボクたちは、疲れて寝入っちゃったライブリンガーをグリフィーヌが運んでメレテ国にあるボクらの始まりの村に帰って来たんだ。

 ドラゴ奪還の成果は伝令の人たちが届けてくれるって言うことで、ボクらは少しのんびりしてようってことになったんだ。それでグリフィーヌの翼があれば、ボクらだけならそんなに旅に時間はいらないやってことで、ラヒーノ村で休もうって話になったんだ。それで急な話なのに、気持ちよく受け入れてくれてる母さんたちラヒーノのみんなを脅かしちゃ悪いじゃないか。


「普段からライブリンガーともやってるけど、こんなやりすぎるまではないじゃない。どうしたのさグリフィーヌ」


「うん、言い訳になるが……普段のは慣れというかリズムと加減が分かっているところがあるおかげというか、な。ライブリンガー相手の手合わせならば、こうはならなかったはず、だぞ?」


「ライブリンガーならって、そのライブリンガーは眠っちゃってるんだから仕方ないじゃない」


「無いものねだりは分かっているが……うん、面目ない」


 そう。ライブリンガーはあの戦いから眠ったまま、まだ目を覚ましてないんだ。さっきもカラダが揺れるくらいに水をかけたけど、何とも言わないし、夜道を照らす目が持ち上がったりもしない。

 パワーの使いすぎで眠っちゃうことは前にもあったし、心配だけどムリに起こしちゃかわいそうだ。だから少しでも早く目覚めるように、回復の水魔法で洗ってるんだ。


「おいおい、ほどほどにしときなよ?」


 というわけでもうひと注ぎって癒しの水魔法を構えたボクに、待ったをかける声がある。

 重たい足音といっしょにやってきたのは、頭身の低い狼の騎士ロルフカリバー……じゃなくって、彼をつれたフォス母さんだ。


「友達が心配だってのは分かるけど、そんなに体拭いてちゃふやけちまうよ……って、金属の体でそれはおかしいか?」


「まあ殿の体には問題ないでしょうが、それでビブリオ殿やホリィ殿が逆に魔力切れを起こしては殿も心を痛めるでしょうし、ほどほどにと言うのは間違いないかと」


 そう言ってうなずくロルフカリバーの体には、色々と荷物がくくりつけられてる。軽々と背負ってるけど、丸太やら水の入ったタルとか重たいのばっかだよ!?


「ちょ、先生! ロルフカリバーだって戦ってきて疲れがあるだろうに!? なのにそんな荷馬みたいな……ッ!?」


「わっほうい! いやロル君が持つよって言ってくれるもんだからつい……こりゃ悪かったね、気が利かんで」


「なんの。これくらいは軽いもの、拙者が申し出たことですので。殿がお休みの間は、拙者を代わりにするくらいのつもりでいてくだされば」


「そりゃ頼もしいね」


「なんか打ち解けてる! ていうかロル君て!?」


 いきなり親しげな二人の様子に、ボクも姉ちゃんも思わずあんぐりと口を開けちゃう。いや母さんがロルフカリバーを受け入れてくれてるのはいいことなんだけれども。そんなボクらに母さんは近寄ると、縮こまってるグリフィーヌとガードドラゴを見る。


「こんな風に頼っちゃってるアタシが言うのもなんだけどさ、この村にいる間はのびのびとやってくださいよ。思いっきり体動かすのもアリなんでね!」


「か、かたじけない……」


「ハッハッハ。話にゃあったけど、ホントに鋼魔生まれらしくない騎士様だねえ! なに、子どもらが世話になってるんだ。竜の聖獣様共々、遠慮なんて水くさいことはして下さんなってね! 村のモンならさっきくらいの雷雨、むしろ作物に祝福がもらえるって喜んでたくらいだからね」


 グリフィーヌとガードドラゴが遠慮っぽくうなずいたのに、母さんはカラカラと笑い飛ばす。

 行く先行く先でライブリンガーが遠慮したりしてたから、それが当たり前になっちゃってたけど、母さんがこう言ってくれるのは本当に嬉しいや。

 そんな風に思ってたら、母さんはグルッと腕を回してボクと姉ちゃんをまとめて捕まえてくる。


「アンタらもだよ。連合軍に混じって、それも勇者様にくっついて先頭きって働いてんだ。故郷に帰ってきてる間は凱旋してるってくらい堂々としてな」


「あ、ありがとう、先生」


 こうやって母さんみたいに言ってくれる人がもっと増えてくれたらいいのに。そうしたら、平和になったあともライブリンガーやグリフィーヌ、鉄巨人のみんながもっとのびのびと暮らせるようになるのに。そんな場所を作りたい、広げたいって、ボクは静かに眠るライブリンガーを見ながらそう思うんだ。

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