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勇者転生ライブリンガー  作者: 尉ヶ峰タスク
第三章:三聖獣集結、そして飛翔
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60:卑劣なり、飛竜参謀!

「ビブリオッ!? ホリィッ!?」


「フハハハハハッ! 自分たちの置かれている状況を理解したかッ!?」


 太い足に加えて長い尾も支えにした分厚く、重々しい深い青の巨体。その肩からは伸びるのは長い首を持つ頭が二つ。ガッチリとした背中には、巨体に比して飾りじみた翼が一対。恐らくはこれが話に聞くドラゴン型鋼魔なのだろう。

 このドラゴン鋼魔の、巨体に反して小ぶりな手の中にある渦巻き玉を成す水。その中では、赤毛の少年と金髪の女神官が激流に飲まれた木の葉のようにかき混ぜ、囚われて。


 そんな友の姿に揃って動きを止めて呼び掛ける私とグリフィーヌに、ウィバーンは宙返りに体勢を整えて高らかに笑い声をあげる。


「ウィバーン、貴様……どこまでも卑劣なやつッ!?」


「そりゃあ勝つために卑しいまでに使えるものを使えるということか? そこまで褒められたら悪い気はしないな」


 グリフィーヌの面罵にも勝ち誇るウィバーンは悠々と構えて煽り返す。

 これに翼ある女騎士はその鉄仮面のバイザーを激しく瞬かせる。


「誰が貴様などをッ!?」


「グリフィーヌ! 止めてくれッ!?」


 激情に剣を構えかけた彼女に私は慌てて待ったを。これに彼女は地上へ目を落としたことで、囚われの身になったビブリオとホリィの姿を再び認めて、苦々しげに腕の力を抜く。


「ありがとう。グリフィーヌ」


「いや、すまない。熱くなりすぎていたようだ」


 捕らえられた友人のため、無理に激情と矛を収めさせてしまったことは申し訳ない。だが私にとって、二人は掛け替えのない友人なのだ。失うわけにはいかない。


「おやおやおや? どうやら状況をちゃーんと理解してたのは勇者殿の方だけだったようだな? いやはや元はオレらの同胞だというのに情けない。今からでもグリフォン型ではなく、羽根つきの猪に作り直したらどうだ?」


 私たち相手に溜め込んだ鬱憤を晴らそうと言うのか、ここぞとばかりに煽ってくる。

 しかし、グリフィーヌは握りしめた拳に苛立ちをにじませながらも、懸命に堪えてくれている。

 友を人質に取られた上にこの物言いだ、私も憤る気持ちは同じだ。それだけに、グリフィーヌが言い返すこともなくただ耐えてくれることはありがたく、そして申し訳ない。


 そんな黙って動かずにいる私たちを、ウィバーンはリズミカルに瞬く目で眺めながら、ゆるゆると二人を捕まえている二首竜の元へ。


「いいぞいいぞ。そこまで分かっているからには、オレが次に要求することも分かるよな、んん?」


 挑発じみたこの物言いに促されるまま、私はロルフカリバーを大きく放り投げ、グリフィーヌもまた私とならんで稲妻の剣を散らす。


 もちろん私もグリフィーヌも諦めて抵抗を投げ出したわけではない。ここは大人しく従い機を窺う。それしかないからだ。

 しかしウィバーンも、私たちが従っているのはポーズだけだと当然読んでいるだろう。だが飛竜の鋼魔参謀は青の二首竜に合図を送ると、水の玉から二人を解放させる。

 案の定そのまま返してくれるつもりは毛頭無く、フルメタルの腕左右それぞれに捕まえ直させて。

 だがこれは、ビブリオたちを慮っての行動では無い。

 ウィバーンにとっても二人は私たちの動きを縛る鎖だ。溺れ死んでもらっては困るので、水の牢獄からは出したに過ぎない。すべては向こうの、ウィバーンの都合だ。


 そんな敵の思惑はどうあれ、むせ込んで水を吐き出している二人の姿に、私は胸を撫で下ろす気持ちだ。

 しかし一方で、むせる二人の様子を認めたウィバーンが改めて私たちに目を向ける。


「……さて、捕虜に取ったこの人間どもだが……ただで解放しろだなどと図々しいことは言わないよな?」


「……何を交換条件にしたいと?」


「さすがは勇者殿、話が早い! しかし、別にこちらとしてはあこぎな要求をするつもりは無いぞ? そちらがこの二人の命に見合うと、そう判断した物を寄越せば、それでこの人間たちは解放しようじゃないかッ!?」


「えげつない……ッ! それでは差し出せるものなど決まっているではないか!? これのどこがあこぎな要求でないと……どの口がッ!?」


「さーて、なんの話やら。オレはそっちが差し出せる分で構わんから、それと捕虜二人を交換しようって言ってるだけだぞ?」


 グリフィーヌの憤りを、ウィバーンは悪びれもせずにしらばっくれて流す。

 たしかに、表面上はウィバーンの言う通りではある。が、結局のところは私が友人二人の命の代価に何を支払うのか。それを明らかにさせようとしているのだ。

 安く買い叩こうとするなど、私自身が許せないだろうと見切った上でだ。


「……いいだろう」


「ライブリンガーッ!? いけない、コイツがそんな取引なんて守るはずが、二人を無事に放す誠実さなんてあるわけがないッ!」


「……そりゃあまた、ずいぶんとひでえ言いようじゃないかよ」


 ウィバーンは文句を言っているが、グリフィーヌの言う通りだろう。

 しかしそうだと分かっていても、私はこれを選ぶしか、差し出せる限りのものを差し出すしかないのだ。


「……私を、私自身と引き換えに、ビブリオとホリィの二人を解放してくれ。この通りだ」


「さすがは勇者殿! 分かってるじゃないか! その言葉を待っていたぞ!!」


 土下座に友人たちの助命嘆願する私に、ウィバーンは喝采じみた声を上げる。


「この場面じゃ罠かもしれないって疑ってようが、仲間を見捨てる訳にはいかないからなあッ!? 勇者は辛いよなぁッ!?」


 その辛い状況を作り出した張本人のご機嫌な笑い声に、グリフィーヌは拳を固く握る。

 しかし斬り捨てたいだろう激情を抑えて、私のとなりに腰を下ろす。


「グリフィーヌ、何を?」


「ライブリンガー一人を犠牲にするなど、私が許せるものか。どうしても差し出すと言うのならば、私もおまけだ」


「ほおう? そりゃあまた仲睦まじいことで。ライブリンガーには、ずいぶんと媚を売ってるみたいじゃないかよ。ライブリンガーには」


「媚とは失礼な。ライブリンガーは敬意を払うに値する好敵手であり勇者だ。それを相手に義理立てして何がおかしい」


 そうされた覚えがないのは、敬意に値しないからだ。

 ウィバーンの揶揄に、グリフィーヌは胸を張って痛烈な返しを食らわせる。

 部下を使いこなせなかった器量を非難されて、ウィバーンはざらついた調子にその目を瞬かせて舌打ちをする。


「……まあいい。どうせグリフィーヌにもフリーハンドをくれてやるつもりは無かったんだ。自分から身柄を差し出すなら好都合ってもんだ」


 そして吐き捨てるようにして、状況は自分の狙っていた形に流れているのだと、私たちと、何よりも自分自身に言い聞かせる形に強調する。


「すまない。ありがとうグリフィーヌ」


「ライブリンガーが気に病むことはないさ。貴公を打ち倒す者が現れるのならばそれは私だ。他の誰にも、ましてや友を盾に取った卑劣な策などに許すわけにはいかん! ……それに、奴の思惑は聞いていただろう? どちらにせよ難癖をつけて私に首輪をつける腹づもりだったわけだからな」


 囚われるのならば自分から繋がれに行く方がマシだ。と、グリフィーヌはそう言ってくれる。


 ウィバーンが私も捕らえたのならばグリフィーヌもと欲を出すだろうことは分かるし、刃鋭い女騎士が奪還の機を窺っている中でことを起こせるわけが無いというのも分かる。

 だが、状況から選択肢が他にないとしても、私とともに苦難に飛び込むことを選んでくれた、それが嬉しいのだ。


「……だから、ありがとうと言わせてほしい」


「フン。まったく律儀な男だよ、貴公は……」


 呆れるというか、そっけない物言いではあるが、彼女の目に灯る輝きは優しい。


「クズ鉄に男も女もあるかってのッ!!」


 そんな私たちを目掛けてウィバーンが投げつけたものがある。

 それは遠くない間合いを駆け抜ける間に縄と伸びて私とグリフィーヌをそれぞれに固く縛り上げる。そして――


「ぐわぁあああああああああッ!?!」


 猛烈な電撃を発したのだ!

 絡んだ箇所から体を貫き、繰り返し跳ね返るように駆け巡るダメージ。

 体を内側から焼ききられ、しかし縛られ身悶えもわずかにしかできない私たちはこの激しい電撃に苦悶の合唱をさせられてしまう。


「ハハハハハハハッ!! いいじゃないかいいじゃないか! いーい悲鳴じゃないかッ!? これまでさんざん痛めつけられーの、失敗の煮え湯を飲まされーので溜まりに溜まった鬱憤がスカッと晴れていくぜざまあみろッ!?」


 そんな私たちの苦しみぶりに、ウィバーンはご機嫌に高笑いを浴びせてくる。


 一方で、二首竜の爪に握られたビブリオたちが、私たちの悲鳴か、ウィバーンの笑い声を受けてか、顔を上げる。


「ら、ライブリンガーッ!?」


「んん? 目を覚ましたか? 人間にしちゃなかなかに立ち直りの早い。さすがにオレたちと最前線で戦ってきただけはあるってことか」


 スゴイスゴイと意識を取り戻したビブリオたちに向けて、ウィバーンは気の無い拍手を送る。これに対する反発に、ビブリオは動こうとする……が、当然それはかなわない。

 そこで二人はまともに動くことのできない自分たちが二首竜の手の内にいることを悟る。


「まさかアナタ、私たちを人質にライブリンガーとグリフィーヌを捕らえたとでもッ!?」


「察しがいいじゃないか……っと、この程度は見ればわかることか。そうだよ、お前らのおかげであっさりと捕まえさせてくれてありがとうよ」


「おっ前ぇえッ!? よくも、よくもッ!!」


 人質を盾にするやり口への憤り。

 そしてその人質に自分たちが使われてしまった口惜しさ。

 そんな激しい感情が攻撃的な角度を持って飛び出すに任せて、二人は魔力を練り上げる。が、ここでそれは悪手だ!?


「いかん――」


「おおっとぉ? まだ無事でいたければ大人しくしておけよ? 敵と裏切り者を縛っておくには、お前ら二人のうちどっちかだけがいれば充分なんだからな?」


 しかし私がブレーキをかけようとするのに被せて、ウィバーンが警告。威嚇の爪を突き出しての冷ややかなこの言葉が、ビブリオたちに矛を収めさせる。

 人質にされていたのが、ビブリオかホリィどちらか片方だけであれば、捨て身な勢いで思い切った抵抗に走っていたかもしれない。

 二人が揃って捕まっているこの状況は、ビブリオとホリィにとっても片割れが人質になっている状況なのだ。

 おかげで友たちが捨て鉢に行動しないでいてくれるのは、怪我の功名とでも言うべきなのだろうか?


 悔しいことだが。悔しいことではあるのだが!

 ここのところは譲れない。二度繰り返さずにはいられないほどに!


 そんな口惜しさに歯噛みする私たちを一巡りに眺めて、ウィバーンはその目を軽やかなリズムで点滅させる。


「そうそう。焦るなよ人間ども。お前らが勇者と頼むライブリンガーと尻軽のグリフォンも、そのうちにエネルギーのオーバーロードで爆発だ。そのあとで寂しくないように確実に後を追わせてやるからな」

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